マイノリティー 2

 ミサキが『AHG共生団体』とかいう団体に入会してしまった。

 話しを聞くと、補助金や助成金などがいっぱい貰えるとの事だ。

 怪しい。怪しすぎる。


 登校し、教室に入ると、ヤン太とジミ子とキングが会話をしている。

 僕とミサキもその輪へと加わる。


「何の話しをしていたの?」


 ミサキがジミ子にたずねる。すると、ジミ子があきれながらこう言った。


「何か、アメリカにAHG共生団体って変な団体が出来たみたいじゃない。それの話をしていたのよ」


「アメリカでは既に会員が300万人を超えたらしいぜ」


 キングが最新情報を教えてくれる。昨日発足したのに、もうかなりの勢力をもった団体だ。


「お前も入ってみたらどうだ?」


 ヤン太がふざけて言う。するとミサキはスマートフォンの画面を見せながら言った。


「実はもう入っちゃった」


 ちょっと得意気とくいげに話すミサキ。一方でドン引きするヤン太とジミ子とキング。

 怪しげな団体に躊躇ちゅうちょなく入会してしまうミサキを、信じられないといった目つきで見る。



「お、お前……」


 ヤン太が何かを言おうとするが、言葉が出てこない。


「なんでそんな団体に入っちゃったの?」


 ジミ子の質問に、ミサキは笑顔で答える。


「アホ毛だと、補助金や助成金とかもらえるらしいよ」


 するとキングが指摘をする。


「アホ毛で補助金や助成金がもらえるなら、その団体に入っていなくても貰えるはずだぜ」


「……そうね。でも、もう入っちゃったから」


「メリットが無いなら、退会すれば良いんじゃないかな」


 僕が言うと、ミサキもその気になったらしい。


「そうね。退会するのも良いかもね」


 Webページに行き、退会しようとするが、どこを探しても『退会』の文字が無い。

 キングが検索ページで調べて見たところ、この団体の利用規約が出てきた。


 そこには『AHG共生団体は一度入会すると退会できません、差別が無くなるまで共に頑張りましょう』との文字が。


 キングが残念な事実を伝える。


「……退会できないみたいだぜ」


「ああ、うん。まあ何とかなるんじゃないかな」


 ミサキは楽観的に言うが、大丈夫なんだろうか、この団体は。



 どうにか出来ないものかと、悩んでいるとチャイムが鳴り授業が始まった。


 この日の授業は、特に変わった事もなく終わり、放課後を迎える。



 自由になった僕らは、これからどうしようかと話し合う。

 すると、ミサキのスマフォが震えた。


 ミサキはスマフォを見るなり、嫌な顔をした。


「どうしたの? なにかあったの?」


 僕がそう聞くと、ミサキがスマフォを見せながらこう言った。


「見てよこれ、AHG共生団体から凄い数のメールが来てる」


 ジミ子があきれたように言う。


「メールアドレス教えちゃったんだ」


「うん、会員登録に必須だったからね」


「それでメールはどんな内容なんだ?」


 ヤン太が質問をすると、ミサキはスマフォをイジりながら答える。


「ええと、行進? デモ? なんかそんな感じのお誘いかな?」


 ジミ子が確認をする。


「参加するの?」


「うーん面倒くさいな。できるだけ参加したくない」


「じゃあ断りのメールを出すんだ」


「そうね。じゃあすぐに出しちゃうね」


 ミサキは文字を打ち込み始めたが、途中で指がピタリと止まる。


「どうしよう。何か断る理由が必要みたい」


 するとヤン太がからかう。


「素直に『めんどいから』って書けば」


「さすがにそれはマズいでしょ、適当な理由をつけないと」


「ちょっと見せてよ」


 僕がミサキのスマフォをのぞきこむ。

 何か断る理由を探しながら読んでいると、一つ、理由が見つかった。


「これ、デモの開催場所が遠いんじゃない。学生だからお金がないとか、そんな理由をつけておけば」


「そうね。じゃあ『開催場所が遠いので無理です。学生なのでお金がありません』っと。これでOKね」


 メールを出してしばらく雑談をしていると、またミサキのスマフォが震える。


「何かしら?」


 そう言いながらスマフォを確認するミサキ。

 そして画面を見るなり苦い顔をする。そして僕らに相談してきた。


「今週の土曜日に、地元の駅でデモを行なうみたい『宇宙人の事務所があるから直接抗議しましょう』ですって」


 キングが頭を抱えながら言う。


「住所も教えたのかよ」


「うん。会員登録に必要だったから。どうしよう、今度は断れそうにない……」


「一度、デモに参加してみれば」


 ジミ子がそう言うと、ミサキは急に不安になったようだ。


「なんか、怖くなってきた。ちょっと付き合ってくれる?」


「いや、でも俺らにはアホ毛がついてないからマズいだろ」


 ヤン太が無理だと断る。

 たしかに、このデモの中に僕らが参加するのは不自然だろう。

 代わりに僕がこんな意見を提案してみる


「じゃあ、ちょっと離れた場所から見てるよ、何かあったら助けに入るから、それで大丈夫?」


 すると、ミサキは笑顔で返事をする。


「うん、それでお願いね」


 こうして僕らはデモ当日の日に、ミサキに付き合う事になった。

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