ミーちゃんさん 1

 第12回目の改善政策が発表された日の放課後。

 ミサキが僕たちに向けて、こう言ってきた。


「今日、私の部屋に寄っていかない?」


「珍しいな、なんかあるのか?」


 ヤン太がそう言うと、ミサキは


「今、素敵なゲストが来てるのよ」


 と、話しをもったいつける。


 僕は誘われた理由が思いつく、この間の猫がまだ部屋にいるのだろう。


「なにか見せたいものがあるみたいだよ」


 僕もみんなを説得し、ミサキの家へと向う事になった。



 ミサキの家に前に着くと、こんな事を言われる。


「ちょっとお姉さんに連絡しておいた物があるんだけど、家に行って取ってきてもらって良い?」


「ああ、うん。それはもしかしてイヤホンかな?」


「そう、お願いね」


「わかった、ちょっと行ってくる」


 僕の自宅に入ると、玄関の下駄箱の上に小さな段ボールが置いてあった。

 母さんが台所に居たので聞いてみる。


「母さん、この段ボールは何? 姉ちゃんから?」


「そうよ、ミサキちゃんに貸すものらしいわ」


「分かった、持って行くね」


「おねがいね」


 段ボールを手に取ると、ミサキの家へと向う。



 僕が少しだけ遅れてミサキの部屋に入ると、ミサキが頑張っていた。


「ほら、ほら、ミーちゃん猫じゃらしでちゅよ」


 幼児言葉を使い、懸命に猫の気を引こうとするが、猫は全く興味がないようだ。

 猫とミサキの関係はあまり良好ではないらしい。


 ミサキは部屋に入ってきた僕を見つけると、まっしぐらに飛びついてきた。


「待ってました、それはイヤホンだよね?」


「ちょっと、まだ確認してないけど……」


「開けて確認して、はやくはやく」


 落ち着きの無いミサキにせかされて、僕は段ボールの小包を開く。

 するとそこにはマニュアルと、片耳のイヤホンが5つほど入っている。


 マニュアルを開くと予想どおり、動物の気持ちが分かるイヤホンだった。

 僕はマニュアルを読み上げる。


「ええと、このイヤホンは犬猫用です。スイッチをONにして耳にはめるだけで動物の心の気持ちがわかります。限界使用時間はおよそ40時間、充電は付属のUSBケーブルを使って下さい」


「分かったわ、さっそく使いましょう」


 説明の途中でミサキはイヤホンを奪うと、スイッチを入れて装着した。僕らもそれに続く。



 イヤホン装着したミサキは先ほどとあまり変わらない。

 今度はボールのおもちゃを持ち出して、なんとか猫の気を引こうとする。


「ミーちゃん、ボールでちゅよ、たのしいでちゅよ」


 猫はやはり興味をしめさない、しかしこれまでと違って僕らはイヤホンを装着している。猫の声が聞こえてきた。


「落ち着け、人間」


 その声を聞いて、ピタリと動きを止めるミサキ。


「えっ」


「お、やっと落ち着いたか」


 おもちゃでは気が引けないと思ったミサキは、こんどは猫用のおやつを取り出す。


「ミーちゃんおやつでちゅよ」


 動物といえば普通は餌を出せば飛びついてくるが、この猫は違った、やはり興味をしめさない。


 そして、少し遅れて声が聞こえてくる。


「さっき飯を食ったばかりだ、そんなに腹は減っていない」


 この声を聞いてジミ子が言う。


「あぁ、これ本音だね」


 否定され続けているミサキだが、またあきらめない。

 ブラシを取り出し、猫にせまる。


「ミーちゃん、ブラッシングをしましょう。気持ちいいでちゅよ」


 すると猫はプイと顔をそむけ、僕の方へやってきて膝の上に乗ってきた。


「お前のブラッシングはがさつだ、この小僧のほうが丁寧で気持ちいい」


 ミサキがブラシを持ったまま硬直してると、ヤン太とキングがはげます。


「まあ、そんな気分の時もあるさ」


「今度からは丁寧にやれば大丈夫だって」


 ちょっとしょんぼりとしたミサキが素直に答える。


「ああ、うん。わかった」



 猫はそんなミサキを気にしないで、僕にリクエストをしてくる。


「背中をかいてくれ」


 僕は言うとおりに背中をかく。


「もうちょっと上、ちょっと左、そこそこ」


 言われたままにしていたら、猫に気づかれた。


「おかしいな、ここまで気持ちが通じるとは。もしかして気持ちが伝わっているのか?」


 その問いに、ミサキが答えた。


「聞こえてまちゅよ、ばっちり聞こえてまちゅ」


 猫は一瞬、カッと目を見開いたと思うと、すぐにまた、だらしのない猫に戻った。


「そうかそうか、これは便利になったな。小僧、耳の後ろをかいてくれ」


 僕は言われるがままに手を動かす。


「ちょっと良い? 私、聞きたい事があるんだけど」


 ジミ子がそう言うと、僕に撫でられている猫が上機嫌で答える。


「いいぞ、答えられる範囲は答えてやろう」


「猫って飼い主の事をどう考えているの?」


 ぼくらはペットの気持ちを聞き出す、質問タイムへと突入する。

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