パジャマと侵攻
宇宙人のテストに関する騒動が落ち着き、僕らに日常が戻ってきた。
テストが終わり、気が抜けたのか、ヤン太が風邪を引いてしまった。
僕たちは放課後、学校のプリントを届ける為、ヤン太の家へと向う。
ヤン太の家のチャイムを鳴らすと、しばらくするとおばさんが出てくる。
僕が鞄からプリントを渡すと、説明をする。
「すいません、これ、今日の学校のプリントです。元気になったら学校で」
そう言って立ち去ろうとすると、おばさんから引き留められた。
「午前中に比べると、だいぶ具合が良くなったから、会っていって」
「いや、悪いですよ」
「大丈夫よ、インフルエンザじゃなかったから
そういうと、ミサキが僕の腕をギュッと握る。
おそらくお菓子が食べたいのだろう。ここで断ると、後でうるさそうだ。
「わかりました。じゃあ、ほんの少しだけ会って、帰りますね」
「そうしてちょうだい。さあ上がって」
こうして僕たちは、ヤン太の部屋へと案内された。
部屋に上がるのは、けっこう久しぶりの気がする。
もしかしたら、女性化して初めてかもしれない。
ヤン太の部屋に入ると、ベットにヤン太が寝ていた。
僕らを見ると上半身だけ起き上がる。顔の血色は良く、風邪はかなり治っている状態なのだろう。
体の具合は良さそうなのだが、服装がアレだった。
「ま、まあ、体の様子はよさそうだな」
キングが服装に関して話題を避ける。
「服が……」
ジミ子が何か言いかけると、ヤン太がそれを静止する。
「分かってる。これは妹の趣味だ」
ヤン太はピンクのウサギの着ぐるみのようなパジャマを着ていた。
着ぐるみなので、暖かそうではあるが、高校生としては恥ずかしい。元男子としても恥ずかしい。
「なかなか似合ってるわよ」
ミサキが素直な感想を言う。悪意がない分、これはこれで対応に困る。
「お前…… まあいいや。明日には学校に行けるよ」
「しかし、部屋の印象が変わったわね」
ジミ子が室内を見回しながらポツリとつぶやく。
そう言われると、確かに印象が大分変わった。
本棚には劇画調のヤンキー漫画が並んでいるのだが、その列に、目のキラキラとした少女漫画が置いてある。
昔からあったヤンキー仕様のバイクのプラモデルの上には、着せ替え人形で有名なルカちゃん人形がまたがっていた。
僕はこれらについても聞いてみる。
「その漫画も人形も、妹さんの趣味?」
「ああ、そうだ、妹の趣味だな。女性になってから色々と押しつけてくるようになった」
ヤン太が困った顔をしならが答えるが、ジミ子がサッパリと言い放つ。
「良いんじゃない。仲の良い証拠でしょ」
「まあ、そうかもしれないけどな、これ以上は…… 何とかならないか?」
ヤン太が僕らに解決策を求めてきた。
僕は解決策を考えてみる。妹さんはもちろん、
このピンクのウサギのパジャマも、カワイイと思って進めていると思う。それに、困った事に実際に似合っていたりもする。
妹さんを傷付けず、断るのは至難の業だ。
あれこれ考えていると、ジミ子がこう言った。
「嫌だったら嫌と素直に言えば?」
「いや、それが出来たらそうしてるよ」
キングがヤン太に確認をする。
「断った事はあるのか?」
「一度、断ろうと話しをしたら、泣きそうになった。もちろん話しは途中で止めた」
僕が
「じゃあ、こんなのはどう? 妹の趣味にひとつ付き合うと、妹さんもヤン太の趣味にひとつ、付き合わないといけない。これならあんまり言わなくなるんじゃないかな?」
「妹にオレの趣味を勧めるのは、ちょっとな…… それは避けたい」
八方ふさがりだ。そんな中、ジミ子が発言する。
「じゃあ、これしか無いわね」
「なんだ? 良い方法があるのか?」
「それはね…… ヤン太があきらめるのよ。何事もあきらめが肝心よ」
「いや、何か他に良い方法が有るんじゃないか?」
「だって、妹さんに強く言えないんでしょ」
「まあ、そうだけど……」
「じゃあ、我慢するしか無いわね。病み上がりなんで、うちらはそろそろ帰りましょう」
「そんなぁ、ちょっと待ってくれ!」
珍しく弱きなヤン太に、去り際に僕が声を掛ける。
「何かいい方法が思いついたらLnieでメッセージを送るよ」
こうして僕らはヤン太の家から出てきてしまった。
帰り道も僕らは必死に考える。
だが、良い解決法など全く思いつかない。
そんな中、ミサキが声をあげた。
「あっ、そういえば!」
「何? 何か思いついたの?」
僕が意見を聞こうとすると、こんな言葉が返ってくる。
「そういえば、おばさんからオヤツもらうの忘れてた」
ミサキのお腹と、ヤン太のこの問題は、解決する方法が無さそうだ。
後で姉ちゃんに、この事を相談すると、
「ヤン太君か、妹さん、どちらかを洗脳すれば解決できるよ」
とおっかない発言を
やはりヤン太には悪いが、我慢してもらうしか無さそうだ。
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