ラブモンGO 4

 早めにベッドに入り寝ようとしていたら、ミサキから電話が掛かってくる。

 悲鳴に似た声でこう叫んできた。


「窓が!窓に!」


 僕は窓からミサキの家をのぞき込む。すると、巨大な黒い塊が、ミサキの家を飲み込むようにうごめいていた。黒い塊からは、無数の触手が伸びていて、幾重いくえにも覆い被さり、うねるようにミサキの家を締め上げる。


「目が!目が!窓に目が張り付いている!」


 ミサキは軽いパニックを起こしているようだ。僕が電話越しに呼びかける


「ミサキ、そばに出現しているラブモンボールをそれに投げつけて」


「ラ、ラブ、えっ、えっ、た、助けて!」


「落ち着い、それはただの映像だから」


「え、映像、い、いやぁ、部屋に入って来た、ギャ、ギャー」


 続いて電話越しに小さな声が聞こえてきた。


「どうしたのミサキ?」


 おそらくミサキのおばさんの声だ。


 プレイヤー以外の人物が来たので、巨大な黒い塊は空へ蒸発するように消えていった。


「お母さん、アレを見て、化け物が」


 ミサキの声が聞こえるが、その化け物はもう居ない。


「寝ぼけているのかしら、大丈夫そうだから私はもう行くわね」


「ちょっと待ってお母さん。お母さんが居なくなると、またあの化け物が!」


 続いてドタバタと音がして、やがて何も聞こえなくなった。スマフォを放りだしておばさんについていったらしい。


 しかしまさか電話を切り忘れるとは……

 僕はミサキからの通話を切ると、ふたたび眠る事にした。



 そして翌朝。


 僕がいつも通りミサキを迎えに行く。

 ミサキの家の玄関を抜け、リビングへと入ると、パジャマ姿でソファーで寝ているミサキがいた。

 いつもなら、もう少し身支度をしているが、今日は全くしていない。


 ミサキのおばさんが制服を手に持ちながらやって来る。


「ごめんなさい、昨日の夜に悪夢を見たみたいなの」


「そうなんですか。ほらミサキ、学校に遅れるよ」


「あぁ、うん、そうね」


 寝ぼけたような返事が返ってきた。どうやらあまり寝ていないらしい。

 僕は寝ぼけまなこのミサキの着替えを手伝うと、手を引っ張って学校へと連れて行く。



 教室に入るとジミ子の席の周りにヤン太とキングがいて、何かを話していた。僕とミサキもその輪に加わる。


「おはよう」


「おはよう、ふわぁ~」


 ジミ子があくびをしながら挨拶をしてくる。かなり眠たそうだ。


「眠そうだけど、どうしたの?」


 僕がジミ子に聞くと、こう答えた。


「昨日、ラブモンを捕まえたじゃない」


「そうだね。そういえば捕まえたラブモンって、半魚人みたいな奴だったよね?」


「そうよ。それでね、一人になると現れるのよ、あのラブモンが。

 ずっと部屋の中で突っ立っていて、ジッと私を見ているの。おかげでよく眠れなかったわ」


 ラブモンは仲間にするとプレイヤーに付き従う。

 グロテスクなモンスターを仲間にすると大変そうだ。



「ミサキも眠そうだけど、どうしたんだ?」


 ヤン太がミサキに尋ねると、こう答えた。


「昨日の夜、化け物が出たのよ! 窓をおおう位のでっかい目が私をにらんできたの」


Rareレアキャラっぽいな、もちろん捕まえたんだろう?」


 冷静なキングの問いに、ミサキは頭を激しく横に振りながら答える。


「あんなの無理よ、絶対に」


「なんで?ボールなげるだけじゃん」


 ヤン太が不思議そうに言うので、僕がフォローをしてあげる。


「ちょっとミサキが騒いじゃって、家の人が来ちゃったんだ」


「なるほど、それで臆病なラブモンは逃げちまったわけか。それじゃあしょうがないな」


 アレが臆病だとは思えないが、説明しても伝わりにくいと思う。

 ヤン太は納得しているようなので、面倒なのでそういう事にしておこう。



 ジミ子がもう一度、大あくびをしながら言ってきた。


「しかし今日は土曜で助かったわ、なんとか頑張れそう。これが平日だったら絶対に寝ちゃっていたわ」


 するとミサキが平然とした顔で答える。


「眠たい時には寝ちゃって良いと思うわ。あとでツカサに授業の内容を教えてもらえば大丈夫よ」


「あんたね…… それで何度も赤点もらってるじゃない」


 ジミ子の突っ込みにミサキは全くこたえない。


「大丈夫よ赤点とったら、その時はまたツカサに教えてもらえば良いのよ」


 あきれた主張をするが、みんなは聞き流す。


「ところで今日の午後の予定なんだが、ちょっと相談があるんだ。授業が終わったら話し合おうぜ」


 おそらくラブモンの収集に関してだろう、ヤン太に何か考えがあるらしい。



 土曜の短い授業を終え、僕らはヤン太の机のまわりに集まった。


「今日の予定なんだが、午後からラブモンを探すのはめようと思う」


 想定外な提案に僕は驚く。

 ジミ子もこの意見には反対のようだ。


「ラブモンを見つけると、一体につき500円もらえるのよ。探さないの?」


 半魚人に付き添われても気にしていないらしい。たくましい。


「俺は一人でも捜すぜ!」


 続いてキングも反対の意思を表す。

 するとヤン太が、ある計画を語り始める。


「実は昨日、みんなと別れた後に、俺は一人でラブモンを探したんだ。だけど見つからなかった。やっぱり人目があると見つけるのは無理だと思う。

 そこでだ、今日はこのまま帰ってすぐに寝る。その後、夜から起き出して、夜中よなかに集まり、人気ひとけのない深夜に狩りをするというのはどうだろう?」


「確かに、それなら人が居なくてラブモンに会えるかも」


 僕がポツリと感想を言う。


「その方がお金が稼げそうね。明日は日曜だし、ちょうど良いわね」


 ジミ子も賛成のようだ。


「私は嫌よ!」


 ミサキが反対するが、みんなに聞き流される。


「ボクモンGOだと、ランドマークの近くによく現れるぜ」


 キングが攻略のヒントを言った。ヤン太が詳しく話しを聞く。


「ここら辺だと、何か良い場所はあるかな?」


「おそらく駅前か、街外まちはずれの神社かな。

 駅前は夜中でも人が居る可能性がある。一方、神社は普段から人気ひとけが無いし、県の文化財に指定されているから、もしかしたらレアキャラがでるかも?」


「なら、決まりだ。今日の深夜に街外まちはずれの神社に行こうぜ!」


「賛成」「反対」「賛成」「賛成」


 こうして賛成多数で、僕らは深夜の神社を訪れる事になった。

 ここにはラブモンがたくさん居そうな予感がする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る