マイノリティー 3
ミサキが怪しいデモに参加する事になって、僕たちは対策を練る。
ハンバーガーチェーンのメェクドナルドゥで何度か話し合いを繰り返し、ミサキには念のため、スマフォに通報アプリを入れ、制服の内ポケットに防犯ブザーを持たせた。
それと、とりあえず姉ちゃんに相談する事にした。
僕が姉ちゃんに事情を説明すると、こんな対応をしてくれた。
「わかった、何かあったら分かるように、ロボットにミサキちゃんを監視させておくね。
あと、当日のデモは、うちの会社の前でやるんだよね?
だったら会社の中でみんなは待機して、それで何かあったら駆けつけてよ。外で待つより良いでしょう」
こうして僕らは会社の中から、デモの様子をうかがう事になった。
宇宙人の監視システムが、初めて僕らの役に立っている気がする。
時間は過ぎ、デモを行なう当日となった。
その日は土曜日で、デモは学校の終わった午後から行なわれる予定だ。
昼を過ぎると、僕らは姉ちゃんの会社の会議室で待機をする。
「私はちょっと他の仕事をするから。席を外すけど、もし何かあったら電話でもかけて」
姉ちゃんはそういって何処かへと移動していった。
会議室には、いくつものテレビモニターが並べられ、あらゆる角度でミサキの映像を映し出していた。
ミサキは学生服のまま、最寄り駅の改札の出口で待ち合わせをする。
普通だったら、初対面の人と待ち合わせをする場合、
だが、この団体の集合に目印は要らない。髪型を見れば同志だと、すぐに分かるだろう。
集合時間が近づくと、アホ毛の人達が、一人二人と集まって来た。
見た目はごく普通の人達だが、手にはプラカードのような物を抱えていて、これからデモを行なう事がうかがえる。
そして25人程が集まると、移動を開始し始めた。
アメリカでは20万規模と言っていたので、どうなるかと思ったが、この場所での参加者は、以外と少ないらしい。
「おっ、デモが始まりそうね」
ジミ子がモニターを指さしながら言った。
駅から会社までは約5分程度の道のりがある。移動中にも、何かを訴えながら来るのかと思ったのだが、だらだらと歩いて移動するだけだった。
そして会社の前に着くと
いよいよデモが始まる。リーダーが何かを叫ぼうとしたとき、ミサキが横から現れて忠告をする。
すると、リーダーは少し移動をして、あらためて拡声器のマイクを取った。
どうやら隣のビルに対して、何かを主張しようとしていたらしい。
この団体は行動を起こすのなら、もう少しちゃんと下調べをするべきだろう。
マイクを取ったリーダーは、僕らの居るビルに向って、こう訴えかける。
「我々は『
このままでは我々は生活できません。生活保障などの助成制度が必要不可欠です」
リーダーが
「我々には特別障害者手当が必要です。月額26,940円の手当が必要です。
それに加え、障害基礎年金の1級の手当、月額81,177円が必要です。
また東京都重度心身障害者手当のような自治体の補助金も要ります、月額6万円は必要不可欠です。
もちろん、ベーシックインカムの月額7万円も頂きます。
これらが無いと生きていけません。そのほか、各種税金の優遇措置を……」
演説は続いて居るが、やたらとよく調べている。この内容だとあまりアホとは思えない。
「こいつら、いくら
ヤン太があきれながら言った。
「まあ、もらえるだけ貰おうって話しでしょうね」
ジミ子が鼻で笑いながらつぶやく。
「でも見ろよミサキの顔。輝いてるぜ」
キングがモニターを指さすと、そこには目を輝かせて興奮しているミサキの姿があった。
どうやらこれらのお金が全て貰えると思っい込んでいるのだろう……
やがてデモ隊はこんなコールを繰り返す。
「補助金、よこせー!」「「「補助金、よこせー!」」」
「障害者年金、よこせー!」「「「障害者年金、よこせー!」」」
「ありとあらゆる手当、よこせー!」「「「ありとあらゆる手当、よこせー!」」」
