ラブモンGO 3

 呪文を唱え、ゲームを開始した僕らは、さっそく外へと飛び出した。

 そして周りを見渡すが、そこにラブモンの姿は無かった。会社は駅前にあり、ここには人が多い。

 プレイヤー以外に姿を見せない、シャイなラブモンが現れる事はなさそうだ。


「人気のない場所に行かないとダメそうだね」


 僕がそう言うと、ヤン太もうなずきながら応える。


「そうだな、どっか人の居ない場所に行かないとな」


 すると、ジミ子がこう言った。


「あそこはどう? 竹林公園だっけ? あの川沿いにある公園」


 僕は記憶をたどりながら思い出す。たしかにそんな名前の公園があった気がする。


「どこにあったっけ?」


 僕が質問をすると、キングがスマフォで調べてくれた。


「ここから歩いて15分くらいかな、行ってみるか?」


 その質問に対して、みんなは元気よく応えた。


「行こうぜ!」「いってみよう」「いってみましょう」


 こうして僕らは竹林公園を目指す。



 川沿いの散歩道を歩いている途中も、僕らはラブモンを探す。

 散歩道はとても見晴らしがよく、ジョギングなどをしている人も居る。

 人見知ひとみしりなラブモンは視界の良い場所では出てこなかった。

 ラブモンに全く遭遇する事無く、僕らは竹林公園へとたどり着いた。



 この竹林公園は、背の高い竹がうっそうと生い茂っていて、薄暗い。

 公園と名前はついているが、広場のような開けた場所は無く、ただ細い散歩道があるだけだ。

 遊ぶ場所が無いので、子供達には全く人気にんきが無かった。


 僕らは到着すると、迷わずこの竹林公園の中へと入っていく。予想通り人気ひとけはまるで無い。ここならラブモンが居てもおかしくはないだろう。



 山道のような歩きにくい散歩道を進んでいくと、やがて池のような場所へと出た。

 そして僕らの目の前に、それぞれ光のボールが現れる。


「ラブモンボールが出たぞ、近くにラブモンがいるぜ、探すんだ」


 ヤン太に言われて辺りを見渡す。すると池に見慣れぬ魚が泳いでいた。

 それはバスケットボールくらいの丸い魚で、つたない泳ぎ方で池を回遊かいゆうしている。


「あそこにいるぜ、ボールをぶつけろ!」


 キングに言われて、僕らは一心いっしんにボールを投げはじめた。

 遠くにいて泳ぎ回るバスケットボールくらいの魚に、ボールはなかなか当らない。


 しかし、投げ続けていればそのうち当るものだ。

 やがてジミ子のボールが魚に命中をした。

 するとハートマークが表示されて、その魚はジミ子の方へ近寄ってきた。



 その魚は大きな黒い目が印象的な魚だった。


 遠くに居たときはデフォルメされた、かわいらしいゲームキャラといった感じだったが、近くによってくると、その容姿はピラニアとか、深海魚に近いグロテスクな容姿だった。


「ちょっと気持ち悪いわね」


 ジミ子が率直な感想を言う。


「ま、まあ、キモカワイイと思えば良いんじゃないかな……」


 ミサキがなんとかフォローをしようとするが、不気味な物は不気味だ。全く可愛くない。


「そういえば、コイツの名前はなんて言うんだろ?」


 ヤン太が疑問をぶつけると、キングがこう言った。


「ジミ子、ゲームのステータス画面で確認が出来ないか?」


「分かったわ『プレアデススクリーン、オン』、それで『ラブモンGO』のボタンを押してみるわね」


 すると画面に『所有ラブモンの一覧』という項目が現れた。ジミ子はそれを押して見る。


「ええと『深き者』ですって。説明があるみたい、見てみる?」


「見てみようぜ」


 ヤン太に言われて、ジミ子は解説ボタンを押す。

 すると、どこからともなくアーミテイジ教授が現れ、解説を始める。


「『深き者』とは、父ダゴン、母ヒュドラと海底に沈んだ古代都市ルルイエに封印されたクトゥルフに奉仕するために行動する。その理由とは……」


 アーミテイジ教授は訳の分からない解説を3分ほど続け説明し終わると、満足したようにどこかに走って消えていった。


「ええと、よく分からないけど、とりあえず水属性のモンスターなのかな?」


「まあ、そういう事にしておきましょう」


 僕がそう言うとジミ子も面倒なのか、それで納得したようだ。



「そろそろ次の場所へ移動しようぜ」


 ヤン太が他のモンスターを探しに行きたいようだ。

 僕らが移動を開始しようとした時だ。


 ミサキが確認をとる。


「そういえば、仲間になったラブモンはついてくるんだよね?」


「そうだね。でも魚型のラブモンは地上ではどうするんだろ?」


 僕が疑問を持つと、ジミ子はこう言った。


「まあ、移動してみれば分かるでしょう」


 ジミ子が池から遠ざかる。

 すると『深き者』は、その後を追う。


 ぼくはてっきり魚が空中を飛ぶのかと思ったがそれは違った。


 池が浅瀬になるにつれ、『深き者』の首、肩、胴体が見えてきて、やがて人型の半魚人が現れる。

 どうやら池に居るときに見えていたのは頭部の部分だけだったらしい。地上にでると、猫背で粘液まみれで筋肉質な『深き者』の全身像が見えた。


「ジミ子、後ろ、後ろ」


 ミサキに言われてジミ子が振り返る。そこには立ち尽くしている『深き者』の全身がある。


「ギャッ、なにこれ?」


 ジミ子は短い悲鳴を上げて驚く。そして走って逃げるが『深き者』はピッタリとジミ子の後を着いていく。


「これ、なんとかならないの?」


 ジミ子の悲痛な叫びに、キングはプレアデススクリーンを開きながら答えた。


「うーん、どうにもならないみたいだぜ、設定画面に何も無い」


「そんなぁ~」


 情けない声を上げて逃げ回っていたジミ子だが、突然『深き者』が地面の中へと潜るように姿を消した。

 周りを見ると、どうやら他に散歩をする人が来たようだ。


「た、助かった」


 肩で息をするジミ子。けっこう本気で逃げていたらしい。


 この後、竹林公園を探してみるが、散歩の時間のピークに入ったのか、人が多い。

 他には何も見つけられず、僕らは帰宅する事となった。

 ラブモン探しは意外と難しそうだ。



 家に帰り、食事と風呂を済ませ、いつもより早めに寝る。

 今日は歩き回ったので、よく眠れそうだ。


 そんな事を考えながら、ベットの中で眠りに落ちようとしていたら、ミサキから電話が掛かってきた。


 電話に出ると、こんな声聞こえてくる。


「窓が!窓に!」


 僕は窓からミサキの家をのぞき込む。すると、巨大な黒い塊が、ミサキの家を飲み込むようにうごめいていた。

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