第20回目の改善政策 2

 なんと、宇宙人は『AHG共生団体』の要請を受け入れ、援助をすると言う。

 デモを聞いた限りだと、彼らの欲望は底なしだった。

 これらの要望を受け入れてしまうと、国によっては存亡の危機かもしれない。



「アホ毛の人達に対して、どのような救済処置を取るのでしょう?」


 深刻な表情で聞く福竹アナウンサー。一方、宇宙人は気楽に答える。


「マズ、差別を無くすネ」


「差別ですか。まあ確かに、人によっては差別の意識はあると思いますが。どうやって解消するのでしょう?」


「この国の『ことわざ』にイイ言葉があるじゃナイ」


「えっ、なんでしょう? 思い浮かびませんね……」


「ソレハ、これネ」


 そういって宇宙人はテロップを出す。

 そこには『馬鹿と言った奴が馬鹿』と書かれていた。



「これは『ことわざ』なんでしょうかね? まあ、ここはひとつ『ことわざ』という事にして、政策に対してどのように関係するのでしょう?」


「アホ毛の人を馬鹿にしたり、ののしったりすると、その人もアホ毛にするネ」


「つまり、アホ毛の人にアホと言った人にアホ毛がうつる、伝染するという感じでしょうか?」


「ソウネ、アホ毛の人を、チョットでも馬鹿にするとアホ毛が伝染するヨ」


 ……これは大変だ。

 ミサキのそばに居る僕たちは、ちょっと口を滑らすと、アホ毛になる可能性がある。気をつけなくてはならない。



「ああ、まあいいです。わかりました、これで差別が無くなったとしましょう。

 それで援助の方はどうなるんでしょうか?」


 福竹アナウンサーが差別の話しを投げやりに打ち切り、強引に番組を進める。

 おそらくアホ毛の伝染より、援助の金額の方が気になるのだろう。



 援助の内容を聞かれ、宇宙人はいつも通り淡々と答えた


「ワレワレは知的支援が必要な人物に対して、全面的に援助を行なうヨ。

 勉強に必要な教科書もノートも、生活に必要な衣服も食料も住居も、全て無料で与えるネ」


 宇宙人が与える援助は、僕が想像したものより遙かに上回っていた。

 それは福竹アナウンサーも同じようで、すぐさま宇宙人に抗議をする。


「教科書やノートの支援は構わないと思いますが、生活の支援はやり過ぎではないでしょうか?」


「ナンデ? 自立できないのだカラ、自立に必要な支援が必要でショ」


「本当に自立できない人には、その支援は必要かもしれませんが……」


「ソウデショ」


「その……、自立できるか出来ないか、援助の判断は、どんな基準で行なうのでしょうか?」


「先ほどのアンケートの結果ネ。あのアンケートで『自立できない』と答えた者が対象ネ」


「ええと、あのアンケートで、自立できるのに援助金目当てに偽りの解答をした人も居ると思うのですが……」


 福竹アナウンサーの言いたい事は分かる。AHG共生団体でも偽のアホ毛を付けてまで補助金をもらおうとする連中が居た。先ほどのアンケートもお金目当てで、『自立できない』と答える人物は居ただろう。


 ただ、宇宙人の監視システムなら、あの解答が本当か嘘かは分かるはずだ。

 詐欺のような行動を取った人物に、いったいどのような処罰が下されるのかが僕は気になった。


 ところが、宇宙人はこんな事を言い出した。


「構わないヨ、あのアンケートで『自立できない』と答えた人物は、全て援助対象ネ」


 とんでもない事を言い出す。これは資金がいくらあっても足りないだろう。

 当然、福竹アナウンサーは猛反発する。


「いや、本来、援助が必要な人に手を差し伸べるのは構いませんが、ある程度の知能と判断力があるのに、お金を受け取ろうとする人に対しては私は反対します」


 キッパリと反対の意思を示す。この意見には僕も賛成だ、おそらくほとんどの国民は同じ意見だろう。


 ところが、宇宙人はこの意見を気に掛けていない様子だ。


「大丈夫ネ、お金の事なら気にしなくてイイネ。ワレワレが支援を行なうカラ」


「本当ですか?」


「ワレワレが掛かる費用を全面的に持つネ」


「それなら安心しました」


 宇宙人が全額出すと知ると、安心してしまう福竹アナウンサー。


 ここで僕は心配になった。姉ちゃんの会社はそこまで稼いでいるのだろうか?

