答え合わせ

 チャイムが鳴りテストが終わる。

 試験の監視役のロボットが「終わりデス。答案を回収しマス」と言ってテストを集めていった。

 テストを回収し終わると、ロボットは「合否ごうひは次回の改善政策の発表に行ないマス」と告げて、どこかへ去って行く。


 ようやくテストから解放された。僕たちはホッとする。



 担任の墨田すみだ先生はロボットと入れ替わるように教壇に立つと、ホームルームを始めた。


「いやあ、思ったより簡単で拍子抜ひょうしぬけだったな。みんなはどうだった大丈夫か?」


「大丈夫です」「楽勝でした」「余裕ですよ」


 テストの手応えを感じてか、みんな元気な返事を返す。教室の雰囲気は極めて明るい。

 墨田先生は満足そうに、みんなの声を聞き入った。


「そうか、そうか。それはよかった。今日はこれで授業を終えるぞ、何か質問があるヤツはいるか?」


 僕が手を挙げて質問をする。


「明日からは普通の授業ですよね?」


「そうだ、普通の授業だ。本当なら休みにでもしてやりたいが、いち公務員の権限では、そんなことは出来ない。まあ、今週は忙しかったから、居眠りくらいなら見逃してやるよ」


 そう言うと、ミサキが調子に乗る。僕だけに聞こえるように、小声でこう言った。


「居眠を見逃してくれるって。枕でも持ってこようかな」


「さすがに枕はマズいよ」


「うーんそうね、普通に寝るだけで我慢するわ」


 授業で寝るのを前提にするのはどうかと思ったが、昨日まであれだけ頑張ったのだから、そのくらいのご褒美は許されるのかもしれない。


「他に意見は無いか? 無いなら気をつけて帰れよ! じゃあまた明日な」


 こうして僕らは解放された。



 放課後、僕らはどこに行こうか考える。

 遠出して例のスイーツ食い放題の店に行こうという話しも出たのだが、みんな疲れているので、いつも通り、近場のハンバーガーチェーンのメェクドナルドゥに行くことにした。


 僕らは馴染みの店に入ると、いつもより高いハンバーガーを頼んだ。

 テスト後の祝勝会を兼ねて、少しぐらい贅沢をしても良いだろう。


 ハンバーガーを受け取り、席に着くと、さっそくかぶりつく。

 肉が厚くて旨みが出ている。安いハンバーガーとは大違いだ。



 みんな笑顔で食事を楽しんでいるのだが、ミサキがレシートを持って固まっていた。


「どうしたの? 何かあった?」


 僕がそう声を掛けたら、予想外の答えが返ってきた。


「アレ? 消費税って5パーセントじゃなかったっけ?」


「い、いつの話しなの?!」


 ジミ子が驚いて声を上げた。キングが慌てて詳細を調べる。


「消費税が5パーセントだった最後の日は、2014年3月31日だな。もう何年も経ってるぜ……」


「お前、なんで気づかなかったんだ?」


 ヤン太があきれてミサキに聞く。


「だ、だって。税金って計算されてるから、レシートの合計金額をそのまま払えば良いじゃない」


「ま、まあ、そうかもしれないけど……」


 僕が何とか相づちを打つ。

 まさか消費税を覚えていないとは思わなかった。


 そういえば先ほどのテストの問題で、消費税の出てくる問題があったので、ミサキはこの問題を間違えてしまっているだろう。


 ここで僕は漠然とした不安に駆られた。


「ミサキ、ちょっと答え合わせをしよう。覚えている範囲で良いから」


「うん、いいよ。今回のテストは自信があるんだからね」


 笑顔で返事を返してきたが、本当に大丈夫だろうか……



「とりあえず、覚えている問題をみんなで言ってみようよ」


 僕がそう言うと、さっそくヤン太が質問をする。


「本屋の店員になったときに『ブックカバーをかけますか?』と、お客さんに質問をしたら『いいです』と返事が返ってきた。ブックカバーは『要る』か『要らない』か、どっちだ」


 するとミサキが自信満々で答える。


「そんなの『要らない』に決まってるじゃない」


 僕らはホッとする。だが、続いてミサキは信じられない説明を加えた。


「普通だったら『要らない』という意味だけど、もしかしたらブックカバーをかけて欲しいという意味の『良いです』というケースも考えられるわ。とりあえずブックカバーをかけて文句を言うお客さんはいないし、かけて渡せば良いんじゃないかな?」


「えっ、じゃあ、もしかして」


 僕が目を丸くしながら解答を聞くと。


「ブックカバーをかけて渡すから、答えは『要る』だわね」


 ……その説明を受け、僕らは頭を抱える。



「じゃあ都道府県の合計数は?」


 ジミ子が次の問題を出した。

 ミサキはかなり県名を書いて覚えていたから、これは解けるだろう。


「ええと47だね」


 僕らは安心する。だが、次にミサキはこんな事を言い出した。


「47県だから、あと1都、2府、1道を加えて、51都道府県だよね」


 余計な計算をして、謎の都道府県をいくつか追加してしまっている……


 ジミ子があきれながら言った。


「ミサキ、都道府県名は全部言える?」


「バッチリよ、完璧に覚えたわ」


「じゃあ、数えながら言ってみなさい」


「ええと『北海道』『青森』『秋田』……、最後に『沖縄』で、あれ47しかない?」


「間違っていないわよ、47が正解よ。合計が47都道府県。県だけだと43ね」


「……そうなのね、ちょっと間違えちゃった」


 舌を出してごまかすミサキ。いや、ごまかしきれてない。その答えは間違いだ。



 続いてキングがこう言った。


「現役のアメリカの大統領の名前は大丈夫だろ」


「そのくらい知ってるわよ。私は幾つも知っているわ。とりあえず一番有名な『リソカーン大統領』を挙げておいたけど」


「それは初代大統領だろ。問題は、『現役大統領』つまり今の大統領の事だぜ」


「……あ、うん。ちょっと、ちょっとね。間違えたかもね」


 ヤバい、ミサキは問題をよく読んでいなかったらしい。

 寝不足か、詰め込んだ知識が邪魔をしたのか分からないが、これは点数がかなり酷そうだ。


 ……本当に頭をイジられてしまうかもしれない。

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