教育実習生の留学生 1

 いつも通りの朝になり、いつも通りに支度をして、いつも通りにミサキの家に迎えに行く。ただ、今日がいつもと違うのは、動物ノ王国の国王であるレオ吉くんが一緒に居る事だ。


 レオ吉くんは僕の後ろに立ち、前ならえのような状態で、僕の両肩をしっかりとつかんでいる。

 すこし緊張しながら、レオ吉くんが僕に話しかけてきた。


「ボク、一人で外を歩くの初めてなんですよ。外は怖いって話しは聞いてます。気をつけましょう」


「たしかに気をつけた方がいいかもしれませんが、そこまで気にする人はいないですよ」


 僕がやんわりと言うと、レオ吉くんはそれを否定した。


「いえ、外を歩くとなると、どこから銃弾が飛んでくるか分かりません。麻酔弾なら良いですが、実弾という事もありえます。長老から聞きました」


 真剣な口調で言うが、それはライオンの時の話しではないだろうか?

 気のせいか、肩を握る力が強くなった気がする。


 僕はレオ吉くんをなだめるように言う。


「もう人間なので安心です。ほら、周りの人を見て下さい、そんなに警戒していないでしょう?」


 通行人は、あまり周りを見ていない事が多い。特徴のあるレオ吉くんだが、誰にも気がつかれていないようだ。


「そ、そうですね、そのようです。大丈夫かもしれませんね」


 レオ吉くんの肩をつかむ力がほんの少し緩んだ。


 ちなみにこのやり取りは玄関先での出来事だ。

 この先の事を考えると、思いやられる。



 玄関を出て、3軒となりのミサキの家に行く。

 レオ吉くんはピッタリと僕の後ろを付いてきて歩きにくい。


「今から学友を誘いますね」


 そう言ってミサキの家のチャイムをならすと、


「ツカサでしょ入って来て」


 いつもの声がインターホンから聞こえてきた。

 レオ吉くんがいる事を伝えようとすると、プツリと音がして一方的に通話が切られる。


 さて、どうしたものか……


 僕が考えていると


「早く入りましょうよ」


 と、レオ吉くんがせかしてきた。

 このまま待っていてもらちがあかないので、僕はミサキの家の中へ入る。


 するとミサキはいつもの格好で待っていた。いわゆる下着姿だ。

 普段なら、気兼ねなく僕に身支度をやらせるのだが、今日は僕にピッタリとよりそう人物が居る。もちろんその人物は、動物ノ王国の国王のレオ吉くんだ。


 僕らを見ると、


「ふわあぁぁ!」


 驚きとも悲鳴とも取れる声を上げ、ミサキは家の奥へと引っ込んだ。

 しばらくして顔を真っ赤にしながら、シャツを身につけ再び僕らの前にやってきた。


「ほ、他の人が居るなら、そう言ってよ! って、えっ、そのお方はもしかして動物ノ王国の国王にあられまするか」


 ミサキが動揺のあまり、変な敬語を使ってきた。

 続いてミサキは片膝でひざまずき、変わった行動を取る。


「ご機嫌うるわしゅうございます。国王さま。本日はどのようなご用件ですか」


「い、いえ、ボクはそんな大した者では無いので気にしないで下さい」


 間違ったミサキの対応に、萎縮いしゅくしてしまうレオ吉くん。

 しかしミサキの対応は大げさすぎる、どこで勘違いをしてしまったのだろうか。


 僕はミサキの誤解を解きに行く。


「あまり気にしないで良いらしいよ。レオ吉くんもやりずらそうだし」


 更にレオ吉くんがミサキを説得する。


「そうです、普段接するように話してください」


 レオ吉くんがそういうと、ミサキは今度は敬礼しながらこう言った。


「はっ、ありがたき所存にて存じます」


 もうこれはダメかもしれない。


「ほら、遅刻するから早くして」


 僕は強引にミサキの手を引くと、学校へと進み出す。



 学校へと進んでいく途中、僕がミサキにレオ吉くんの話をする。

 とりあえず親近感が出るよう、昨日の食卓の話しをした。


 するとミサキもちょっとだけ緊張がほぐれたようだ。

 変な敬語で話しかける。


「レオ吉くんさんは、何が好物なのですか?」


「えっボクですか? ええと、まだあまり人間として食事は取っていないので、メニューとかよく分かりませんが、昨日食べた中では、すき焼きと、シュウマイと、から揚げと、サラダと漬物がおいしかったです」


 昨日でたメニューの名前をすべて上げる。

 もしかしたらお世辞かもしれないが、レオ吉くんはあまりお世辞が得意なタイプでは無いので本音だろう。


「人間の食事はライオンだった時より美味しいですか?」


 僕がそういうと、レオ吉くんは力強く答える。


「はい、比較にならないほど美味しいですね。動物だった頃は味の付いてない食事だったので、人間に例えると何もつけないパンか、ご飯だけのような感じでしょうか。今思うと味気ないですね」


 それを聞いたミサキが、涙を浮かべながら国王に訴えた。


「酷い食事でしたね。よければ私の知っている美味しいお店に食べに行きませんか?」


「は、はい、お願いします」


「スイーツの食べ放題のお店があるんです。どうでしょうか?」


「甘いものですか、良いですね行きたいです。行きましょう」


 こうして変なところで二人は意気投合した。


 その後もミサキが店を次々と紹介する。

 すると、うんうんと頷くレオ吉くん。



 食べ物の話しが終わる前に僕らは学校へとたどり着く。

 すると、校門には校長先生と教頭先生を筆頭に、何人もの先生が並んでいた。


 こんな光景は初めてだ。考えられる理由は一つだけ、ここにいる国王しかないだろう。

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