動物ノ王国 3
ケーキの先端は家の壁にのめり込むようになっていて、地面からは金属と見られる柱がそれを支えているのだが、その柱は不安になるほど細く頼りない。部屋の大きさは6畳か8畳くらいはありそうだ。
この時点で僕が分かることは二つ。
追加された部屋は宇宙人が建てた建物で、おそらくこの建物を建てたのは姉ちゃんの仕業だ。
僕は急いで家に入ると、そこには母さんが居た。
「母さん、あの部屋はなに?」
「ああ、アヤカがちょっと会社の部下の人を呼ぶみたい」
「姉ちゃんが? なに、その人は家に住むわけ?」
「一週間くらい滞在するらしいわよ」
「い、一週間も! 父さんと母さんは反対しなかったの?」
「まあ、べつに一週間ぐらい良いじゃない。アヤカから滞在費として、少しお金ももらっちゃったし。当分、ご馳走が続くわよ。ツカサも一週間くらいなら我慢できるでしょ?」
「う、うーん。まあ一週間ぐらいなら……」
すでにお金を貰ってしまっているのなら、もう断れないだろう。
あまり変な人を連れてこないよう、願うしかなさそうだ。
夜の8時過ぎ、少し遅めの夕飯が準備された。
テーブルにはサラダ、漬物、シュウマイ、から揚げ、そして中央にはすき焼きが配置されている。
お金を貰っているとはいえ、これは作りすぎな気がする。こんなに食べきれないだろう。
すき焼きの鍋が温まってきた頃に、姉ちゃんが帰ってきた。
「ただいま~ 今日は会社の部下を連れてきたよ~」
あの宇宙人の会社に入社する人物は、どんな人なのだろうか?
僕は興味半分で玄関まで姉ちゃんを迎えに行く。
すると、姉ちゃんの影から、のそりと大きな人物が後ろから出てくる。
「こ、こんにちは。今日からお世話になるレオ吉です。よ、よろしくお願いします」
なんと、部下とは動物ノ王国の国王のレオ吉くんだった。
「えっ、どうなってるの? 国王さまが部下なの?」
驚きを隠せない僕に、姉ちゃんはいつもの調子で言った。
「国王だけど、会社の配属では私の部下にあたるのよ」
国王が部下とか、宇宙人の会社はどうなっているんだ。
僕は混乱しながら、姉ちゃんから詳しい話しを聞き出す。
「こんな狭い家に、国王さまを連れてきちゃっていいの?」
「いいのよ。それにあまり気を遣わないで」
「いや、だって国王さまですよ」
するとレオ吉くんがこう言った。
「あっ、あまり気を遣わないで下さい。『国王』という地位は大した事はないので。あと、呼び方も『レオ吉』とかで構いません」
「いえ、国王さまを呼び捨てにする訳にはいきません」
「では、『レオ吉くん』で構わないです。よろしくお願いします」
そういって握手をする為に手を出してくる。
「わかりました、これからよろしくお願いします」
そういって握手を交わす。
すると、手の指の腹の部分がプニプニと柔らかい。もしかしたら肉球のなごりが有るのかもしれない。
ちょっと不思議な感覚に包まれていたら、後ろからお父さんがやってきた。
「『レオ吉くん』ですね。話しは聞いています。いつもアヤカがお世話になっています」
社会人としては一般的に思える挨拶をする。するとレオ吉くんは、こう答えた。
「いえ、お世話などしておりません。ボクは新入社員で、まだあまりアヤカ先輩とは交流がないです」
お世辞など全く無い、まっすぐな答えが返ってきた。まだあまり社交辞令というものを知らなそうだ。
姉ちゃんが素早くフォローする。
「まあ、今は付き合いは浅いけれど、これから深めていきましょう」
「はい、そうですね。お願いします」
そんな会話をしていたら、お母さんが出てきた。
「あまり長話をしてると料理が冷めますよ、早くたべましょう」
「「はーい」」僕ら姉妹がそう返事をすると、少し遅れて「はい」とレオ吉くんも返事をする。
こうして我が家の変わった
レオ吉くんが食卓に座ると、いよいよ食事が始まる。
「「「いただきます」」」そう家族が言うと、やはり少し遅れて「いただきます」とレオ吉くんが復唱する。
この食事は我が家では豪華な方だが、国王に取っては大した事はないだろう。
そう思っていたら、以外な反応が出た。
「これが一般家庭の食卓ですが。贅沢ですね」
全く予想外の反応だ。もしかして動物ノ王国は貧乏なのだろうか?
どう返事をしたら良いか困っていると、姉ちゃんがシュウマイをレオ吉くんの皿に運ぶ。
「ボクが始めに食べて良いんですか?」
不安がるレオ吉くんに、姉ちゃんは笑顔で答えた。
「いいわよ、ジャンジャン食べなさい」
「では、いただきます。 おいしい、おいしいです」
皿の上に置かれた3つのシュウマイを全部いっぺんに口の中に入れ、ほほを膨らませながら食べるレオ吉くん。
行儀は悪いが、幸せそうに食べている。
続いて姉ちゃんは焼き上がったすき焼きをレオ吉くんのご飯の上に乗せた。
「これも良いんですか? いただきます。あっ、熱い、でもおいしいです」
がっつくレオ吉くん。そんな様子を見て、姉ちゃんが注意をする。
「ここでは誰もあなたの食事を取らないから、ゆっくり食べなさい」
「そうですね。すいません、動物園に居たときのクセで」
そこで僕はちょっと気になった。質問をしてみる。
「動物園ではあまり食べれなかったんですか?」
「ええ、ボクは群れの中で若くて順位も下位だったので、いつも余り物みたいな食事でしたね。ちゃんとした食事が食べられるだけで、まるで夢のようです」
なるほど、動物園の動物も以外と大変らしい。
レオ吉くんは
姉ちゃんが片っ端からおかずを皿に乗せると、次々と口の中へ放り込む。食べている時は常に笑顔で微笑ましい。
ライオンなので、サラダとかどうかと思ったのだが関係がないようだ。野菜も漬物も全て平らげた。
一通り、食事が終わり、一息ついていると、姉ちゃんが僕に向って話しかけてきた。
「弟ちゃん、レオ吉くんと明日からよろしくね」
「うん、わかったよ」
「おこずかいも少し渡しておくから、学校でも色々と教えてあげて」
「えっ学校? 学校に来るの?」
「教育実習生として、明日から弟ちゃんと同じ学校に行く予定よ」
すると、本人のレオ吉くんが驚いた様子で聞いてきた。
「そんな話し、聞いてないんですけど……」
「そうね、今、初めて話しているからね」
姉ちゃんがしれっと答える。
上司は姉ちゃんか…… これから苦労しそうだ。
そのようなわけで、僕は翌日からレオ吉くんと学校に通う事となった。
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