自転車と僕ら 3

「他にも色々と乗り物を作ったの、試しに乗ってみる?」


 姉ちゃんが空飛ぶ自転車以外にも作ったようだ、これは試してみたい。


 僕らがワイワイと楽しそうにしていると、いつも間にかレースをしていた人達が運転を中断して僕らの周りに集まってきた。髪型と服装から、元おじさんがほとんどのようだ。


 そんな人達に姉ちゃんは気さくに声を掛ける。


「自転車以外にも空飛ぶ乗り物があるんですよ、みなさん見ていきます?」


「そうだね、是非、見てみたいよ」


「みなさんも後で自転車にも乗ってみますか? プロテクターを用意しますよ」


「それもお願いしたいね。よろしく」


 落ち着いた雰囲気の元男性が返事をした。

 姉ちゃんは集まっている人数を確認すると、ロボットに指示をあたえた。



「さて、プロテクターが用意できるまでは、別の種類の乗り物を見ていって下さい」


 そういって、姉ちゃんは何か棒状の物をとりだした。


「まずはコレです。空飛ぶ乗り物と言えばコレでしょう」


 乗り物では無かったが、なぜ取り出したのかはよく分かる。それは固定されたハンドルの付いた、すこし大きめのホウキだった。



「私、のってみたいです」


 ジミ子が真っ先に名乗り出る。


「はい、どうぞ乗ってみて」


 姉ちゃんはホウキを差し出した、そのホウキは空中に浮いていて、人にまたがってもらうのを待機しているようだ。


「では、さっそく乗ります」


 そういってジミ子はホウキにまたがるのだが、プルプルと手が震えている。そしてしばらく経つと、体勢が維持できないのか、グルンとホウキの下に垂れ下がる格好となった。やがて握力がなくなり、足をつく。


「これ、難しいです」


「そう、他のみんなも試してみてくれる」


 姉ちゃんから一人一人にホウキが渡されて、それぞれがチャレンジをする。

 この細い物体にバランス良く座るのは、かなり困難だった。運動神経の良いミサキとヤン太は乗ることができたが、僕とジミ子とキングは無理だった。


「やっぱり無理か…… じゃあ、プロテクターを作動させた状態で乗ってみましょう」


 そう言うと、僕らのプロテクターがブゥンとうなり、体重が軽くなった。


「それで再チャレンジしてみてよ」


 姉ちゃんに言われて、僕らは再びホウキにまたがる。

 すると、こんどは簡単に乗ることができた。


 全員が乗れた事を確認すると、姉ちゃんは僕らを送り出す。


「手元にスロットルがあるわ、それを開けば進むから、方向は体重移動でできるから。さあ、行ってらっしゃい」



 僕らは再び空を飛ぶ、だが、体重移動で方向を制御するのは至難の業だった。

 ふらふらと極めて不安定で、思うように進んでくれない。

 ミサキとヤン太はある程度は制御できているようだが、時々、ヤン太の「クソッ」という声が聞こえるので、やはり難しいのだろう。現実は映画の中の『ダーティー・ハリー・ポッター』のホウキでの飛行シーンのようには行かなかった。



 なんとかコースを一周して、僕らは再び姉ちゃんの居る位置へと戻ってきた。


「どうだった? かなり難しそうだったけど」


 姉ちゃんの質問に、僕は素直に答える。


「難しいよ、ちゃんと操縦できない」


「そっか、一番乗りこなせていたミサキちゃんはどう?」


「ちょっとお尻が痛いです」


「なるほどね、ヤン太くんは?」


「ローラースケートや、スケボーみたいな遊びの乗り物だったらこれでも良いけど、普段使う乗り物としてはダメかな。事故が起こるとおもうぜ」


「そうね、キングくんは?」


「Gameみたいに操縦できれば楽だけど、これは……」


 そう言うとジミ子が改善策を出す。


「操作用に動くハンドルを付けて、乗りやすいようにサドルを追加して、足を固定できれば良いと思います」


「うーんそうね。そのくらい改造が必要か」


 姉ちゃんがうなる。


「もう、それなら自転車で良いんじゃないの?」


 僕が本音を言うと、姉ちゃんが納得する。


「確かにそうよね、自転車のままでも良いか、他にも色々と作ったんだけど」


 そういうと、ロボットが色々な物を持って来た。サーフボード、スキー、カヌー。

 実用性は低そうだが、面白そうなので僕らはこれらを一通り楽しんだ。


 サーフボードは走り出すと、立っていられない、僕は何度か落っこちた。


 スキーは経験がないので、まともにコントロールできず、ロボットに支えられて何とか帰ってきた。


 カヌーは安定性もあり、操作も優れていたが、コースを一周回った時には、腕が上がらなくなるほど疲労してしまった。やはりこれも現実的ではなさそうだ。

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