第21回目の改善政策 2

 宇宙人がプレアデススクリーンで出来るゲームを作ったと言い出した。

 そう言われて、僕らには『ラブモンGO』が頭に思い浮かぶ。


 あのゲームを世に出したら大変な事になってしまう。

 あまりの恐怖に、正気を失う人が出てきても、おかしくないかもしれない。



 僕は最悪の事態を想定するが、まだ望みが無くなった訳ではない。

 もしかしたら、宇宙人があのゲームとは違うゲームを開発している可能性もある。


 福竹アナウンサーは、宇宙人にゲームの詳細を聞き出す。


「どのようなゲームなんですか?」


「街中に居るモンスターにボールを当てて、仲間にするゲームだネ」


「私は思い当たるゲームがありますが…… それはもしかして『ボクモンGO』というゲームでしょうか?」


「違うネ『ラブモンGO』というゲームだヨ。モンスターが著作権フリーのデータだから、無料で楽しめるネ」


「無料ですか。それは良いですね」


 絶対に良くは無い。

『ただより高いものはない』その言葉の意味を、福竹アナウンサーは身をもって知るだろう。



 福竹アナウンサーが腕時計をチラリと見て、こう話題を切り出した。


「番組の時間がまだあるので、ちょっとゲームを紹介しましょうか?」


「ソレがイイネ」


「では、ゲームを開始するにはどうすれば良いのですか?」


「プレアデススクリーンの右下に『ゲーム』のボタンがあるヨ。それを押してネ」


 なんと、あのゲームの紹介を、昼間のこの時間帯に全国放送するらしい。

 お食事中の人は平気だろうか? 場合によっては最悪の事態も考えられる。


 だが、これは良い流れかもしれない。

 その理由は、ゲームの内容が知れ渡れば、被害者は確実に減るからだ。



 とても危険なゲームなのだが、福竹アナウンサーは呑気のんきに実況解説を始める。


「『ゲーム』のボタンを押しました。次はこの『リリース作品一覧』でしょうかね?」


「ソウネ、ソレを押すと、遊べるゲームの一覧が出てくるネ」


「分かりました、では押してみます。ええと、一覧には『ラブモンGO』しかありませんね」


「リリースしてるのは、そのゲームだけネ。ゲームをインストールするとプレイ出来るネ。アト、このシステムでゲームを作りたい会社があったら連絡してネ、ワレワレが協力するヨ」


「了解しました。まずはさっそくこのゲームをインストールして見たいと思います」


 そして福竹アナウンサーは、臆する事なく『ラブモンGO』をインストールしてしまった。



「ええと、インストールしました。ゲームを始める前に、色々な設定と、確認画面があるようですね」


「持っているラブモンの確認や、モンスターの『表示・非表示』、他に『ドライブモード』や『一時休止』などの設定があるネ」


「『ドライブモード』ですが。そうですね。この手のゲームは運転中には危ないですよね」


「ソウネ。あと、このゲームは、プレイヤー以外の人が近くに居るとモンスターを表示しないネ。見慣れないモンスターに気を取られて、事故でも起きたら取り返しが付かないからネ」


「そうですね。その仕様が正しいと思います」


 本当に正しい事は、このゲームをリリースしない事だと思うのだが……


 しかし正式にリリースするにあたって、良い改良がなされている。

『ドライブモード』や『一時休止』に設定すれば、見たくない時にはラブモンを見なくて済む。

 テストプレイ中にゲームを中断できなかった僕らとは大違いだ。



「では、いよいよゲームを始めたいと思います。この『ゲームを開始』ボタンを押せばいいんでしょうか?」


「ソウネ、ボタンを押せば始まるネ」


 福竹アナウンサーがボタンを押すと、僕らにはお馴染なじみの『ヘンリー・アーミテイジ教授』が出てきて、ゲームに関する説明をする。

 一通り説明を喋ると、やがて的が出てきて、ボールを投げる練習が始まった。


「ボールを投げるなんて久しぶりです。なかなか的にあたりません。難しいですね」


 福竹アナウンサーが熱中していると、スタッフから声が掛かった。

 そしてチラリと腕時計を見る。


「おっと、ここでお時間となりました。このゲームの続きは、皆さんでご確認ください。無料ですので大丈夫です」


 ……内容に一切触れる事無く、ゲームの紹介のコーナーが終わる。

 最悪だ、これでは被害者の拡大は防げないだろう……



「それでは恒例のアンケートです。ご協力をおねがいします」


 いつものアンケートが出てきたので、僕は「今週の政策は『悪かった』」「宇宙人を『支持できない』」に投票する



 しばらくすると集計が表示された。



『1.今週の政策はどうでしたか?


   よかった 89%

   悪かった 11%


 2.プレアデス星団の宇宙人を支持していますか?


   支持する 51%

   支持できない 49%』


 今日の説明では、あの恐怖は伝わらない。

 来週になって、ゲームの内容が明るみになれば、支持率は確実に下がるだろう。



 事情をしらない福竹アナウンサーは、普通に番組をまとめ上げる。


「今週の政策は好評みたいですね」


「ソウネ。アト、このゲームは18禁ネ」


「……そういう事は先に言って下さい。まずい映像がお茶の間に流れたらどうするんですか」


「大丈夫ネ、このゲーム、高校生5人にテストプレイしてもらったんだケド、5人中4人が『面白い』と答えてくれたネ。ソレデ、『面白い』だけなら問題にならなかったんだケド、どうやら高校生が深夜に徘徊はいかいしたらしいのヨ。

 そこで自制心の低い18歳以下の子供達には、このゲームのプレイを禁止にしたネ」


「なるほど、そういう理由なら安心です。それでは皆さん来週もまたお会いしましょう」


「マタネー」


 こうして第21回目の改善政策が終わる。


 失敗した。こんな事になるならテストプレイ後のアンケートに『つまらない』と答えておくべきだった……

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