第18回目の改善政策 2

 宇宙人がとんでもない事を言い出した。


 知力テストを行ない、成績の悪い者に対して頭をいじると発表する。


 宇宙人は、動物の知力を人間並に上げる事ができた。同じような事を人間にすれば、さらに知能が上がるかもしれないが、性格など人格の部分はどうなってしまうのだろうか?



 福竹アナウンサーが宇宙人を何とか説得しようとする。


「ちょっと待って下さい、頭をいじるという話しですが、それはやりすぎじゃあないでしょうか?」


「ナンデ?」


「頭をいじったら、人格や記憶などに影響が出ないでしょうか?」


「でないヨ」


「本当ですか? 大丈夫なんでしょうか?」


「大丈夫だヨ、テストは4日後に実施するネ」


 宇宙人といまいち話しがかみ合わない。倫理的な考え方の違いだろうか?



 福竹アナウンサーはテストの阻止が難しそうな事を感じ取ると、一人でも落第者らくだいしゃが減るようにテストの内容を聞き出そうとする。


「テストの内容、範囲はどの辺りを考えておけば良いですかね?」


「一般常識ダネ、基礎学力と生きて行く上で必要な知識があれば良いヨ」


「ええと、その条件だと意外と広範囲だと思います。例えば学問の教科だと、どんな感じになるでしょうか?」


「マズ母国語、この国だと国語の教科ネ。あと中学生までの数学と一般常識的な社会ダネ」


「各教科の出題レベルはどれほどの物ですか? かなり難しいんでしょうか?」


「今回の選別せんべつダト、最低限のレベルをクリアしてれば良いから、そんなに難しくないネ。国語だと日常的なやり取りが出来れば良いし、数学も実生活で出てくる算数に近いレベルだヨ。社会も常識のレベルだから、勉強しなくても大丈夫だヨ」


「本当ですか? 私、数学はあまり得意とは言えないんですが、例えばどんな問題が出てくるんでしょうか?」


「ソウネ、『隣町まで30kmの距離があります、車で平均時速40kmで移動すると何分掛かりますか?』こんなレベルの問題ネ」


「45分ですよね?」


「正解ダヨ」


「たしかに簡単ですね…… 本番では、なにか複雑な要素とか追加されますか?」


「そういう要素を入れてほしいカネ?」


「いえ、いまのままで良いです」



 僕はちょっと安心する。この程度の問題なら本当に勉強は要らなそうだ。

 だが、やはり頭の改造は避けたい。放送の終了時間の間際まぎわ、福竹アナウンサーは最後の説得をする。


「なるほど、このレベルの問題なら平気そうですが、やはり頭をいじるというのはやり過ぎな気がします」


「ナンデ? 良いじゃナイいじっても」


「頭をいじるって大事おおごとですよ、何か回避策のようなものは無いんですか?」


「ソンナに頭をイジるのは大事おおごとなのカネ? 日常的な行為だと思うケド」


「宇宙では日常的かもしれませんが、この惑星では違います。それにテストで選別せんべつはやり過ぎだと思います」


「そうなのカネ? コノ惑星では、よくテストで選別をしているのデハないカネ?

 高校、大学などは、テストで入学する学生を選別する。会社では入社する人物をテストで選別する。テストでの選別は、コノ惑星の文化と風習だと思うヨ」


「いや、まあ、たしかにそう見えるかもしれませんが……」


 宇宙人に痛い所を突かれてしまう。次の言葉が出てこない。


 福竹アナウンサーはそれでも何とか食い下がろうとするが、時間が来てしまった。スタッフの声が掛かり、福竹アナウンサーが悔しそうに言う。


「残念ながら時間が来ました。今週の政策が『良かった』か『悪かった』か、宇宙人を『支持できる』か『支持できない』か、アンケートの集計にご協力をお願いします」



 いつもの光のスクリーンが出てきて、アンケートの入力をする。

 僕は「今週の政策は『悪かった』」「宇宙人を『支持できない』」に投票する


 やはりテストの問題がクリア出来ない人の頭をいじるのはやり過ぎだ。



 やがてアンケートの集計が表示された。


『1.今週の政策はどうでしたか?


   よかった 3%

   悪かった 97%


 2.プレアデス星団の宇宙人を支持していますか?


   支持する 17%

   支持できない 83%』


 当然、この政策は、ほとんどの人が支持をしていない


「それでは今週の改善政策の放送を終わります」


「ではマタネー」


 宇宙人の気楽な挨拶を終え、番組が終わってしまった。


 大変な事になった。これから僕らはどうなってしまうのだろうか?

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