自転車と僕ら 1

 ある日の夕食に、姉ちゃんから話しを持ちかけられた。


「弟ちゃん。今度、友達と一緒にうちの会社が新しく開発した自転車のモニターしてみない? ちょっとだけどお金も払うよ」


 僕は変な話しじゃないかと疑いながら、詳しい内容を聞き出す。


「変な自転車じゃないよね?」


「ちょっと変わってるかもしれないけど、大丈夫だよ」


「まあ、わかったよ、今度、みんなに参加するか聞いてみるね」



 翌日、学校で僕はこの話しを、みんなに持ちかける。すると、みんなはこころよく引き受けてくれた。



 次の日曜日、地元の駅前の雑居ビルの一室に僕らは呼び出された。

 そこには宇宙人の事務所がありるからだ。


 僕、ミサキ、ヤン太、ジミ子、キング。いつものメンバーがそろうと、待合室から会社の中へと通される。

 会社の部屋の中には最近、見慣れてきた『どこだってドア』があった。


「さあ、いきましょう」


 姉ちゃんの言われるがままに僕らは扉をくぐり抜ける。



 扉をくぐり抜けた先は、森と畑とに囲まれた、田舎のカーレース場だった。

 アスファルトのコースには凄い勢いで車が走っていて、熾烈しれつなレースが繰り広げられている。そして、車の整備場であるピットには、僕らの乗り込むであろう自転車が止められていた。


「まずは、サイクリング用のプロテクターとか着けてちょうだい」


 ロボットが僕らの装備を持って来てくれる。

 それを装着しながら話しをする。


「まさか、こんな本格的な場所でやるとは思っても見なかったよ」


 僕がそういうと、ジミ子が冗談だか本気だか分からない事を言う。


「あの自転車、どこにでもありそうなママチャリだけど、もしかして凄いスピードが出るのかもね」


「確かに、宇宙人の技術ならあり得るかもな」


 ヤン太が少し楽しそうに言うと、キングも乗り気になってきた。


「そうなると、かなりのハイスピードのレースができるぜ」


「まあ、安全第一でいきましょう」


 プロテクターを着け終わったミサキがストレッチをしながら言った。


 ちなみにプロテクターは、ヘルメット、膝、肘、はもちろん、胸や腰にも装備された。本当に凄いスピードが出るのかもしれない。



 プロテクターを着け終わると、いよいよ自転車に乗りこんだ。

 自転車はどこにでもあるママチャリで、ギアが『Low』『Middle』『High』の三段階がある。


「ちょっとまってね、施設の方へ電話をかけるから」


 そういって姉ちゃんはどこかへ電話を掛けた、横のコースでは車がビュンビュンともの凄い音を立てて走っている、この車を一旦停止させないと自転車では走れるハズが無い。



 姉ちゃんが電話をして、しばらくすると場内アナウンスが流れる。


「これから高校生の自転車もコース上を走ります、気をつけて下さい」


 ん?『気をつけて』

 車のレースは中断させないのだろうか……


「さあ、あなた達、いってらっしゃい」


 姉ちゃんが笑顔で僕らを送り出そうとする。


「ちょっとまって、車の走っている場所で走るなんて危ないでしょ」


 僕がそう言うと、姉ちゃんは笑顔のまま。


「『High』で走るから平気よ、騙されたと思っていってらっしゃい」


 と強引に送り出そうとした。


「まってよ無理だよ」


 何とか辞めさせようとしている中、ミサキは自転車で走り出した。


「ちょ、ちょっとミサキ、待って」


 僕の制止も聞かずにミサキは走り続ける、そんなミサキに姉ちゃんはのんきに声を掛けた。


「ミサキちゃん『High』にして走って」


「分かりました~、『High』にしますね」


 すると、次の瞬間、ミサキの自転車がふわりと宙に浮いた。


「「「えっ!」」」


 思わず声を上げる僕ら。

 ミサキの運転する自転車はどんどん高度を上げていく、どうやらこの自転車は空を飛べるらしい。


 姉ちゃんは胸を張って得意気に言う。


「ほらね、これなら自動車が居ても平気でしょ」


「まあ、たしかにね」


 僕は一安心した。ジミ子がこの自転車の操作を確認する。


「この、『Low』『Middle』『High』っていうのは速度の変化じゃなくて、高度の変化ですよね?」


「そうよ、『Low』で下降、『Middle』で高度の維持、『High』で上昇よ。ある一定の高さ、だいたい10メートルくらいになったら『Middle』にしてちょうだいね」


「わかりました、これなら簡単ですね」


 ジミ子がうなずきながら返事をする。


「空中でのサイクリングが楽しそうだな」


 ヤン太が面白がっていると、キングが大声を上げる。


「やばいぞ、ミサキがどんどん上昇していくぜ」


 そうだった、ミサキは説明の途中で『Highで走れ』としか聞いていなかった。


「急いで追い付いて、操作の仕方を教えてあげて!」


 姉ちゃんに言われて、慌てて僕らは後を追いかける。

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