第19回目の改善政策 2
電撃がミサキを直撃した。
「み、ミサキ、大丈夫か?」
僕が駆け寄ると、ミサキはキョトンとした顔で答える。
「うん、平気みたい。ちょっとピリッと静電気が走ったけど」
僕はひとまず安心をする。だが、宇宙人の技術は侮れない。これで僕らは女性にされた。
これから先、ミサキの頭脳がどうなってしまうか分からない。
黙って静観するが、特に何か変化が起こる訳ではなかった。
教室のざわめきが少し落ち着くと、テレビの福竹アナウンサーの声が耳に入った。
「ええと、これで処置がされたんでしょうか?」
どうやらスタジオには被害者は出なかったようだ。様子が分からないらしい。
「デハ、サンプルとしてキミに処置を行なうヨ」
そういって宇宙人が手で合図を送ると、福竹アナウンサーが電撃に撃たれる。
これは、何というか不運でしかない……
「痛、ちょっと、やるならやると言って下さいよ」
福竹アナウンサーが抗議をするが、宇宙人は全く気にしない。
「視聴者に説明するため、サンプルは必要でショ」
「まあ、そうかもしれませんが。ええと、今のところは何も変化がないですね」
「変化が起こるマデ、2~4分かかるネ」
「分かりました。それではしばらくお待ち下さい」
2~4分といえば、いつもならあっという間に過ぎ去ってしまう時間だ。
だが、この時は長く感じた。これからの出来事は、ミサキにも降りかかるのだから。
そして2分が過ぎ、3分を超えようとした時だ。変換が起こる。
福竹アナウンサーの頭頂部辺りの髪の毛が一本、ピンと立ち上がった。続いて2本、3本と続き、やがて筆のような髪の毛が立ち上がる。
「コレが、テストに選別された者への処置ネ」
「何が起こったのでしょうか? 特に変わったように思えないのですが?」
福竹アナウンサーは全く気づいていない。
そこにスタッフの人が手鏡をもってやってきた。
福竹アナウンサーは自分の頭を鏡を確認し、宇宙人に問いかける。
「なんですか、これは?」
「ソレは『ahoge』ネ」
「それは、いわゆる『アホ毛』ですか?」
「ソウネ、この国ではそう言われてるネ」
「頭をイジるって髪型だったんですか? 私はてっきり頭脳を改造するものだと思っていました」
「ソッチの方が良かったカネ? それなら今からでも追加で変えるヨ」
「いえいえ、このままで結構です。しかし、まあ、髪型ですか……」
……頭をイジるとは、どうやら髪型の変化だけだったらしい。何という人騒がせな宇宙人だろうか。
ここで僕は隣のミサキの頭を見てみる、するとそこには立派なアホ毛があった。
「まあ、大丈夫そうだね」
僕はミサキに声を掛ける。
「えっ、どうなってるの? 福竹アナウンサーみたいになってるの?」
状況がいまいちつかめないミサキに、ジミ子がコンパクトミラーを渡した。
「ほら、見てみなさい」
「ほんとだ。ああ、もうイヤだこんなの」
嫌がるミサキだが、意外と似合っている。
僕が試しに指でふれると、ふるふると震えた。これはなかなか楽しい。
「ちょっと髪型直してくる」
そう言ってミサキはトイレの方へ向っていった。
ミサキがトイレで髪型を直している間も番組は続く。
福竹アナウンサーが宇宙人を問い詰める。
「どうしてこんな政策になったのですか?」
「この国の文化を調べると『ahoge』をつけた人物は、周りの人が、親近感をもって接するじゃナイ」
「ええ、まあ、フィクションですが、マンガや小説だと確かにそういう場合が多いですね」
「だからネ、人類がコミュニケーションを
「……これが進化ですか? しかし本当にこれでコミュニケーション能力が向上するのでしょうか?」
「……ソウネ、きっと向上すると思うネ」
福竹アナウンサーに強く言われ、宇宙人が珍しく小声で自信がなさそうに答えた。
こんなに自信のない宇宙人は、初めてかもしれない。
「……なるほど、わかりました。メイクさん、ちょっと直してもらえないでしょうか?」
効果が全く無いと分かった福竹アナウンサーは、髪型を直すようだ。
プロのメイクの人が、ヘアスプレーとブラシを持って画面の中にやって来る。
そして福竹アナウンサーの髪を直そうとするのだが……
何度やっても戻らない。スプレーだけではなく、ドライヤーやワックスを使ってもダメらしい。アホ毛はピンと立ったままだ。
「ちょっと無理です。直りそうにありません」
メイクの人があきらめた。
しばらくするとミサキも帰ってくる。
どうやら頭を水で洗ったらしい。ぐっしょりと髪が濡れているのだが、アホ毛はそのままの形を維持していた。
どうやらこのアホ毛、宇宙人の未知の技術が使われているらしい。
なんという技術の無駄遣いだろうか。
福竹アナウンサー今週の政策に完全にあきれていると、スタッフから声が掛けられる。
どうやら終了の時間が迫っているらしい。
「それではアンケートの時間となりました。ご協力をお願いします」
慌てていつものアンケートを取る。
僕は「今週の政策は『悪かった』」「宇宙人を『支持できない』」に投票する
そしてしばらく待つと、集計が表示された。
『1.今週の政策はどうでしたか?
よかった 6%
悪かった 94%
2.プレアデス星団の宇宙人を支持していますか?
支持する 19%
支持できない 81%』
やはり今週の政策は、ほとんどの人は支持していないようだ。
「では、お時間となりました。また来週もお願いします」
「マタネー」
いつもの挨拶を終え、政策改善の発表会は終わる。
こうして国民を大々的に巻き込んだ事件は、大した被害もなく終わった。
ちなみに、この事件の前と後では、国の学力が大幅に向上したらしい。
もしかしたら、こういったテストを定期的に行なった方が、人類の為になるのかもしれない。
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