教育実習生の留学生 10

 レオ吉くんの講義が終わり、その日の放課後。

 講義の祝勝会をかねて、スイーツの食べ放題の店へ行こう、という話しになった


 レオ吉くんは甘い物も好きなので、あの店はうってつけだろう。



 まずは電車で隣駅に移動するため、地元の駅へと向う。

 するとレオ吉くんは意外な事を打ち明けた。


「ボク、電車に乗った事がないんですよ」


 ちょっと以外だと思ったが、つい先日まではライオンだった事を考えると、これは当然なのかもしれない。

 僕らはまず、電車の乗り方を教えなくてはならなかった。


「電車に乗るには切符が必要です、お金を入れて行き先に合った金額のボタンを押して下さい」


「はい。知識としては知っています。いくらの金額のものを買えばいいんですか?」


「隣駅なので、一番安い160円のヤツですね」


 僕がお金を渡すと、それを握りしめ、券売機へと向ったのだが、途中で歩みを止めてこちらへ戻ってきた。


「みなさんは切符を買わないんですか?」


 その質問にジミ子が答えた。


「私らは乗車券の代わりのICカードを持っています。前もってコレにお金をチャージしてあるので、そこから支払います」


 そういって鉄道とバスで使えるpasunoパスノというカードを見せた。

 すると、初めてレオ吉くんが些細ささいなわがままを言う。


「できれば皆さんと同じのが欲しいです。無理にとは言いませんが、できますでしょうか」


 このICカード、初めての購入の時には500円が取られる。

 今後、レオ吉くんが公務で電車に乗る時は、お付きの人が世話をするので自らがお金を払う事はないだろう。ICカードを買ったところで、もう使う機会は訪れないかもしれない。


 たが、たかだか500円だ。もしかすると記念の品になるかもしれないし、ここはレオ吉くんの要望に応える事にする。


「わかりました、では、せっかくなので名前付きのにしますか?」


「はい、値段が変わらなければそれでお願いします」


 書類に名前を記入し、新たなICカードを手に入れたレオ吉くん。

 子供がおもちゃを手に入れた様に、目を輝かせている。


「では、お金をチャージします」


 とりあえず1000円分を入金させると、僕らはようやく自動改札を通り抜ける。

 僕らの後に続くレオ吉くん。ちょっと戸惑ったが、無事に通過できた。


 ちなみに、改札を通り抜ける時のレオ吉くんの得意気な顔が印象に残った。

 僕らも小学生で切符を使い始めた時は、あんな顔をしていたのだろうか。



 隣駅に着き、スイーツの店へと歩いて移動をする。

 その途中、僕らは一番出くわして欲しくない人とばったり会った。


 隣の高校のヤンキー白木しろきくんである。

 白木くんとヤン太はヤンキー同士、犬猿の仲である。

 下手をすると殴り合いが始まってもおかしくは無い。最悪の状況だ。


 白木くんは僕らに近づき、当然、ヤン太に絡んでくると思ったら違った。


「これはこれはキングさん、今日もお美しいですね。よければ二人でお茶などいかがですか」


 臨戦態勢から、一気にあきれ顔に変わったヤン太が突っ込む。


「おいおい、白木、そりゃないんじゃないか?」


「うるせぇ、俺はいまキングさんとしゃべっているんだ」


 切れ気味に返事をする白木くんに、キングがなだめるように話しかけた。


「俺らはこれから用事があるんで、ちょっと難しいかも」


 やんわりと否定するが、白木くんはあきらめずに食いついてくる。


「何の用事ですか? よければ俺もついていって良いですか?」


 するとキングは目配せをする、視線の先はもちろんレオ吉くんだ。



 レオ吉くんを見てキョトンとする白木くん。思わずこんな言葉がこぼれた。


「コスプレ? ……もしかして本物なのか?」


「本物ですよ、耳でも触ってみます」


 気さくに話しかけるレオ吉くん。


「ではちょっと触らせてくれ」


 躊躇ちゅうちょなく国王の耳に触りににいく白木くん。

 初めは難しい顔をしていたが、触っているうちに、その顔がみるみるうちにほころびニヤけ顔に。


「ちょっとゴワゴワするが、柔らかく温かい。これは本物だ」


 レオ吉くんが本物である事を確認すると、今度はヤン太に話しを振る。


「お前ら凄いな、これからどうするんだ?」


「あのスイーツ食い放題の店に行くんだよ、レオ吉くんと一緒に」


 ヤン太がそう答えると、白木くんは驚いた表情を見せた。


「お前、国王陛下に対して『くん付け』はないだろう。打ち首にされるぞ」


 まあ、確かに『くん付け』は失礼にあたるかもしれないが、かなり罪状が大げさだ。もしこれでヤン太が打ち首なら、さんざん耳をモフっていた白木くんは、打ち首だけでは済まないはずだ。


「ああ、大丈夫です。ボクがそう呼んでもらうよう頼んだので、ところで君も一緒に食べにいきますか?」


「はい、是非、ご一緒させてください」


 レオ吉くんの問いかけに即答する白木くん。

 妙なきっかけで、僕らは一緒にスイーツの店へと向う事になった。

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