運命の全国共通テスト 1

 いよいよテスト当日の朝を迎えた。


 台所に行き、僕は濃いめのコーヒーを飲む。

 テスト勉強はバッチリやった、母さんと父さんも十分に勉強をしたようだ。

 僕が父さんに声を掛ける。


「いよいよ、今日だね」


「ああ、やる事はやった。まあ、大丈夫だろう」


 どことなく自信に溢れた答えが返ってきた。母さんもなかなかの表情を浮かべている。これなら二人とも大丈夫だろう。


 ちなみに父さんは会社で、母さんは近くの中学校で試験を受けるらしい。


「じゃあ言ってくるね」


「がんばれよ!」


「あせらないでね」


「うん、父さんも母さんもがんばってね」


 両親と挨拶を交わすと、僕は鞄を手に取りミサキの家へと向った。




 ミサキの家にいくと、ミサキはブツブツと独り言をいっていた。


天保てんぽうの改革は1830年から1843年、よし!」


 どうやらちゃんと勉強をしていたらしい、


「大丈夫?」


 と声を掛けると、


「小学生までなら何とかなりそう」


 そこそこ自信を見せる。これなら平気そうだ。



 この日のテストは正午から90分間に渡って行なわれる。


 学校に着くと、最後のテストの追い込みが待っていた。

 国語、数学、社会、それぞれを一通り軽く復習をする。

 時間はあまり残されていないので、本当に軽くなぞるくらいの内容にしか触れない。


 だが、ここで気づかされる。

 僕らは、この3日間、本当によく勉強をした。


 黒板に書かれた問題が、面白いように分かるし解ける。


 もしかしたら『頭をイジられる』といった恐怖から、真剣に勉強した結果かもしれない。

 あのミサキでさえ、そこそこ勉強できるようになったのだから、この効果はテキメンとしか言えないだろう。



 テストの為、昼食を少し早めに行なう。

 僕らはいつものように食事を取るのだが、片手には予想問題を手にしながら食べていた。


「東北地方の6県を全て言ってみて」


 ジミ子がミサキに問題を投げる。


「『青森』『秋田』『岩手』『宮城』『山形』『福島』、どうよ」


 ミサキが胸をはって答える。すると今度はヤン太が問題を出す。


「『【けん】【ぽう】を【じゅ】【りつ】』、漢字で書けるか?」


「こうでしょ」


 そういって、手元に開いていたノートにちゃんと『憲法を樹立』と正解を書いた。



「円周率はどこまで覚えてる?」


 キングの問いに、ミサキはこう答えた。


「ええと、『3.141592』そこまでしか覚えてないわ」


「まあ、それだけ覚えてれば大丈夫だろう」


 まさかミサキがここまで勉強が出来るとは。この様子なら本当に大丈夫そうだ。



 僕らは食事を終えると、トイレを済ませて待機をする。


 テスト10分前になると。ノートや小テストなどのプリントを片付ける。

 僕らは各自の机の上に、鉛筆や消しゴムだけを用意して待つ。


 やがて、ロボットがテストが入っているであろう封筒を、大量持ってやってきた。


 ちなみに、このテストは先生も受けるので、ロボットがテストの監視を行なう。

 教壇を黒板の方へ向けていて、担任の墨田先生の背中が見える状態に、僕は違和感を覚える。



 そしてテスト5分前になると、ロボットがこう言って封筒を一枚一枚、配り始めた。


「封筒はマダ、開けないで下サイ。合図が出る前に開けると失格にナリマス」


 前から順に封筒を置いていく、やがて僕の机の上にも、その封筒は置かれた。

 もしかしたら、この封筒のテストによって人生が左右されるかもしれない。極めて重要なテストとなるだろう。


 真剣な表情で封筒を見てみると、こんなタイトルが書かれていた。


『第一回 アホ選別せんべつ試験しけん


 もうちょっと他に言い方がなかったのだろうか……



 やがてチャイムがなり、ロボットからも開始の合図が掛かった。

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