支援と自立 2

 僕らはAHG共生団体の代表のトゥイーターのトゥイートつぶやきを通して

 火星の学習収容所がくしゅうしゅうようじょの生活の様子を覗いてみる。



 現在から少しさかのぼり、僕らは火星につれてこられたトゥイートから追う事にした。出だしは、こんなトゥイートから始まる。



『気がつけば、オレは火星のベッドの上に寝かされていた。

 ロボットが来たときに「オレじゃないッス、人違いでしょ」とか適当にあしらおうとしたら、電撃を放たれて気絶したっぽい』


『ベッドの周りには机と小型のクローゼットしかない。これがオレに与えられた空間らしい。

 となりのベットとは5メートルぐらい離れていて、さえぎるものはベットの周りを囲うカーテン一枚だけだ』


 このトゥイートには写真が載っていた。


 火星の赤茶けた大地の上に置かれたベット。

 服が数着入るだけの小型のクローゼット。

 学校の机より小さな机。そんな物が写真に写っていた。


 家具やカーテンなどは、全て真っ白な色で統一されている。

 ぱっと見は病院の入院患者の室内のように見える。

 だが、壁や天井がないので、屋外に家具を持ち込んで野宿のじゅくしているような不思議な感覚がある。



『オレが目を覚まして、しばらくするとロボットがやって来た。

 色々と説明を受ける。トイレと風呂の場所の説明。

 食事は配膳はいぜんしてもらえて、服は洗濯してもらえるらしい。

 何かあったら、コールボタンを押せばロボットがやって来るらしい。

 あと、トイレと風呂が共有だと。トイレは良いが、風呂は気持ち悪い。当分はシャワーのみだな』


『他に、重要な事を告げられた。テストは3日後に行なわれる。

 1度テストに落ちると、次のテストは一週間後になると言っていた。

 ロボットの家庭教師や、本人の希望がすれば頭脳の改造処置までやってくれるらしい。

 頭脳の改造ってなんだ? 怖すぎる。

 あんな簡単なテスト落ちるはずがない、とっととクリアして帰ろう』



『隣にホームレスがいるらしい。臭い。

 コールボタンを押し、ロボットにクレームをつける。

 しばらくすると、ホームレスは何か洗浄液みたいなもので洗われていた。

 臭いが全くしなくなった。これで快適に過ごせる』



『暇だ、教科書など勉強道具は置いてあるが、そんなもの見なくてもあのテストに落ちるわけがない。

 ゴロゴロとしながらスマフォでマンガを読み漁る。しかし本当に暇』



『晩飯が配られる。これが今晩の晩飯。メインはいわしのスープ。

 火星の飯は料理対決番組でよく見ていて、すげー期待していたけど、これは酷すぎる。

 あと、味が薄い。ロボットにクレームを付けたら「これが頭と体に良い食事」と言って相手にしてくれなかった。

 不味い、これ、病院食のほうが味が濃いんじゃないか?』


 夕食の写真がのっている。

 野菜が入っている鰯のドロドロとしたスープ。これは見た目が悪い、ヘドロのように見える。

 あとはパンと豆と、拳サイズの怪しい野菜が一つ付いていた。これは調べて見るとアーティチョークという野菜だった。

 これらの晩飯は、とても美味しそうには見えない。実際にトゥイートでも「不味い」と言い切ってるので、本当に不味いんだろう。



『このカーテンすげぇ、閉めると周りの音が全く聞こえない。普通の布じゃないな、持って帰りたい』



『火星で初めての朝を迎えた。火星の一日は24時間39分で、地球とあんまり変わらない。

 朝になるとロボットがやって来て、朝食を配り、その日の日程を教えてくれる。

 学力やIQに応じて教室が開かれるようだが、そんなものに参加しなくても、あのテストには合格する。オレには関係無い。断ってベットの上でダラダラと時間を潰すだけだ』


 朝食の写真が載っていた。

 トマトとチーズとレタスのサンドイッチ。あとバナナと牛乳。

 朝食は量が少なそうだが、味は普通のようだ。特に文句も書かれていなかった。



『あまりにも暇なんで、ちょっと散歩をしてみる。

