自転車と僕ら 2
僕らは自転車の操作の分からないミサキを追いかけて、空飛ぶ自転車を全力で
高度が上昇する『High』のギアは、ハッキリ言ってかなりキツい。登り坂を上がるのと何ら変わりない。
宇宙人の技術があれば、電動アシスト自転車のように坂道を楽に登れそうなものだが、そんなモノはこの自転車には着いていなかった。
ある程度漕いで、運動が苦手な僕とジミ子とキングは追い付く事ができないと悟る。
そこで僕は足を止め、ミサキに電話を掛ける事にした。
しばらくコールをすると、ミサキが電話にでる。
「どうしたの? 何かマズイ事でもあった?」
マズイ事をしでかしている張本人は気がついていないようだ。僕は操作方法を教える事にした。
「ま、まず、スピードを緩めてギアを『Middle』に合わせて」
「お姉さんは『High』にして走れって言ってなかった?」
「あれは出だしだけで、ある一定の高さになったら『Middle』にするんだって、お願いだから『Middle』にしてよ」
「わかったわ、おっとヤン太が追い付いて来た、引き離さないと」
「ちょっとまって、ヤン太の話しを聞いて、頼むから」
「……分かったわ、しょうがないわね」
電話越しにヤン太の声が聞こえた事を確認すると、僕は電話を切った。これで一安心だ。
僕とジミ子とキングはゼエゼエと肩で息をする。ミサキとの体力の違いを思い知らされた。
ちなみにこの自転車は、動きを止めても倒れる事はない。呼吸を落ち着くまで僕らは制止していた。
しばらくするとミサキとヤン太が、僕らの元へ戻ってくる。
「ごめんごめん、高さは10メートルくらいで充分だったんだ」
ミサキが悪びれずに、あっけらかんと言う。
僕らは今、高度100メートルくらいの上空に居る。
ミサキを追いかけるために上しか見ていなかったので気にしてなかったが、自転車の足下を見ると遙か彼方に地面があった。
「こ、怖いから早く降りよう」
ジミ子が僕らをせかす、どうやら怖いのは僕だけではないらしい。キングやヤン太もあまり顔色がさえない。
ミサキは…… 煙となんとかは高いところが好きという言葉があるが、どうやら平気なようだ。
僕らはギアを『Low』にして、再び自転車を漕ぎだした。
すると坂道を下るようにスーッと進んでいく。これは快適だ。
ある程度の高さに降りてきたら『Middle』に入れて、サーキット場のコースの上を僕らは走る。
空中を走る自転車は地面からの震動が全く無い。まあ、空を飛んでいるので当たり前だが、乗り心地は快適そのもので素晴らしかった。
ミサキとヤン太は争うようにスピードを出して見えなくなったが、僕らはのんびりと空中散歩を楽しむ。
いつの間にかレースをしていた車も、僕らに興味を持ったらしく、のろのろと自転車の後をついてきていた。
コースを3週して、僕らは再びピットへと戻ってきた。ギアを『Low』にいれ、ふわりと地面に着地をする。
「どうだった、乗り心地は?」
「すごかった」「最高だった!」「Good!」
ミサキとヤン太とキングは絶賛する。
一方、ジミ子は少し遠慮しがちに、こう言った。
「私はちょっと怖かったです。とくに最初の高い場所まで行った時は……」
確かにあれは怖い。足下が全く無いので、非常に不安だ。
もし自転車から落っこちたら助からない。僕もジミ子の意見に賛成だ。
「そうだね、落ちたら助からないし、あれは怖かった」
姉ちゃんにそう伝えると、意外な答えが返ってくる。
「あの高さなら、落ちても平気だよ」
「いや、100メートルくらいあったよ」
「大丈夫だって、弟ちゃん試しに1~2メートルくらいの所から飛び降りてみて」
「まあ、そのくらいの高さなら……」
僕は自転車に乗り、ギアを『High』にして1メートルちょっとの高さまで行くと、自転車から飛び降りた。
すると、着けているプロテクターがヴゥンとうなり、落下速度が急激に遅くなる。そして羽のようにゆっくりと地面に舞い降りた。自転車も少し遅れて、僕の隣にフワフワと落ちてくる。
「このプロテクターって、高いところから落ちても平気なの?」
「そうよ、落下防止のためのプロテクターだよ」
落下防止というと、落下を阻止する装置で、安全に落下するための装置ではないのだが、まあ言いたいことは分かった。しかし最初にこの機能を説明してくれれば、あの場面では、あそこまで怖くは無かったかもしれない。なぜ、最初に言ってくれなかったのか……
姉ちゃんは僕の気持ちを全く気にせず、新しい話題を振ってきた。
「他にも色々と乗り物を作ったの、試しに乗ってみる?」
「乗ってみたいです」
先ほどまで怖がっていたジミ子が、直ぐに返事をした。すこし送れて、
「俺も乗ってみたい」「私も」「Testさせてくれ」
みんなも賛同の返事をする。
他にはどんな物を用意しているのだろうか。
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