影響力と効果と範囲 2

 山盛りのポテトの大半を食い尽くしたミサキが、ようやく一息つく。


「ふう、食べた食べた」


「まだハンバーガー残っているけど」


 ここまででミサキはポテトしか食べていない、ハンバーガーは持ち帰る気だろうか?


「ハンバーガーは別腹だから大丈夫よ! 任せて」


 今まで聞いたことのない、都合の良い別腹が現れる。

 ちょっとあきれたが、先ほどまでの落ち込んでいる様子は全くない。いつもの明るいミサキに戻ったようだ。



「しかし先週からの政策は驚いたな」


 ヤン太が愚痴ぐちを言うようにつぶやく。


「まあ、大した事なくてよかったぜ」


 キングがミサキのアホ毛を見ながら答えた。


「そんなに見ないで。これ、なんとかならないのかな?」


 ミサキは頭を左右に振る。するとアホ毛はプルプルと震える。


「プロのメイクさんが直せなかったから無理だと思うよ」


 僕がそういうと、ミサキはあきらめたらしい。


「そっか、まあ気にしてもしょうがないのかな」


 そんな話しをしていると、ジミ子のスマフォが震える。

 ジミ子はスマフォを手にとり、しばらく見ていると、ミサキにスマフォのニュースの記事を見せながらこう言った。


「意外と仲間は多そうよ」



 スマフォの記事の見出しには、こんな事が書かれていた。


『トップアイドルグループ、AK47に忍び寄る魔の手』


 記事の内容を読んでいくと、どうやら47人いるメンバーの13人ほどがアホ毛の状態になったらしい。


「まあ、あまり頭は良さそうには見えなかったけど、これは酷いな」


 ヤン太が率直な感想を言う。確かに酷い。


「この記事の最後に、芸能人のアホ毛の一覧表があるぜ」


 キングがリンク先を指さす。


「見てみましょう」


 そういってジミ子はさらなる被害者リストを広げた。


 そこには、お笑い、アイドルはもちろん。大御所の女優から、有名な司会者の名前まであった。

 名前のリストの一部は『確認中』と文字があるものの。帽子を深く被り、写真を拒否する姿が載せられている。その様子からアホ毛が生えている事がうかがえる。おそらく試験はダメだったんだろう。


「こんなに居るんだ」


 自分の事は置いておいて、ミサキもあきれた様子で言った。


「ほらミサキ、あの人とおそろいだよ」


 僕がリストの一人を指さして、そう言うと、ミサキも悪い気はしないらしい。


「そうね、こうして見ると、この髪型も悪くないかもね」


 いや、さすがにトップモデルと比較するのはどうだろう?

 あの人達なら、どんな髪型でも似合ってしまう。

 ……まあ、ミサキもかなり似合っているけど。



 一通り、有名人のリストを見終えると、ヤン太がこう言った。


「まあ、芸能界は特別なんじゃないか?」


 すると、ジミ子もその意見に賛同する。


「そうね、ちょっと特殊な業界なんで、参考にならないかもね」


「たしかにそうかもね」


 僕らが感想を言っていたら、キングが新たな記事を見つけて来た。


「おい、ちょっとコレを見てくれ。このリストヤバいぞ」


 そこには『驚愕きょうがく、これがアホ毛の政治家だ!』というタイトルがあった。


 芸能人があのテストを落ちたところで、大した影響はないが政治家はヤバい。

 この国の行く先が心配になってきた。


「見てみよう」


 僕がそういうと、キングが政治家のリストを表示する。

 するとそこには年齢順にならんだ政治家の名前があった。


 リストの上位は90歳以上で、ほとんど知らない人だ。でも高齢者なので納得できる部分もある。


 最近は宇宙人の技術で、アルツハイマー病などの治療が出来るようになった。

 治療を行なうと、病気の進行は完全に止まり、通常の判断力ができるまで回復するようなのだが、失われた知識までは戻らないらしい。


 こういった人々は、中学生や小学生、重度の人は幼稚園から勉強し直さないといけないらしい。

 このリストに載っている政治家の名前の横には『再学習中さいがくしゅうちゅう』と説明がある人が多いので、あの試験に落ちてしまってもしょうがないだろう。


「知らない人ばかりね、誰か知っている人居る?」


 ジミ子がみんなに質問をするが、全員が首を横に振った。


「まあ、これなら大丈夫そうか」


 ヤン太がそういって、リストを下の方へと移動する。

 すると、年齢順のリストなので、だんだんと若くなっていく。


 やがて僕らでも知っている名前が出てきた。


 政界を引退した大物政治家。

 元芸能人で政界に転向した人。


 ここまでは、まだ納得できるのだが、そのうち現役の政治家の名前まで出てきてしまう。中には、野党の役職のある議員。書類を棒読みするだけの元副大臣まで含まれていた。


 もっとも有名な人物は、現役の議員ではないが、奇抜な服装で話題になった元総理大臣の名前も上がっている。


「おい、元総理大臣の名前まであるぜ。この人はたしか最高峰の束京大学出身だろ?」


 キングがいつになく真剣な様子で言う。


「マジかよ、たしかに海外では『愚か者』とか言われていたけど……」


 ヤン太も言葉を失うほど、驚いている。



 この元総理大臣に関しては特集が組まれていた。

 記事のタイトルを押すと、アホ毛でドヤ顔の元総理大臣の写真が載っている。


 写真を見るなりミサキがこんな事を言った。


「まあ、でも、にあっているわね」


「うん、にあってるね」


 この意見には、僕らは賛同せざるを得ない。

 この人のアホ毛は初めからそこにあるように似合いすぎている。

 もうアホ毛が無いときの写真の方が、違和感を覚えてしまう。


 現役だった時に『朝言った事と、夕方言った事が違う』とか、そんな記事になったが、今となっては納得がいく。


 この後、僕らはこの人が現役の総理大臣だった頃の話題で盛り上がった。

 そしてあっという間に時間が過ぎて、この日は解散となる。

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