 数キロ歩いてみても、どこまでも等間隔にベットが続いている。

 遠くまで歩くと外人が多い。オレの周りは日本人だけだったので、国ごとにまとめられているっぽい。

 ここら辺の住民は難民だろうか? 子供達は教室のような広場に集まり、熱心にロボットの授業を受けている。

 子供達は笑っているが、授業の何が楽しいのだろう?』


『迷った。自分の帰る場所が分からなくなり、ロボットに誘導してもらう。

 昼飯は焼き味噌のおにぎりと目刺めざし。味噌の塩気が足りない。豆のペーストを食ってるみたいだ』



『ちょっと運動したのでシャワーを浴びて昼寝。気がついたら夕方だった。

 晩飯を食って。またダラダラとする。飯が不味い。塩辛いものが食べたい』



『朝になって、飯が運ばれてきて、そこで起きた。

 明日はようやくテストの日だ。少しくらい勉強をしておくか。まあオレの明晰めいせきな頭脳では1時間も要らないだろう』


『配られた教科書を開くと、愕然がくぜんとする。これは間違いだろう。ロボットを呼びつける』


『ロボットの説明を受けた。

 この学習収容所は、自立できない知能の者が送り込まれてくると説明を受ける。

 そして「今の知能では自立できてないのナラ、更なる知能の向上が必要デス」と言われた。

 配られた教科書はレベルが高く、ほとんど分からない。

 こうなるなら大学の授業をサボらず受けて置くんだった……』


『ロボットの家庭教師を派遣してもらい、教えてもらう。

 数学はすっかり忘れていた。こんな数式と向き合うのは大学受験以来だ。

 この分だと、高校生の数学からやり直さないと……』



『昨晩はあまり寝られなかった。

 今日は昼飯前にテストだ。時間が全然たりなかった。後は運にかける』



『テストの結果が返ってきた。

 100点満点中、オレの点数は12点。

 しかも正解は、選択肢を選ぶヤツで偶然当ったものだけだった。

 アホ毛の連中は簡単なテストで、合格ラインは20~30点ぐらい。

 一方、オレの合格ラインは70点以上と言われた。なんだそれ、無理だろ』



『数学の問題ばかりに気を取られていたが、社会の問題もエグい。

 この問題が出来るようになったら、司法書士の試験に受かりそうだ。

 オレはなんで法学部に入ったんだろう』



『他の連中は昼飯を食ったら帰って行った。

 希望すればココに残る事も出来るみたいだが、そんな事を希望する連中は、せいぜい難民くらいなもんだろう。

 メシがとにかく不味い。隣のホームレスも引き上げていったくらいだ』



『周りからほとんど人が居なくなった。

 他の連中はどんなテストを受けているのか気になった。

 隣のホームレスの教科書が残されていたので、読んで見る。

 社会の問題は小学生レベルだったが、数学の問題が恐ろしく難解だった。全く分からない。

 これは学者レベルの問題じゃないか? 何者だったんだあのホームレス』



『ヤバい、ちゃんと勉強しないと。

 オレ、ここを出られるのか……

 こんなことになるなら、あのホームレスから数学を教えてもらえばよかった』



『明日、頭脳の改造についてロボットに詳しく聞いてみるか……

 いや、もう少し頑張ってみよう』



 トゥイートはここで止まっていた。


「ヤバいなここ」


 ヤン太がつぶやくように言う。


「そうね。特に食事が致命的みたいね」


 ジミ子が返事をしながら、ミサキの方を見てみる。

 ミサキは、硬直したまま、冷や汗をかいていた。


「味はともかく、ミサキはあの量で足りるかな?」


 キングの質問に、僕が答える。


「無理だと思うよ、あの倍くらいないと足りないと思う」


 そう言ったら、ミサキが硬直から復活してきて反論してくる。


「あの3倍は無いと足りないわね。あの量だと、空腹で倒れる自信があるわ」


 変な事を自信満々に言う。

 まあ、ともかく、火星の学習収容所は過酷な環境らしい。

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