労働時間短縮と、その影響力 1

 第22回目の改善政策が終わると、校内に放送が流れる。


「先生方は至急、職員室へ集合して下さい」


「いいかお前ら、ちゃんと大人しくしているんだぞ」


 担任の墨田すみだ先生はそう言うと、教室を出て行った。



 今週の改善政策は僕ら学生には関係が無い、そう思っていたが、それは違った。

 しばらくすると墨田先生が戻ってくる。そして僕らにこう告げた。


「まだ、検討の段階だが、6時間目まで授業がある日が無くなり、これからは5時間目までになりそうだ。

 あと、部活動に関しては、ロボットの監督やコーチを雇うようになるかもしれない」


 労働時間の削減の影響が、僕らにも現れた。


 学校は9時から授業が始まる。先生方は準備があるので、もっと早くから来なければならない。

 8時30分に登校するとして、昼に休憩を1時間はさんでも、15時30には帰らなければならない計算だ。

 6時間目の授業をすると、規定の労働時間をオーバーして、労働基準法に触れてしまう。さらに部活の顧問を受け持っている先生は、間違いなくオーバーする。



「やった、授業が減るわ」


 ミサキが素直に喜ぶ。

 だが、良い事ばかりではなかった。


 ミサキは先生から注意された。


「ミサキ、喜ぶのは早いぞ。授業の単位は文部科学省で決められているんだ。時間が足りなくなる分、夏休みなどが減ると思ってくれ」


「えー」「そんな!」「夏休みが多い方が良い!」


 休みが減るという話しが出ると、生徒からブーイングが飛んだ。



 ブーイングがしばらく収まらないので、墨田先生は生徒をフォローする。


「まあ、まて。まだ検討段階だ。うまくやりくりができれば、授業が5時間までではなく、6時間目までの状況がたもてるかもしれない」


 従来どおりのスケジュールで行けるかもしれないと言うと、またブーイングが上がった。


「いやだ!」「なんで!」「減るんじゃなかったのかよ!」


 減ると言われた授業が、実際に減らないとなると文句が出る。

 もちろん、授業の時間の合計は従来どおりで、変わっていない。



 墨田先生はしばらく僕らをなだめるが、なかなか静かにならない。

 そこで、こんな事を言い出した。


「じゃあ、『日々の授業が増えたまま』『夏休みが減る』どちらが良い?」


 僕らに決断を迫ると、優柔不断な生徒たちは結論が出せなくなった。


「どっちがいいんだ?」「俺は毎日の時間が減った方が良いな」「私は夏休みが減るのはイヤよ」


 ざわざわと揉めている中、墨田先生が大きな声で言い切った。


「そのうち文部科学省から発表があるので、それに従うように」


「はい」「わかりました」


 この発言に逆らう生徒はいなかった。権力に弱いのは大人だけではない。



 そして午後の授業をこなし、ホームルームの時間となった。

 いつも通りのやり取りを一通り終え、最後に墨田先生から、こう言われる。

「来週から時間割が変わるかもしれないので心得こころえていてくれ」

 まあ、今週の改善政策の内容では、時間割の変更はしょうがないだろう。



 放課後になり、僕らはいつものメェクドナルドゥへと向った。


 メェクドナルドゥに付くと、店長が店の出入り口のガラス戸に張り紙をしていた。

 ミサキが気になり、店長に声をかける。


「どうしたんですか?」


「いやぁ、今日の政策改善で労働時間の短縮があったじゃない。それで営業時間の変更の告知をね、張り出しているんだ」


 ここで僕はちょっと嫌な予感がした。

 ぼくらの利用している時間は、夕方でいつも人が少ない時間帯だ。

 もしかすると夕方は閉鎖されるんじゃないだろうか……



 心配になり僕は店長に聞く。


「どのように変更になるんですか?」


 すると、店長は張り紙を指さしながら説明してくれる。


「たぶん君達にはあまり関係ないとおもうよ。夜の23時の閉店が、21時になるだけだから」


「はい、僕らには関係ないですね」


 僕はホッとして胸をなで下ろす。


 そう言えばこの店は意外と遅くまでやっていたんだった。



「夜、遅くって儲かるんですか?」


 ジミ子が単刀直入にかねの話しをする。すると店長は質問に丁寧に答えてくれた。


「うーん、微妙かな。売り上げが無いわけじゃないんだけど、光熱費や人件費を考えると、プラスマイナスゼロか、もしかすると少し赤字かも」


「なんで今まで続けていたんだ?」


 ヤン太が聞くと、店長はこう答えた。


「この付近では、あまり夜までやって居る店が少ないからね。閉店間際へいてんまぎわに疲れたサラリーマンが、うちの味がちょっと微妙なハンバーガーを美味そうに喰っていると、店を開けていて良かったなと思うんだよ。やはり晩ご飯くらいは温かい物を食べてほしいじゃない」


「確かに、晩飯が冷たいと悲惨だな」


 やはり食事は温かい方が良い、店長の言葉にヤン太も納得する。



 閉店時間が早まって、閉め出されるサラリーマンが増えそうだが、そうはならないと僕は考える。


「これからは勤務時間が減るはずなので、早く仕事が切り上げられると思います。あまり遅くに夕食を撮る人は無くなるんじゃないでしょうか?」


 僕がそういうと、店長はとびきりの笑顔で答えた。


「そうだね。そうなるとありがたいね」


 これから労働時間は改善されていくだろう。



 店長との話が終わり、僕らは店の中へと移動する。


 カウンターでは、いつもの店員さんが対応してくれたのだが、店の奥のキッチンからは銀色のロボットが見えた。


「おっ、キッチンにロボットが居る」


 キングがそう言うと、それを聞いた店長はこう言った。


「いや、うん、本当は手作りのハンバーガーを食べてほしいんだけどさ、人手が足りなくなってね、ロボットを雇う事にしたんだ。ほら、うちのハンバーガーは素人でも同じ味が作れるからね」


 ちょっと気まずそうに言い訳をした。


 まあ、たしかにココのハンバーガーはいつも同じ味だ。

 店長は手作りにこだわりたいようだが、この日のロボットが作ったハンバーガーも味に違いは無かった。

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