教育実習生の留学生 2

 僕はレオ吉くんと共に登校する。

 学校へと到着すると、校門の所に校長先生と教頭先生を初めとした先生方が整列して待っていた。



 僕の方を見るなり、校長先生がこちらへとやってくる。


「これはこれは、遠いところからよくお越し頂きました。我が高校に来て頂いて誠に光栄です」


 そう言った後に深く頭を下げる。


 するとレオ吉くんが僕の肩をギュっとつかんで、そのまま固まった。

 僕がなんとかフォローをしなければならない。


「ええと、こちらの方はうちの学校の校長をされている松森まつもり校長先生です。今日からお世話になるので、まずは挨拶からいかがでしょうか」


 僕の声を聞くと、レオ吉くんはハッと我に返る。


「あっ、はい。レオ吉と申します。今日からよろしくお願いします」


 そういって僕の肩から片手だけを外して差し出す。

 校長先生は両手を差し出して、やや大げさな握手を交わす。


「このたびは、教育実習生を兼ねた留学生という立場でしたね。ここで立ち話も何ですし、ひとまず職員室へと移動しましょう」


 校長先生がそう言うと、レオ吉くんは変な質問をした。


「えっ、はい。一人ででしょうか?」


 もしかして僕にも一緒に付いてきて欲しいのだろうか?

 流石にレオ吉くんは立派な大人なので、そんな事はないだろう。


「色々と手続きとかあるでしょうから、ここで別れましょう。すぐにまた教室で会えますよ」


 僕がそうレオ吉くんに言うと、


「そ、そうですね。ではまたすぐに会いましょう……」


 レオ吉くんはそう言って、こちらを何度も振り返りながら、校長先生の後をついていく。

 僕はこの光景を見て、なぜだか童謡のある歌を思い出してしまった。

 売られていく子牛のように、レオ吉くんは不安と悲しみに満ちた目をしていた。


 大丈夫だと思ったのだが、これは悪い事をしてしまったのかもしれない……



 レオ吉くんと別れると、僕とミサキはいつも通りに教室に入る。


 ヤン太とジミ子とキングは既に居て、何かしゃべっていた。


 僕らもその輪に加わる。


「おはよう」


「おう」「おはよう」「Hellow」


 手短な挨拶が終わるとミサキがさっそく話題を持ち出す。


「今日、サプライズゲストが来るんだ、誰だと思う?」


「えっ、誰だろう? それは俺らが知っている人物なのか?」


「知っている人物だよ」


 ヤン太がヒントを求めてくると、ミサキがそれに答える。

 ただ、これはほとんどヒントにはなっていない。

 普通に『知っている人物』と言われれば、誰もが身近な知り合いを考えるだろう。


 こんどはジミ子が質問を投げかける。


「それはヤン太だけでなく、私も知っている人物?」


「そうね、ここに居る全員が知っていると思うわ、私たちだけでなく、クラス全員がね」


 このミサキの返答は先ほどとは違い、重要なヒントとなる。


「という事は何かの有名人なのか。その人物は女性か、それとも元男性かどっちだ?」


 キングがターゲットを絞り込んできた。


「元男性よ」


「年齢は?」


「不明よ」


「職業は?」


「とにかく偉い人」


「え、偉い人? なんだそりゃ」


 キングが驚きの表情を浮かべる。ジミ子はポカンとした顔をしていた。

 ヤン太が突っ込みを入れる。


「偉い人って職業じゃねーだろ」


「でも、まあ、間違いじゃないと思う」


 僕がそうヒントを入れると、3人とも余計に混乱をした。


 しばらく考えていて、答えが出てきそうにないので、僕が言おうとした。


「まあ、正解は分からなくて当然だと思うヨ。正解はね、ムグゥ」


 そこまで言うとミサキに口を塞がれる。


「もうすぐ会えるから、答えが分かったらおもしろくないでしょ」


「もったいぶらないで、おしえてよ」


 ジミ子がそう言うと、


「じゃあ、仕方がないな」


 ミサキが正解を発表しようとした時だ。


 チャイムがなり、ホームルームが始まった。


「すぐ分かるよ」


 ミサキは結局、答えを言わないまま、僕らは席に着く。


 やがて担任の墨田すみだ先生がやってきて、こう怒鳴どなった。


「お前ら、静かにしろ。今日は教育実習生の留学生の方がお見えになっている」


「誰だ?」「留学生だって」「どこの国だろ?」「アメリカかな」


 教室がざわつく、留学生と聞いてみんなは外国人を想像したようだ。

 まあ、たしかに外国と言えば、外国の方なのだが……


 クラスのざわつきを消すように、再び墨田先生が怒鳴る。


「静かにしろ。いいか、くれぐれも失礼のない様にな。ではこちらへどうぞ」


 すると、大柄な女性が教室の中へとやってきた。

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