第13回目の改善政策 2

 宇宙人が、動物の気持ちを分かる装置をつくったらしい。



「動物との会話ができるのでしょうか?」


 福竹アナウンサーが目を輝かせて宇宙人に説明を求める。


「イヤ、会話トハ行かないネ、動物の気持ちを聞く事は出来るケド、伝える事はデキナイネ」


「なるほど、一方通行な訳ですね」


「ソウネ、デモ、人間と密接な関係にある動物は、意外とこちらの言葉が分かっている事が分かったネ」


「そうなんですか、どのくらい分かっているのでしょう?」


「だいたい3~7割くらいカネ。言葉が分かっていなくても、『怒ってる』『喜んでる』ナドの感情は大体、動物側に伝わってるヨ」


「なるほど」


「トリアエズ、動作テストのVTRがあるんだケド、見てみるカネ?」


「みてみましょう、それではVTRをどうぞ」



 VTRに入ると、動物園のような場所が映し出され、ライオンが出てくる。

 どうやらライオンでテストをしたらしい。


 檻の中のライオンはやがてしゃべり出す。


「暇だな、晩飯まだかな」

「背中、かゆい」

「眠い、人間多過ぎ」


 だらしない姿のライオンは、だらだらと独り言をつぶやく。

 まあ、そんな事をいっているような態度にみえる。


「こんな感じで分かるヨ」


「そうですね、たしかに」


 福竹アナウンサーがちょっとガッカリとした顔をする。

 たぶん、物語に出てくるような楽しい会話を期待したのだろう。僕もそういった事を期待していたが、ちょっと裏切られた気分だ。しかし動物の本音は、案外こんなものかもしれない。



「アトもう一つ、コミュニケーションが取れるようになる物を開発したヨ」


「それはなんでしょうか?」


「コレだね」


 宇宙人は何かの薬を取り出した、もちろん効果は全くわからない。


「なんの薬でしょう?」


「今から実験するヨ、見てもらった方が分かりやすいネ」


 そういうと、犬が連れてこられる。



 福竹アナウンサーは原稿を渡されて、それを読み上げる


「こちら、私たちスタッフのペットの犬ですね。

 ミニチュアダックスフンドの『ミントくん』だそうです。

 これから実験に付き合ってくれるそうです」


「マズ、この薬を使用する前に、この犬の気持ちを聞くヨ」


 宇宙人がそう言うと、犬の気持ちの字幕が出てきた。


「何この場所? 何あのでかいの? まあいいや、ご主人様、遊んで遊んで」


 先ほどと違って、あどけない子供のようなセリフが表示された。これは癒される。


 つづいて、飼い主とみられるスタッフの人が出てきて、この犬とじゃれ合う。


「たのしい、たのしい、もっともっと、遊んで」


 犬は無邪気そのものだが、あちこちを駆けずり回り、落ち着きがまるで無い。

 飼い主は「待て」「お座り」と言うのだが、あまり言う事を聞かない



 その様子を見ながら宇宙人が説明を始めた。


「この状態はコミュニケーションを取れていると言えるカネ?」


「うーん、難しいですね。ミントくんの声は聞こえてきますが、こちらの意思は伝わっているとは言いがたいですね」


「ソコデこの薬ネ、ちょっと撃つネ」


 宇宙人はいきなり犬のお尻に注射をする。

 一瞬、「キャン」と短く鳴いたのだが、その後は注射を気にする様子もなく、再び飼い主と遊び始めた。


「10分ほど待ってネ」


 どうやら効果が出てくるまでしばらく時間がかかるらしい。

 飼い主はしばらく犬とじゃれ合う



 そして10分ほど経った後だ、犬がピタッと動きを止めた。


「ん? どうしたのミント?」


 ちょっと心配をする飼い主。すると犬がいきなり二足歩行で立ち上がる。

 それは普通の犬が無理矢理おこなう不安定な二足歩行とは違い、しっかりとした二足歩行だった。


「いやあ、ご主人、落ち着きが無くて申し訳ありません。これからは自重しますので今後ともお付き合いをよろしくお願いします」


 犬がいきなり喋り出す。説明をする宇宙人。


「コノ音声は合成の音声ではないネ、コミュニケーション取れるように犬の知性を上げて、実際に喋れる様に声帯を変えたネ」


 呆然あぜんとする飼い主と福竹アナウンサー。


「ご主人、大丈夫ですか? 顔色がよろしくないようですが」


 紳士的に飼い主を心配するミントさん。声をかけられた飼い主は何とか返事をする。


「あっ、ええ、大丈夫です。少し驚いただけです」


 自分のペット相手に敬語を使う飼い主。もしかしたら、あまり大丈夫ではないかもしれない。



 しばらくすると福竹アナウンサーがなんとかショック状態から回復したようで、宇宙人から詳細を聞き出す。


「ええと、ペットの知能が上がったようですが、この状態はいつまで続くのでしょうか?」


「ずっと続くネ、知能そのものが上がったからネ。アト、一週間くらいかかるケド、物も持てるくらいには手も進化するヨ。意見が交換できれば動物虐待も無くなるデショ」


「ええ、ああ、はい、なるほど」


 福竹アナウンサーはまだ混乱しているようで、いまいち視線が定まらない。


「翻訳機は2万円で、ペットの進化薬は3万円で売る予定ネ」


 宇宙人が価格の話しをすると、急に福竹アナウンサーの目つきが変わった。


「それは高いですね、もう少し安くするべきです」


 落ち着きを完全に取り戻し、値段交渉を始める。

 そして値段を翻訳機は1万6千円に、ペットの進化薬は2万2千円まで下げると、番組は時間いっぱいとなった。



「さて、アンケートの時間です、みなさまご協力をお願いします」


 例の画面が表示され、僕は「今週の政策は『よかった』」「宇宙人を『支持する』」に投票する。



 しばらくすると集計されたアンケート結果が表示された。


『1.今週の政策はどうでしたか?

   よかった 37%

   悪かった 63%


 2.プレアデス星団の宇宙人を支持していますか?

   支持する 62%

   支持できない 38%』


 支持率が大幅に下がったのは、先週の『児童虐待、イジメ等の強化』の政策の被害だろう。イジメが減ったのは良いが、あそこまで強化する必要はなかったはずだ。


 そして今週の政策。

 僕は『知的なペット』は悪くないと思うのだが、世間ではそうは見ていないらしい。やはり一般的には、ペットは無垢むく無邪気むじゃきで可愛くないといけないようだ。

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