第19回目の改善政策 1

 そろそろ正午になろうとしている。今日は第19回目の改善政策が発表される日だ。


 今週の政策は予想がつく、あの『第一回 アホ選別せんべつ試験しけん』で成績の悪い人物の頭をイジるのだろう。


 テストに落ちた可能性の高いミサキは、朝から憂鬱ゆううつな様子。

 あのテストの日からは、落ち込んでは周りに励まされ、持ち直してはまた落ち込む、といった日常を繰り返していた。


 頭をイジるのは大変な事だが、僕は姉ちゃんから元に戻せるという事を聞いている。そんなに絶望的にならなくても済むかもしれない。



 そして時刻は正午を迎え、いつもの番組が始まった。


「はい、第19回目の改善政策の発表会です、今回は前回の改善政策の続きでしょうか?」


 福竹アナウンサーが挨拶をすると、すぐ宇宙人に質問をぶつける。


「ソウネ、続きネ。今週の改善政策は、アホ選別せんべつ試験しけんで選別した人物に対して、適切な処理を行なうネ」


「頭の改造ですね」


「ソウネ、頭をイジるネ」


「そういえばテストの合格点は知らされていません。合格するには、どのくらいの点が必要なのでしょうか?」


「ソレハ、社会的立場によって少し違うネ。点数の低い不合格者ハ、一般的な社会人は20点未満、地位の高い人物は30点未満、学生や老人は15点未満が選別対象ネ」


 簡単なテストの上に、合格点の基準は意外と低い。学生はさらにハードルが下がるようだ。

 これならミサキも平気かもしれない。僕はちょっとだけ安心する。



「なるほど、わかりました。具体的には今回の対象人数はどれくらいでしょうか?」


「この国ダト、162万4218人が対象ネ、人口がおよそ1億2千万人だから、およそ1.3パーセントだネ」


「意外と多いですね。簡単な問題でしたが……」


 福竹アナウンサーが複雑な表情を浮かべた。162万人といえばかなりの数だ。

 あの簡単なテストをそれだけの人が落ちてしまったのか……

 この国の未来がちょっと心配になる。



「ソレデハ、早速、選別者に告知を行なうネ」


 宇宙人が処理を行なおうとすると、福竹アナウンサーがここに来て、最後の抵抗を試みた。


「ところで、わたくしなりに考えてみたのですが、やはり頭をイジるというのはやり過ぎではないでしょうか?」


 すると宇宙人は平然とこう答える。


「ソンナに大した事はないヨ」


 やはり価値観が違うらしい、福竹アナウンサーは何とか中止する理由を見つけ出そうとする。


「いや、でも、一度改造してしまうと、人格などに影響が出るとも限りませんよ」


「大丈夫ネ、影響は出ないし、元に戻せるネ」


「えっ、元に戻せるのですか?」


 ここで僕が姉ちゃんから聞いた話が出てきた。やはり、あの話しは本当だったようだ。


「ソウネ、だから試しにイジって見るとイイネ」


「……本当にちゃんと元に戻せるのですか?」


 疑う福竹アナウンサーに、宇宙人はキッパリと言い切った。


「大丈夫ネ、人によっては1日か2日くらいかかるかもしれないケド。完璧に戻せるネ」


「そ、そうですか。少しだけ安心しました」


 福竹アナウンサーが胸をなで下ろす。

 完璧に元に戻せるのなら、最悪の結果にはならないだろう。



 宇宙人の行動を阻止する者が居なくなると、いよいよ行動に移す。


「デハ、選別対象者に告知をするネ。頭上に赤の矢印が現れた人物が、頭をイジる対象者ネ」


 そういって宇宙人は手を挙げる。


 僕はまず自分の頭上を見上げた。大丈夫、なんの表示もされていない。

 続いて教室の中を見渡す。するとそこには赤い矢印が一つあった。視線を落とすとミサキが自分の頭上の矢印を見つめている。


「ミサキ……」


「あっ、私、落ちちゃった……」


 青ざめたミサキに、どういう言葉をかけようかと、一瞬、考える。

 その時、視界の隅に、銀色の銃のような浮遊物が目に入った。この金属の浮遊物は僕らを女性に変えたものと同じだ。


「ミサキ、避けろ!」


 そう叫んだものの、電撃など避けられるはずが無い。

 小さな稲妻はミサキに直撃をした。

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