運命の全国共通テスト 2

 いよいよテスト開始の時刻となった、チャイムの音が鳴り、試験の監視役のロボットから、


「初めてくだサイ」


 と、スタートの合図が放たれる。


 僕らは配られた封筒を開けると、テスト用紙に名前を書き込み、さっそく問題に取りかかる。


 すると、そこには想定外の簡単な問題が並んでいた。


『問題1

 ファミリーレストランで、4人で割り勘で食事をする事になりました。

 食事を終え、合計金額は6000円になります。持っていた10パーセント引きの割引券を使い、そこに外税の消費税がかかります。

 一人当たりの支払い金額はいくらになるでしょうか?』


 驚くほど簡単な問題だ。

 パーセントの計算があるので、小学生の低学年では無理だが、百分率ひゃくぶんりつを習った高学年なら簡単に解けるだろう。


 この問題を見たときは、少しだけ心配な点が一つあった。それは正解の金額が0.5とか0.25などの端数が出る場合だ。1円以下の支払いは出来ないので、この場合は現実では困る。


 端数が出た場合はどうしようかと計算をしてみたところ、キッチリと割り切れる答えが出てしまった。

 僕は数字をそのまま書き込むと、次の問題へと移る。



『問題2

 あなたは書店の店員さんです。

 本を購入したお客様に「ブックカバーをかけますか?」とたずねると「いいです」と返事が返ってきました。

 あなたの取るべき行動はどちらですか?』

 

 『A.ブックカバーを掛けなくてよい。そのまま商品を袋に入れて渡す』

 『B.ブックカバーを掛けてから、袋に入れて渡す』


 今度は国語の問題だ、この状況を想像してみれば直ぐに分かる通り、答えは『A』だろう。引っかけ問題と言えなくもないが、『引っかける』というには余りに単純だと言わざるを得えない。


 僕は直ぐに答えを書き込むと、次へと進む。



『問題3

 住民票の写しが必要になりました。どうすれば良いですか?』


 ここにきて、ようやくちょっと難しい問題が出てきた。

 住民票はたしか市役所か、市役所の出張所で発行してもらえるはずだ。

 それに、たしか発行には身分証が必要だったはず。お金も少しは取られるだろう。


 僕は解答欄に、こう書き込んだ。


『お金と身分証明書を持って、市役所、もしくは市役所の出張所がある公民館に行き、発行してもらう』


 おそらくこれで間違いは無いだろう。



 ここで僕は前回の『政策改善の発表』を思い出す。

 宇宙人はたしか『生きて行くのに必要な知識』とか言っていた気がする。


 このテストは、どうやら本当に必要最低限の知識を確認するものらしい。


 割り勘の計算も、日常会話からの意思疎通も、必要な書類手続きも、生きて行く上では欠かせないだろう。

 これらの問題が解けないようなら、本当に頭の改造が必要かもしれない。

 試験の封筒に『第一回 アホ選別せんべつ試験しけん』と書いてしまったのもうなずける。



 この後も僕は順調に問題を解いていく。

『あなたが住んでいる県の県庁所在地は?』とか『都道府県の合計の数は?』『現在のアメリカの大統領は誰?』『7人に大福を2つずつ配るには、5個入りのパックを幾つ買わなくてはいけない?』のような、極めて簡単な問題が続いた。


 試験を受ける前は、まだよく理解していない微分びぶん積分せきぶんが出てきたらどうしよう。

 難しい漢字や、マイナーな歴史の年代の問題が出てきたらどうしようかと思っていたが、そんなものは一切でてこない。


 このテストは本当に勉強しなくても出来る内容だった。

 落ちる人は極めて少ないだろう。



 唯一ゆいつ、困った事と言えば、制限時間の90分間のうちの20分もしないうちに全部が終わってしまった事だ。

 念のため2度ほど見直してみたものの、それでも時間が余ってしまった。


 すこしボーッと過ごしているとやがて終了時刻を迎え、テストが回収されていった。

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