ラブモンGO 2

 放課後、僕らは姉ちゃんの会社に寄り道をする。

 宇宙人のシステムで作った『ラブモンGO』というゲームを体験する為だ。



 受付に居るロボットに声を掛けると、僕らは広い会議室へと案内された。

 しばらく待っていると、姉ちゃんが大きなトランクケースを片手にやってきた。


「ごめんごめん、この後ちょっと出張で手間取っちゃって」


「これから出張なの?」


 僕が質問をすると、姉ちゃんは笑顔で返事をする。


「そうよ、ちょっと2~3日、月の方へ行ってくるから。もしかしたら連絡が取りにくくなるかもしれないわね」


「そうなんだ。ところでゲームの方だけど」


「分かっているわ、みんなで参加するのよね?」


「はい、そうです」


 ジミ子が代表して返事をする。

 すると、姉ちゃんは茶封筒を取り出し、一人一人に渡す。


「これがバイト代の二万円ね。あと、三日後のテストプレイ終了時に所有しているラブモン一体につき、500円のボーナスをあげましょう」


「本当ですか?」


 ジミ子が歓喜の声を上げる。


「ええ本当よ。それじゃあゲームの説明しちゃいましょう」


 こうして姉ちゃんのレクチャーが始まった。



「ゲームを始める前に、まず注意事項ね。

 このゲームは、モンスターのキャラクターが実際に居るように映像が表示されるわ。それで、ゲームをやってない他の人が見たりすると、ちょっと驚くかもしれない」


 姉ちゃんが手で合図をすると、会議室もモニターに画像が表示される。老人が可愛いモンスターを見て、驚いているイラストだった。


「これが、歩行者とかだったら大した問題にならないと思うけど、車の運転中で、わき見をして事故でも起こされると困った事になるわ」


 姉ちゃんが指を鳴らすと、今度は車が事故を起こしているイラストが映し出された。


「そこで、トラブルを避けるため、このゲームのプレイヤー以外の人物が近くに居る場合、映像を投影しない仕様になってるの」


「それはつまり、モンスターを見つける為には、人気ひとけを避けた場所を探さないといけないんですね?」


 キングが質問をすると、姉ちゃんはうなずきながら答える。


「そうね。周りに人の居ない場所でないと現れないからね」


「ちょっと探索みたいで面白そうだな」


 ヤン太のテンションが上がる。確かに、小学生の時に経験した、街中で知らない場所を探検をする気分になってきた。



「じゃあ注意事項の説明が終わったんで、ゲームのスタートの仕方を教えるわね。まずはプレアデススクリーンを表示しましょう」


 僕らは指示に従い「プレアデススクリーン、オン」と唱えて光の画面を表示した。


 続けて姉ちゃんはこう言う。


「つぎに『ラブモンGO、インストール』と言ってちょうだい」


「「「ラブモンGO、インストール」」」


 僕らが、そう言うと、『ラブモンGOをインストールしますか?』と、確認画面が出てきた。

『はい』を選択すると、プレアデススクリーンに『ラブモンGO』というメニューボタンが追加された。


「あとは、そのボタンを押すとゲームのチュートリアルが始まるわ。ちなみに、まだテスト段階だから、課金の要素とか一切無いから安心して」


 ジミ子が姉ちゃんに確認する。


「あとはボタンを押すだけですね」


「そうよ、それでスタートするわ」


「数日でゲームを作れるなんてすごいですね」


 ジミ子が尊敬のまなざしで姉ちゃんを見る。


「まあね。でも、今回はただ集めて仲間にするだけだから簡単だったわ。

 これが戦闘するとなると、色々とゲームのバランスとか大変みたいだけど」


「それにしても早すぎない。もしかして、どこかのゲームをコピーしたんじゃあ……」


 僕がそう言うと、姉ちゃんは否定する。


「大丈夫よ、今回のゲームキャラはオリジナルのデザインじゃないけど、著作権フリーのモンスターを使ったから問題は無いわ。ちなみにデザイナーの方はラブなんとかさんっていって、そこから『ラブモンGO』って名前にしたの」


 なるほど、著作権フリーの素材を使ったのか。それなら安心だ。



 僕が少し安心をしていると、姉ちゃんの電話が鳴った。

 姉ちゃんは、しばらく電話で受け答えして、それが終わると僕たちに向って、こう言った。


「ごめんね、そろそろ出かけないと。あとはプレアデススクリーンの『ラブモンGO』のボタンを押せばゲームが出来ると思うから。何かあったら電話かメッセージでもちょうだい。じゃあ、よろしくね」


「はい分かりました」


 ジミ子が返事をすると、姉ちゃんはトランクケースを引きながら、どこかへ出かけて行った。



「じゃあ、さっそくプレイして見ようか」


 テンションが高めのヤン太の声に、キングが答える。


「おうよ」


 それぞれが『ラブモンGO』のボタンを押すと、チュートリアルが始まった。

 まず、背広を着た、初老の男性の映像が映し出される。

 ぱっと見は、頭がよさそうな、いかにも博士といった姿のキャラだった。


 そして、そのキャラクターは、ゲームについて語り始めた。


「はじめまして、ラブモンGOの世界へようこそ!

 わたしの名前は、ヘンリー・アーミテイジ。みんなからはラブモン教授と尊敬されておるよ。

 この世界には、ラブモンと呼ばれる生き物たちが、至る処に潜んでいる!

 これからみんなで存分に、ラブモン達を捕まえようじゃないか」


 そのキャラクターは、ボクモンのオオクド博士みたいなセリフを言った。


「意外とゲームも面白そうね」


 ジミ子がポツリと漏らす。

 先ほどまでは、あまりゲームに興味がなさそうだったが、少しは興味が出てきたみたいだ。



 アーミテイジ教授というキャラクターは、そのまま説明を続ける。


「さて、ラブモンの捕まえ方を教えよう。

 ラブモンが君らの近くに居る場合、ラブモンボールが空中に現れるよ」


 そう言うと、僕らのすぐ目の前に光りのボールが現れた。

 ボクモンのボールは円をあしらったデザインをしているが、このボールには星が描かれている。


「そのボールを取って、的に投げてみよう」


 アーミテイジ教授がそう言うと、会議室の真ん中に、射的の的のような物が現れた。

 僕らは近くに現れた光のボールを手に取ると、その的へと投げてみる。

 映像なので、重量は全く無いが、普通のボールと同じように、それは飛んでいった。


「ラブモンボールは無限に補給されるから心配は無用じゃ。

 そのボールが当れば、ラブモンは仲魔なかまになる。仲魔になったラブモンは常に行動を共にするぞ」



「これなら簡単ね、キュートでかわいらしいラブモンをたくさん仲間にしたいわね」


 ミサキがはしゃぎながら言う。ミサキはゲームがどちらかと言うと苦手だが、これはちょっと楽しそうだ。


 しばらく的に向って練習をしている。

 ある程度、ボールを放り投げ終わると、アーミテイジ教授が声を掛けてきた。


「練習は充分におこなえたかな? 冒険に旅立つ準備が出来たのなら、この呪文を唱えておくれ」


 そう言うと、今度は看板が表示された。


「もう練習はいいよな、出かけようぜ」


 ヤン太はすぐにでも冒険に出かけたいようだ。

 僕たちもその意見に反対はしない。さっそく、表示された呪文を唱える。


「「「「「いあ、いあ、くとぅるふ、ふたぐん」」」」」


 こうして僕らの『ラブモンGO』生活が始まった。

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