 いくら収益を上げても、これだけの人にたかられると、あっという間に潰れそうだ。



 僕の心配をよそに、落ち着きを取り戻した福竹アナウンサーは、いつもの調子で質問を続ける。


「ところで全面的に支援をするといった内容でしたが、一人当たり、どれくらいのお金を支援するのでしょう?」


「ワレワレはお金は払わないネ」


「えっ、衣食住の面倒を見るんですよね?」


「ソウネ、衣食住の面倒を見るネ」


「では、どうするのでしょうか?」


「ソレハ、コレを見てネ」


 そういうと、空中にモニターがあらわれ、赤茶けた大地と深い青色の空を映し出す。この光景には見覚えがある。火星の地表だ。



「これは、火星ですよね?」


 福竹アナウンサーが不可解ふかかいな表情で宇宙人に聞く。


「ソウネ、火星ネ。」


 前に見た火星は、農場として開発されていた。大地のほとんどは緑色に覆われていたのだが、この場所は違う。

 白い四角い物体が、等間隔に置かれているだけで、どこまでも荒れ果てた大地が続いているようだ。


「なぜ、この場所をわざわざ中継したのですか?」


「ココが学習収容所がくしゅうしゅうようじょだからネ、白い四角形はベットと机、あと、トイレと風呂ダヨ」


「しゅ、収容所ですか…… もしかしたら、アンケートで『自立できない』と答えた人は、この場所で勉強をさせるという事ですかね?」


「ソウネ、勉強に集中して貰う為に余計な物は置いていないヨ。存分に勉強して欲しいネ」


 宇宙人がとんでもない事を言い出す。

 どうやら勉強するための収容所を火星に作ってしまったらしい。



 福竹アナウンサーは頭を抱えながら、しばらく悩み、こう話しを切り出した。


「言いたい事は色々とあるんですが、ここに収容された人は抜け出せるんでしょうか?」


「外に出ると窒息するカラ、オススメしないヨ」


「ええと、そういう意味ではなくて、地球には戻ってこられるんでしょうか?」


「一週間に一度、テストを開催シテ、ソレに合格すれば、戻ってこれるネ」


「なるほど、わかりました。それなら安心です」


 福竹アナウンサーは意外にも宇宙人の提案を受け入れた。

 おそらく、あのテストの難易度を考えて、大丈夫だと判断したのだろう。


 あの環境で一週間も勉強すれば、よほどの事が無い限り合格するハズだ。



「収容所の環境についてですが……」


 そこまで言いかけた時、スタッフから声が掛かる。

 福竹アナウンサーがチラリと時計を見た。どうやら番組の終了時刻が近づいているらしい。


「すいません、お時間となりました。いつものアンケートのご協力をお願いします」


 いつものアンケートの入力画面が現れ、僕は「今週の政策は『良かった』」「宇宙人を『支持できる』」に投票する



 しばらくすると集計が表示された。


『1.今週の政策はどうでしたか?


   よかった 72%

   悪かった 28%


 2.プレアデス星団の宇宙人を支持していますか?


   支持する 34%

   支持できない 66%』


 意外にも、今週の政策は支持されているようだ。



 番組の最後に宇宙人からの告知があるみたいで、テロップを出して、こんな事を言う。


「アンケートで『自立できない』を選択した人は、今日の午後4時にロボットが迎えにいくカラ、ヨロシクネ」


「それまでには出発の準備をしておく必要がありますね」


「ソウダネ」


「では、また来週もお会いしましょう」


「マタネー」


 こうして番組が終わる。



 番組が終わり、僕が声をかけようと隣を見ると、ミサキが脂汗をだらだらとかいていた。

 先ほどのアンケートの答えで『自立できない』と答えていたら、ミサキもこの場所に送られる羽目になっていただろう。


 もしかしたらミサキは一週間くらい、あの場所で勉強に励んだ方が良かったのかもしれないが……

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