労働時間短縮と、その影響力 2

 メェクドナルドゥに入り、ハンバーガーのセットを頼み、席に着く。

 この日、キッチンにロボットがいて、ロボットが調理を行なっていたみたいだが、ハンバーガーの味に変わりは無かった。



「来週から、どのくらい影響がでてくるんだ?」


 ヤン太が席に着くなり、今日の改善政策について疑問を投げかける。


「あんまり影響でないんじゃないか?」


 キングがスマフォをイジりながら返事をする。


「まあ、うちらには関係ないでしょ」


 ジミ子も素っ気なく言う。あまり興味がないようだ。


「食べ終わったら、とりあえずニュースサイトでも見てみようよ」


 僕らはすばやくハンバーガーを食べ切ると、それぞれがニュースをチェックする。



 ニュースサイトを開くと、こんな見出しが飛び込んできた。


『自動車会社、各社値上げ。一部車種では製造中止も』


 記事を見てみると、人件費の高騰こうとうを理由に、車の販売価格が上がるようだ。

 さらに人手が足りなくなるので、人気の無い車種は、製造そのものを止めてしまうらしい。


「車が値上げだって」


 僕がみんなにスマフォを見せながら話すが、反応が薄い。

 とりあえずヤン太が返事をしてくれる。


「あー、まー、しょうがねぇんじゃねえの」


 まあ、運転免許を持っていない僕らには、あまり関係の無い話しだ。

 話題にならないので、次の記事を探そうとすると、キングがある発言を見つけた。


「おっ、ここに『次世代の素晴らしい機能を追加するので値上げ』みたいな事もいっているぜ。何かあるのかもな」


「うん、そうだね」


 僕も、新しい機能が気になったが、その内容については特に触れていなかった。

 どうやら、そのうち公表される正式発表を待つしかないようだ。



 続いてミサキがこんな記事を見つけてきた。


「うそ、あのチョコレートのお菓子とアイスクリームが値上げですって。この間、値上げしたばかりなのに……」


 ミサキがスマートフォンを見せると、そこには値上げを行なう会社が、何社も記してある。


「値上げは仕方ないとして、値上げ幅がどれも同じみたいね」


 横からジミ子が口を挟む。確かに、会社が違うのに、談合でもしたかのように、いずれも1割程度の値上げをしていた。


 この記事を読み進めると、さらに内容量も減るらしい。

 ミサキはかなりショックだったらしく、ちょっと涙目になっている。



 落ち込んでいるミサキをよそに、キングが騒ぎ出す。


「なんてこった、BAD悪いニュースだ!」


 スマフォを僕らに見せると、そこには有名なゲームの続編の、発売延期のニュースが流れている。


「楽しみにしてたのに……」


 本気でなげくキングに、僕が慰めの声を掛ける。


「いつもそのメーカーの発売は遅れるじゃない。遅れる事で定評のあるメーカーだし」


「……まあ、そうだな。気長に他のゲームでもやって待つか」


 少しだけ持ち直すキング。

 ちなみに記事にはゲームのイラストが載っているが、開発中のゲームの画面は一つも無かった。

 時期的にいえば、既に8割くらいは出来ていないとおかしいのだが……


 このメーカーは、遅れる大義名分たいぎめいぶんが出来たので、助かったのかもしれない。



 続いてヤン太がこんな記事を僕らに見せる。


「労働時間が短くなるから賃金値下げだってさ、労働組合が騒いでるぜ」


 記事にはこんな事が書かれていた。


 会社は労働者の賃金を不当に下げる事はできない。

 しかし、今回の場合は、生産量が下がり、売り上げもさがる事が予測され、賃金を値下げせざるを得ないと言う主張だった。


 確かに売り上げは下がりそうだが、実際にどれだけ下がるか分からない。


 キングはこのニュースに関連する記事を見つけてくる。


「北欧の国では、6時間労働が実施されている会社もあるらしいぜ。時間が短くなることで集中力が上がり、生産量はあまり変わらなかったみたいだ」


 どうやら企業側は、とりあえず労働者の賃金を下げたいようだ。何か名目があれば、それで良いのだろう。


 ヤン太の記事の続きを見ていると、賃金を下げる企業の名前が載っている。

 その中に、僕はある会社名を見つける。


「あっ、このお菓子のメーカー、さっき商品を値上げするって言っていた会社じゃない?」


「本当だ、お菓子を値上げするだけじゃなく、従業員の賃金もカットするんだ……」


 ミサキがあきれながら言う。


 確かに、従業員の賃金を維持するために、商品を値上げするのは分かる。

 または、商品を値上げしない為に、従業員の賃金をカットするのも分かる。

 ただ、商品を値上げして、賃金もカットするとなると……


 この会社の経営者は、かなり貪欲どんよくなようだ。



「これを見て、ツカサのお姉さんが載ってるわよ」


 ジミ子が姉ちゃんの会社の記事を見つけて来た。

 そこにはロボットの派遣社員の特集が組まれていた。


「人を雇うより割高になるけど、労働時間の上限は気にしないで良いというメリットが書いてあるわ。うーん、ほとんどロボットの事しか書いてないわね。お姉さんについてあまり触れていないわ」


 姉ちゃんの事が書かれていないので、ジミ子はちょっと不満そうに言う。


「これからはロボットがメインとなって働く時代が来るのかもな」


 この記事を見てヤン太がつぶやいた。


「そうね、それにちょっと人類は働きすぎなのかもね」


 ミサキが珍しくまともな事を言う。その意見に僕も賛同する。


「そうだね、ロボットに任せるくらいの働き方がいいのかもね」


 僕らはまだ働いてはいないが、将来はゆとりを持って働けるような社会になってくれるとありがたい。



 この後、今週の改善政策に関しての話題は尽きて、僕らはマンガやドラマの話しをして帰宅をした。



 家に帰ると、母さんが、こんな事を言ってきた。


「今晩は二人で食事を食べちゃいましょう」


「えっ、お父さんとお姉ちゃんは?」


 僕が質問をすると、こんな答えが返ってくる。


「父さんはかなり遅いわ。来週から残業が出来なくなるから、今週は出来るだけ働かされるみたい。

 お姉ちゃんは企業からのクレームが凄くって、それに対応する為に、今日は残業ですって」


 どうやら、この国の環境は、労働者には優しくないらしい。

 二人とも大変みたいだ。

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