第15回目の改善政策 2

 空飛ぶ自転車を前に、宇宙人が開発への経緯を語る。


「この惑星では、マダマダ交通事故が多いじゃナイ」


「ええ、そうですね。多いです」


「ワレワレはソレを減少させようと思うのヨ。自動車などもユクユクはやるケド、まずは取りかかりやすい自転車の変更をするネ」


「なるほど、自転車が空を飛べば、歩行者と自転車、自転車と自動車の事故は起こらないですね」


「ソウネ、事故が無くなると思うヨ」


 福竹アナウンサーがスタッフの差し入れた原稿を読んで、視聴者に訴えかける。


「この国で起きている自転車の事故の件数ですが、去年だけで負傷者数は8万人、死者数は約430人の方が無くなっているそうです」


「ソレが、ほぼゼロになるネ」


「そうですね。ところで安全装置なども装備して居るんでしょうか?」


「付いているネ。危険な場面では勝手に回避行動をするか、自動ブレーキが掛かるネ、よそ見をしていても事故は起こらないヨ」


「まあ、よそ見運転は良くないですが、安全性は分かりました」



 つづいて宇宙人は他の物も売り込む。


「ソレと、そのプロテクターも発売するネ」


「この落下を防止…… いや、防止では無いですね、落ちる時には落ちますし。ゆっくりと落下するのでダメージは全く無いですが」


「何かイイ呼び方はあるカネ?」


「そうですね『落下遅延ちえんプロテクター』とでも呼びましょうか」


「ソウネ、その『落下遅延プロテクター』だけど、高所を作業する人に装着を義務づけようと思うヨ。あと、足元のおぼつかない老人にも装着を推奨するネ」


「それが良いと思います。事故は多いでしょうし」


 そこまで言いかけると、スタッフから手書きのテロップが渡された。

 急いで書いたらしく、テロップには汚い文字で『転倒や転落で、年間8000人が無くなっています』と書いてある。


「これは、多いですね、ちなみに交通事故の死亡者は?」


 福竹アナウンサーがスタッフに質問を投げかけると、また手書きのテロップが差し出される。


『交通事故の年間死亡者数は、およそ3700人』と書かれていた。


 予想外の出来事だ。交通事故より、転落や転倒で無くなる人の方が多いらしい。


 福竹アナウンサーが宇宙人に話しを振る。


「これは意外でしたね」


「意外だったネ……」


 ……どうやらこの事実は宇宙人も知らなかったようだ。



 ちょっと間を置いて宇宙人が口を開いた。


「マア、これらの事故者数が減ると思うネ、一部の老人はこのプロテクターの装着を拒否すると思うけどネ」


「体力など過信している老人は多いですからね」


「老人の装着に関しては自己判断に任せるヨ。アト、自転車を応用した商品もいくつか発売するネ」


「それはどのような物です?」


「これネ」


 宇宙人は次の商品を取り出した。

 それはL字型の板だった。何をするものか判断が付かない。


「これは…… なんでしょうか?」


 福竹アナウンサーもやはり分からないらしい。

 すると、宇宙人が答えを教えてくれる。


「コレは、『車無し車椅子』ネ」


 なんだろう。車が付いているから車椅子と言うんじゃないだろうか?

 僕の疑問をよそに、福竹アナウンサーは『車無し車椅子』に座る。

 すると宇宙人がリモコンを福竹アナウンサーに渡す。


「操作はコレで行なってネ、平面はもちろん、上昇も下降もできるヨ。階段とか段差も無視できるネ」


「なるほど、便利ですね。いろいろとバリアフリーの努力はしていますが、段差はどうしてもありますからね」


 そう言いながら福竹アナウンサーがリモコンを操作する。

 どうやら操作は簡単なようで、すぐに自由自裁に動かせるようになった。


「便利ですね、健常者でもこれは使いたいくらいです」


「別に使っても良いんじゃないカナ、お金さえ払えば良いと思うヨ」


 すると『お金』というキーワードに福竹アナウンサーが反応した。


「そういえばこの空飛ぶ自転車や落下遅延プロテクターはいくらで発売されるのでしょうか?


「空飛ぶ自転車は15万円、落下遅延プロテクターは4万円の予定ネ」


「高い、高すぎます。いいですか自転車は庶民の足ですよ、そんな値段では普及しません!」


 福竹アナウンサーが宇宙人を叱りつける。そして時間を掛けて自転車は7万円、プロテクターは2万円まで値段を下げさせた。しかも学生と老人は割引が効くらしい。

 値下げは嬉しいが、ここまで下げてしまうと不安になってしまう。宇宙人の会社は潰れないだろうか……



 値段交渉が終わると、番組の終了時間が迫っている。

 福竹アナウンサーは慌ててアンケートを取る。


 この政策が実施されれば、交通事故と落下と転倒事故が大幅に減るだろう。

 僕は「今週の政策は『よかった』」「宇宙人を『支持する』」に投票する。


 しばらくすると集計されたアンケート結果が表示された。


『1.今週の政策はどうでしたか?

   よかった 77%

   悪かった 23%


 2.プレアデス星団の宇宙人を支持していますか?

   支持する 69%

   支持できない 31%』



 今週の政策に対して、意外にも反対する人が多かったが、『悪かった』を投票した人は、もしかしたら高所恐怖症の人なのかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る