教育実習生の留学生 11

 僕らはスイーツ食い放題の店へと着いた。


 店員さんに人数を言って、席へと案内をしてもらうのだが、この時点で一般人でない人が居るのがバレる。

 そして、しばらく立つとオーナーが飛んできた。


「こ、これは、ようこそ国王陛下。この度はこのような店にお越し頂き恐縮です」


「いえいえ、大した者ではないので、お気になさらず。本日は友人と食べに来たのですが、席はありますか?」


「はい、ただいま用意させて頂きます」


 こうして僕らは特等席へと案内された。



 席に着くと、すぐに僕らはデザートの食べ放題のメニューを注文をする。

 しばらくして、取り皿が配られると、いよいよデザートコーナーへと繰り出していく。


 デザートコーナーは相変わらず色とりどりのスイーツが並んでいた。

 チョコレートのムース、アップルパイ、洋梨のタルト、そしてお決まりの苺のショートケーキ。


 これらを見たレオ吉くんは、思わず声を上げる。


「どれも美味しそうですね、これ、好きなだけ幾つも取って良いんですか?」


 その質問に僕が答える。


「食べられるだけ、幾つでも取って構いません。ただ、取り皿に取ってしまって、食べられなかったら廃棄されるので、あまり余計に取らない方がいいです」


「廃棄ですか? 手をつけていなくても?」


「そうです、廃棄されます。ただ、何度でも取りに行って構わないので、お腹が膨れてきたら、少ない量を調整しながら取って下さい」


「わかりました。では、どれにしようかな……」


 ケーキを目の前にいつになく真剣な表情を浮かべるレオ吉くん。


 しばらくしても、いっこうにケーキを取らないのでミサキとジミ子が横から口を挟む。


「レオ吉くん、こちらがおすすめですよ」


「こちらもオススメです。取りますか?」


「あっはい、お願いします」


 こうしてレオ吉くんの皿には5個ほどのケーキがところせましとのせられた。


 僕も適当にケーキを3つほど取ると座席へと戻る。


 すると白木しろきくんとヤン太が争っていた。


「どっちが多くの量を食べられるか、また勝負だ!」


「いいぜ、またこの間みたいに圧勝で勝ってやるよ!」


「この間勝ったのは、あの二人のおかげだろ?」


 白木くんはそういって、ミサキとジミ子を指さす。

 たしかに、この間のスイーツ大食い勝負はあの二人の功績が大きいだろう。



 この二人のやり取りはいつも通りだが、ちょっと心配な事がある。

 それはレオ吉くんがこの光景をどう捉えるかだ。


 僕がそんな心配をしていると、国王から意外な言葉が出た。


「二人とも仲が良いですね。うらやましいです」


「「はぁ~?」」


 レオ吉くんにガンを飛ばすヤンキー二人。だがレオ吉くんはひるまなかった。


「この国は平和ですよね。まだ知能の上がっていない動物ノ王国の住人の中には、同じ住民を殺して食おうとする人がいて困っています。そういう人は隔離かくりしていますが、人間のように平和にやって行けたら良いですよね」


 なにげにグロテスクで怖い話しをするレオ吉くん。


 この話しが出ると白木くんとヤン太は、すっかり大人しくなり、「はい」「そうですね」と小さな声で返事をするしかなかった。こんな住人がいる国からすれば、ふたりは仲良くじゃれ合っているようにしか見えないのかもしれない。



 食事が始まるとレオ吉くんは相変わらず幸せそうに食べる。黙々と食べ続け、9個目のケーキにさしかかった時だ、ピタリとフォークが止まった。さすがに限界が来たらしい。

 ちなみに皿にはあと二つほと手をつけていないケーキがある。


「もうお腹いっぱいですか?」


 僕がそう言うと、


「ええ、そうですが、もったいないので残すわけにはいきません」


 ちょっと貧乏くさい事を言う国王。しかし良く言えば倹約家けんやくかという事になるだろう。


「大丈夫です、このケーキは無駄にはなりませんよ」


 そういって僕は手をつけていないケーキをミサキの取り皿へと移し替える。

 すると瞬く間にケーキは消えて無くなった。


 自分のノルマが無くなり、ほっとするレオ吉くん。


「いやぁ、ちょっと食べ過ぎましたね」


 紅茶を片手にのんびりとくつろいでいると、オーナーが色紙を片手にやってきた。


「あ、あの、よろしければサインを頂けないでしょうか。それと、もしよければ写真撮影などしてもよろしいでしょうか?」


「良いですけど、サインですか? 困りましたね、サインなんてやったこと無いです」


「名前を書くだけで良いんじゃないでしょうか? 記念になればいいので、上手いとか、下手とかはどうでも良いとおもいますよ」


 僕がそう言うと、レオ吉くんは、


「では書かせて頂きます」


 そういって色紙に名前を書き上げ、それをオーナーに渡した。


「ありがとうございます。これは家宝にします」


 大げさによろこぶオーナー、そしてこう付け加えた。


「よろしければ、こちらをどうぞ、特注のケーキを作りました」


 ウェイトレスが、食べ放題の物とは出来の違う豪華なケーキを持ってきた。

 生クリームの上にはフルーツがふんだんに乗っていて、綺麗で細やかな飴細工あめざいくまでついた、かなり大きなホールケーキだった。


 見るからにおいしそうだが、食べ放題をさんざん食べた後だ。腹に入るはずは無いが、オーナーは期待に満ちた顔をしているし、厨房のドアからはシェフが心配そうに覗いている。ここで食べない訳にはいかないだろう。


 レオ吉くんは少しだけ口に運ぶと、こう言った。


「甘さが控えめで、上品でたいへんおいしいです」


 そのセリフとは裏腹に、いつも幸せそうに食べるレオ吉くんが、この時ばかりは辛そうに見えた。



 ちなみにケーキは、ほとんど食べずにお持ち帰りをする事となる。

 今日の出来事で、レオ吉くんはタイミングの重要性というものを、身をもって知ったと思う。



 その日、僕とレオ吉くんはケーキは食べずに、我が家の冷蔵庫の中にしまった。

 翌日、おやつの時間に、このケーキを食べようとしたときだ、監視していたかのようにミサキから『今から遊びに行って良い?』とLnieからメッセージが飛んでくる。そして次の瞬間にはチャイムがなり、このケーキの半分くらいはミサキの口の中に収まる事となった。


 動物的な勘に関してはミサキの方がかなり鋭い。レオ吉くんも驚いていた。

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