もはや何のデモか分からなくなった。
まあ、お金を貰いたい、という主張だけは分かったが……
騒ぎが大きくなって来ると、ロボットが一体、外へと出て行った。
そしてデモ隊のリーダーと見られる人物に話しをする。
「ご要望があれば、お伺いしマス」
すると、リーダーは要望書を用意しておいたようだ。
「これを責任者に渡してもらえますか?」
「ハイ、了解しました。他にご要望はありマスか?」
「それだけです」
「デハ、伝えておきマス」
そういってロボットは会社の中に戻ってきた。
やる事が無くなり、
すると、どこからともなく、こんな声が上がる。
「責任者に合わせろ!」「ロボットじゃ信用できない!」「責任者を出せ!」
姉ちゃんより、ロボットの方が信頼できるんじゃないかと僕は思うのだが、この団体の主張は違うようだ。
しばらくして声が大きくなり、収集が着かなくなりそうになると、どこからともなく姉ちゃんが現れた。
「やっぱり『責任者を出せ』って話しになったか。ちょっと行ってくるね」
そういって外へと出て行く。
姉ちゃんとリーダーの人が話し合う。
これで話しが丸く収まるかと思えば、そうではなかった。
今度は宇宙人を連れてこいと言い始めた。
「いや、それはさすがにむりです。ちゃんと私が用件を伝えますので」
姉ちゃんが少し下手に出ると、相手は付け上がってくる。
「あなたではダメです。我々は宇宙人に直接伝えたいのです」
姉ちゃんと会うという主張が通ると、さらに要求がエスカレートしたらしい。
姉ちゃんは、これからどうするのかと見守っていると、空が暗くなり急に雨が降り出した。
するとAHG共生団体のリーダーがあっさりと引き始める。
「今日はここまでにします。続きはまた後日。皆さん解散しましょう」
雨に追われるようにデモ隊は散り散りになって駅へと逃げ込む。
デモ隊が居なくなると、姉ちゃんが僕たちの居る会議室へと戻ってきた。
「いやぁ、天気を雨にセットしておいて正解だったわね」
「天気もイジれるの?」
僕がそう聞くと、姉ちゃんはさも当然に答える。
「ある程度はね」
「でも、あっさりと引きすぎじゃないですか? あのデモ隊」
ジミ子があの行動を不振に思ったようだ。
たしかに、あの
「ほら、モニターを見てみなさい。彼女らが引いた理由が分かるから」
そういうと、モニターは再びデモ隊のメンバーを映し出す。
メンバーは無事に駅に逃げ込んだようだ。コンビニでタオルを買って、体を拭いている。
だが、ここで僕は違和感を覚える。先ほどと何かが違う。
すると、キングがある異変に気がついた。
「あっ、アホ毛が取れてる人が居る」
その事実を聞いて、ヤン太も驚く。
「本当だ、6~7割が普通の髪型してるな」
姉ちゃんが解説をしてくれた。
「あのデモ隊のメンバーの6~7割は偽物のアホ毛よ。本物のアホ毛はあの程度の雨には負けないわ」
そう言うと、モニターはミサキを映し出す。
そこには、濡れているにもかかわらず、ピンと立っているアホ毛があった。
……あの団体は、ろくでもない団体のようだ。
その後、AHG共生団体の集団はミサキを残し、改札の中へと消えていく。帰宅するのだろう。
自由になったミサキは、僕らの居る場所へとやってきた。
「ただいま。よかった、大した事もなくて」
笑顔で話しかけて来たが、ジミ子があきれながら、質問をする。
「最後の方で、何か気づいた事はない?」
「うーん…… 特に何も無いかな?」
「ほとんどのアホ毛が無くなってたんだぜ。参加者の大部分が偽物だったんだ」
ヤン太に指摘されて、驚くミサキ。
「うそ! ぜんぜん気がつかなかった」
あの異変にまるで気がつかなかったらしい。
もしかしたら、ミサキは本当にアホなのかもしれない……
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