ペットと保健所
第14回目の改善政策の内容は、宇宙人が殺処分のペットを引き取るという事だった。特にペットを飼っていない僕らには、なんら影響がない政策だ。
この法案が通り劇的に変わったのは、クラスメイトの
田淵くんといえば家で猫を飼っていたのだが、その猫には問題があった。毒舌家だったのである。
宇宙人のペットの翻訳機が発売され、田淵くんが試しに使って見たところ、『不細工』だとか『くさい』などと、家族の悪口を言いまくっていた。
そこに第14回目の改善政策の発表がされる。
『保健所に連れて行っても殺処分されない』というのは飼い主にとってはありがたい。
今まで暮らしていたペットが死ぬとなると、なかなか決断が出来ないのが普通だっただろう。ところが今週のこの発表を受けて、田淵くん一家はとうとう決断をした。毒舌猫にも保健所に連れて行く事を伝える。
ただ、伝えたところで相手は猫なので、よく分からなかったらしい。
すると、猫の方から『進化させてくれ』と訴えてきた。
進化とは宇宙人の作った薬で、動物の知能を発展させるものだ。
猫がどこで知ったのかは不明だが、田淵くんは2万2千円もするこの薬を毒舌猫に注射する。
すると、効果はてきめんだった。
猫の知能は進化し、いきなり泣き出したらしい。自分はなんと酷い事を言ってしまったのだろうと。
そして、
毒舌猫はすっかり心を入れ替えて、今ではお掃除猫になったらしい。
床掃除、風呂掃除、トイレ掃除までやってくれるらしい。
田淵くんは、「人って変わるんだな……」と考え深くつぶやいていた。
まあ、人ではない気もするが、何がきっかけで変わるか分からない。
一部の飼い主の生活は変わったが、そんなのは一握りの人間とペットでしかなく、僕らはいつも通り過ごしていた。
昼休みになり、僕らはニュースを見ながら昼食を取る。
すると、テレビは郊外にあるコンクリートで出来た建物を映しだした。
「ここは保健所です。ご覧下さい、この人混みを。ここに並んでいる人は、全員がペットを捨てに来た人達です」
建物の前には動物のキャリーバックをもった人達が列を作っている。その人数は数え切れないほど並んでいた。
レポーターはその列にそって歩きながら解説をする。
「こちらから列が続いており、この列にはおよそ300人が並んでいるそうです。宇宙人が殺処分をしないという事で、保健所に人が殺到しています。どのような理由でこの列に並んでいるのか聞いてみたいと思います」
そういって列に並んでいる人にマイクを向ける。
ちなみにレポーター以外の顔にはモザイクが掛かっていて、プライバシーは保たれている。
「ちょっとよろしいでしょうか、なぜ、この列に並んでいるのでしょう?」
「きまってるでしょ、犬を処分しにきたんだよ」
「処分に至る理由はなんでしょうか?」
「もの壊すし、吠えるし、散歩が面倒だから、この機会に処分する事にしたわ」
その意見を聞き、ミサキが眉間にシワを寄せながら、こう漏らす。
「ひどいわ」
「最低だな」
ヤン太も嫌悪感を抱いている。もちろん僕も同意見だ。
「あっ、はい分かりました。ご意見ありがとうございます」
ちょっとマズイと思ったのか、レポーターは次の人に標的を変えた。
「すいません、よろしければ理由をお聞かせ願えないでしょうか?」
「いいよ。うちはマンションでペット飼っちゃいけないんだけど、大家にバレて、コレを機に処分しにきたの。私になつかないし、ちょうどいいと思ってね」
「ひっどい」
ジミ子が飼い主をにらみつける。
「飼っちゃいけないのに、なんでそもそも飼うんだよ」
キングも
「ご意見ありがとうございます。次の方に意見を聞いてみます。あなたはどういった理由でしょうか?」
レポーターは、今度は初老の元男性に声をかけた。
その人は、すこし
「ウチの犬は、その…… 末期のガンでして、余命は1ヶ月も無いと言われました。
宇宙人に引き取ってもらえると治療してもらえるという噂を聞きつけて、最後の望みを掛けてここにやってきました」
「そのような話があるのですか?」
「いえ、まだ噂の段階です。確かめる為に来ました」
「ご同行させてもらって良いですか?」
「はい、構いません」
この後、しばらく列に並んでいると、やがてこの初老の方の順番がきた。
受付には保健所の人の他にロボットが配置されていて、他の人はペットを直接ロボットに渡している。
この初老の人はロボットに手渡す時に質問をする。
「この犬は末期のガンに掛かっております、治療されるのでしょうか? それとも殺処分……」
そこで声を詰まらせた。
ロボットはその言葉を聞いて、こう答える。
「治療デキル範囲は治療シマス。スキャンで状況を確認シマス」
しばらくロボットはキャリーバックの中の犬を見つめる。
「治療期間はおよそ3週間、問題アリマセン」
その言葉を聞くと、初老の人は泣き崩れた。
「ありがとうございます。よかったなぁ、よその家の子になっても元気でな……」
すると犬は力なく、「クゥン」と返事をする。
「では、よろしくお願いします。よろしくお願いします」
何度も何度もロボットに挨拶をして初老の人は名残惜しそうに帰っていく。
どうやら、やむを得ない理由の人もいるようだ。
この様子を見て、涙ぐむミサキとジミ子。
世の中、悪い人ばかりではなさそうだ。
気がつけば、僕もヤン太もキングも、ちょっと涙目になっていた。
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