自転車と僕ら 4
僕らが空飛ぶ乗り物で遊んでいると、周りで見ていたギャラリーの元おじさんがら質問が飛ぶ。
「けっこう体力が要りそうだけど、大丈夫なのかね?」
その質問に姉ちゃんが答える。
「今回はあえて電動アシストのような機能は入れていません、移動する力は人力のみです。まあ、ホウキは別ですが」
「では、電動アシストを入れたり、動力を完全に電気に変える事は?」
「もちろん可能ですよ、動力を付ければ時速300キロぐらいならすぐ出せるようになります」
すると、元おじさんは驚いた表情を見せる。だが、次の瞬間には冷静に指摘をしてきた。
「それはむしろ速度規制が必要になるね」
「ええ、そうですね。現行の法律を参考にして、規制をした方が良いと思います」
今度は初老の人から質問が飛び出た。
「安全性に関してはどうなのかな?」
「大丈夫ですよ、充分に考慮されています。まず、このプロテクターが落下速度を限りなく遅くします。また、交通事故対策もバッチリです」
そういって僕の方に視線を投げる。嫌な予感がした。
「弟ちゃん、ちょっと自転車にまたがって見て」
「あっ、うんいいけど」
「他のみなさんは少し下がって下さい、あと、だれか協力してくれる方はいますか?」
すると一人の元おじさんが手を挙げた。
「ありがとうございます。では弟ちゃんを車で引いて下さい」
「「えっ」」
僕と元おじさんの声がハモった。
「大丈夫ですから、思いっきりやっちゃって下さい。責任は私が持ちます」
姉ちゃんが自信満々に言う。すると協力者の人も覚悟を決めたらしい。
「では、用意してきますね」
そういって車庫の方へと消えていった。
しらばくすると、ゴツいレースカーが僕の前にやってきた。
少しエンジンを空ぶかしをすると、ブオォォォと空気の震えが伝わってくるモンスターマシンだ。
運転手の元おじさんは、気楽に、「ではいきますよ」と、笑顔を浮かべて、僕の方へ突っ込んできた。
僕はあわてて回避をしようとしたが、とても間に合わない。ぶつかると思った次の瞬間、自転車が勝手にジャンプをして2メートルほどの高さに舞い上がる。
そして車が通り過ぎたあと、ゆっくりと自転車は地面に着地する。
「おぉー」とギャラリーから歓声が起こった。
車を運転していた元おじさんが戻ってくると、姉ちゃんが詳しく説明をする。
「この自転車は交通事故が起こりそうになると、勝手に急停止か回避行動をします。
もし、避けられない場合は重力で重量を減らして、ダメージを極限まで軽減します。ちょうど風船を跳ねるような感じでしょうか。この場合はすり傷などはさけられないかもしれませんが、重傷を負う事はありません」
「素晴らしい」「よい技術だ」周りから声と拍手があがる。
姉ちゃんは得意気になっているが、それを開発したのはすべて宇宙人のはずだ。
「他に何か気になる事はありますか?」
その質問に僕が手を挙げる。
「はい、弟ちゃんどうぞ」
「ここは整備されたレース場だけど、街内だと電線とか危なくない?」
「対策はしてるわ、電線の近くに寄ろうとすると、急停止をして近寄れないようになっているの。
あと空港とか一部指定区域も立ち入りが出来ないようになってるわ」
「なるほど、わかったよ」
姉ちゃんは、意外とちゃんと考えていた。
続いてヤン太も言いたいことがあるようだ、手を挙げて発言をする。
「このプロテクター、自転車用だけでなく、高所で作業する人に着けるようにしたら良いんじゃないかな。落っこちて平気だし。
あとは登山家とかに着けさせてもいいんじゃねーかな」
「なるほど、良いアイデアね。今度、販売してみるわ」
今度はキングが発言をする。
「カヌーだけど、遅くて実用性は低いけど、観光地には適してると思うぜ。紅葉の京都の清水寺とか、空から眺めて見ても面白いかも」
「そうね、観光用としてなら船は最適よね。他に何かアイデアはない?」
するとジミ子も手を挙げた。
「自転車ですが、タイヤとか要らないと思います」
「なるほどね、たしかに飛んでいればいらないわね」
「あと、タイヤが無くなれば、こことここの部分が要らないと思うんですよ」
そういってジミ子は容赦なく部品をカットする。
残された部分はサドルとハンドルとペダルだけだった。もはや自転車に見えない。
だが、それを見た姉ちゃんは感心しながらこう言った。
「これなら、金額も抑えられそうね。うまく設計し直せば、折りたたみ自転車として携帯もできそうね」
姉ちゃんに褒められて、ジミ子はちょっと嬉しそうだ。
ミサキ以外のみんなが一通り発言をして、マズイと思ったのか、あわててミサキも手を挙げる。そしてこう言った。
「もっとスピードが出るようにするべきだと思います」
まあ、たしかに今よりはスピードは出る方が良いかもしれないが、大したアイデアでは無いと僕は思った。
しかし、周りの人達からは絶賛の拍手が送られて、ミサキがちょっと照れている。
考えて見れば、カーレースを行なうような人達だ、スピードは何よりも優先されるのかもしれない。
一通り、僕らの意見が出そろうと、ロボットが大量のプロテクターを持って来た。
そして周りの人達に配り始める。
プロテクターを着け終わると、姉ちゃんが余計な発言をする。
「せっかくだから、空飛ぶ自転車でレースをしますか?」
「賛成」「異議無し」「やってやろう」
満場一致で承諾を受け、元おじさん達は自転車に乗ってスタートラインへと進み、並んだ。
姉ちゃんはいつの間にかチェッカーフラッグを手に持って、指定の場所に立っていた。
「では、3週にしましょうか。それでは準備して下さいね」
元おじさん達はスタート位置に着き、互いを言葉で
「この前のレースの負けを取り返してやりますよ」
「なんの、業績では負けていますが、うちはどんなレースでも負けません」
「では、3、2、1、スタート」
姉ちゃんがチェッカーフラッグを振ると、自転車は勢いよく飛び出していった。
ここで、僕はちょっと気になった事を姉ちゃんに質問する。
「業績とか言ってたけど、あの人達は自動車関連の人達なの?」
「そうよ、今トップを走ってる人は、ポンタ自動車の会長さん、隣を走っている人はトヲタ自動車の社長さんね。
続いて、マシダ、ススキ、スバノレ。あとヤマ
「えっ、そんな偉い人達が……」
「そうなのよ、今回のテスト走行には『技術者の人達を連れてきて下さい』って言ったんだけどね、どうしても自分の目で見たかったらしいわ」
「ああ、そうなんだ……」
ぱっと見、のどかに元おじさん達がな自転車を漕いでいるだけだが、僕たちはとんでもないレースを見ているのかもしれない。
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