第22回目の改善政策 2
今週の改善政策は『労働基準法』に関してだ。
改善の内容は、従来の労働基準法を強化する方向で行くらしい。
宇宙人は、まず罰則を強化すると言い出した。
福竹アナウンサーが宇宙人から話しを聞く。
「経営者が実刑を受けるのは分かりました。ところでこの実刑の適用者は、経営者のみですか?」
「管理職にも適用されるネ。例えば100時間の違法な残業が発生した場合。社長30時間の就労。部長20時間の就労。課長50時間の就労。など、責任に応じて割り振るネ。この配分は、ワレワレの
「なるほど、それは公平な判断ですね。安心できそうです」
宇宙人の判断なら安心できそうだ。
会社側に判断に任せると、下の責任者に押しつけて終わりにしてしまうだろう。
「従来の労働基準法に、新たに追加される項目とかは、あるでしょうか?」
福竹アナウンサーが最も心配な点を聞く。
宇宙人だと、とんでもない規制を作りそうだ、何をやらかすか分からない。
しかし、今週の宇宙人はまともだった。
「追加する項目は無いネ。ただ、労働基準法のおかしい部分は直して行くネ」
「具体的には、どのような点を直すのでしょう?」
「ソレは、これネ」
宇宙人は、またもやテロップを出す。そこには『労働時間』と書かれている。
「『労働時間』ですか? さきほどの残業と関係しているのでしょうか?」
「今までの話しは、サービス残業や、残業時間の上限規制を超える違法な残業の話しネ。今から話すのは正規の労働時間に関しての話しダヨ」
「なるほど、労働時間の取り決めに関してですね」
「ソウネ、コノ国だと『三六協定』というやつネ」
宇宙人がそう言うと、スタッフから福竹アナウンサーにメモが渡される。
福竹アナウンサーはそれを読み上げた。
「『三六協定』とは『1日8時間、週40時間以上働かせては駄目。1ヶ月の残業時間は45時間まで』という協定ですね。他にも細かい協定はあるのですが、ここでの説明は
「ソウネ、1日8時間労働て基準はナンデ出来たか知っている?」
「いえ、知りません。なぜでしょう?」
「『労働者の健康を保障するため』ダヨ。コレって社会で守られているカネ?」
「いやぁ、守られていないですね」
頭をかきながら、申し訳なさそうに返事をする福竹アナウンサー。
すると、宇宙人が強い口調で語る。
「そうだよネ。ダッテ、最初から設定おかしいからネ。
上限が8時間だったら、少し余裕をもって労働時間を7時間とかに設定しない? 最初から限界と同じ時間を働かせようとするの、変でショ?」
「えぇ、そうですね。おかしいですね」
「コノ国で、一日8時間労働が規定されたのは、1947年だケド、未だに目標を達成できてないよネ。時間が掛かりすぎじゃナイ?」
「いや、全くもってその通りです。言い訳もできません」
ここで僕は、この問題が思ったより深刻だと気づかされた。
規制されてから70年が過ぎても、守られていないようだ。
そしてまた宇宙人がテロップを出す。今日はテロップが多い。
『一日の労働時間を6時間、残業を含めても8時間マデ』と書かれている。
テロップの内容を、福竹アナウンサーが繰り返して確認をする。
「ええと、基本的な労働時間を6時間、残業を入れても8時間まで、という事ですか?」
「ソウネ、ソレを超える時間は、違法な労働として、経営者、管理職に就労が割り振られるネ」
「なるほど。ちなみにこの改善政策はいつから実施されます?」
「今回は余裕を持って実施するネ。一週間後からネ」
「……一週間後ですか。分かりました、みなさま、気をつけて下さい」
テレビ越しに福竹アナウンサーが訴えた。
一週間はかなり急だが、いつもはすぐに実施されている事を考えると、少しだけ余裕があるかもしれない。
「……しかし、6時間労働ですか。テレビ局は大丈夫ですか?」
福竹アナウンサーがそう問いかけると、カメラの画像が左右に振られ、カメラマンはノーという意思を示す。
テレビ局は24時間放送しているので、この政策は辛いだろう。
カメラは続いて、いつもは絶対に映さないスタッフ側の映像を映す。
するとそこには頭を抱えているプロデューサーかディレクターと見られる人の姿があった。
「やはり難しいですよね」
苦笑いを浮かべる福竹アナウンサー。すると宇宙人がこんな事を言い出す。
「ソコデ、ゲストを呼んだよ」
ゲスト? 誰だろう。この番組にゲストは珍しい。
だれがゲストかと考えていると、よく知った顔が出てくる。それは姉ちゃんだった。
「
ロボットは『人』では無いので、労働基準法に引っかかりません。24時間働く労働者として、刑務所に入っている間の経営者の変わりとして、ロボット労働者を利用してみてはいかがでしょうか? ご連絡はこちらまで」
電話番号など、連絡先の書いたテロップを出すと、姉ちゃんは言いたい事だけ言って引っ込んだ。このタイミングでの告知は効果抜群だろう。
姉ちゃんが引っ込むと、番組終了の時間が近くとなった。
福竹アナウンサーがいつものアンケートを取る。
「さて、そろそろアンケートの時間です。皆様、ご協力をお願いします」
アンケート画面が現われた。
労働基準法が守られるのは、良い事だろう。
僕は「今週の政策は『良かった』」「宇宙人を『支持できる』」に投票する
投票してから、しばらくすると集計が表示された。
『1.今週の政策はどうでしたか?
よかった 73%
悪かった 27%
2.プレアデス星団の宇宙人を支持していますか?
支持する 46%
支持できない 54%』
僕は、100パーセントに近い数字で「今週の政策は『良かった』」となると思ったのだが、意外にも数字が低い。
福竹アナウンサーも同じ事を思ったようで、宇宙人に疑問をぶつける。
「今週の政策、意外にも数字が低いですね」
「ソウネ、もしかすると、刑務所に入れられると思っている人が多いのかもネ」
「まあ、そうかもしれませんね」
「アト、労働基準法はロボットには適用されないケド、動物の王国の住人にはもちろん適用されるカラ気をつけてネ」
「分かりました。彼らも人間と変わりませんからね」
「コノ改善政策は彼らの為に改正したようなものだからネ」
「そうだったんですか?」
「ソウネ、彼らの派遣業務が始まって一ヶ月チョット立つけど、早くも体を壊す者が現れてネ。早急に手を打った訳だヨ。特にこの国で体を壊す者が多くて困ってるのヨ」
「……そうでしたか。経営者の皆様はくれぐれも気をつけて下さい。ではまた来週」
「マタネ~」
こうして番組が終わった。
どうやらこの国の労働環境は過酷らしい。
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