第13回目の改善政策 1

 正午になり第13回目の改善政策の番組が始まる。


「みなさん、こんにちは。第13回目の改善政策の発表が始まります」


「ヨロシクネ」


 福竹アナウンサーと宇宙人が慣れた様子で挨拶をする。


「さて、番組ははじまりましたが、前回の改善政策で問題が上がっています。各地でヒーロー達が大暴れして、大変な被害が出ています」


「ソウネ、ワレワレにもクレームが殺到して大変ネ」


 宇宙人が困った顔をする。だが、本当に困っているのは人類の方だ。

 福竹アナウンサーが具体的な被害額を言った。


「世界的な被害額は7200億円を超えそうです。このままでは大変な事になります、なんとかなりませんか?」


「ヒーローへの変身の原因は虐待やイジメなワケじゃナイ。虐待やイジメが起こらない社会にすれば、変身する人が居なくなるんじゃないカネ?」


「ええ、まあ、理屈ではそうなんですが」


「分かっているなら実現すればいいじゃナイ」


「日本の小中高校のいじめだけでも、年間41万件と言われています。今すぐに全ての解決は難しいです。せめて被害額を減らす為に、もうちょっとヒーローのパワーを落とす事はできますか」


「ソウネ、デハ、緊急時以外は常人の3倍程度の力に押さえるネ」


 それは押さえているのだろうか?

 まあ、分厚いコンクリートが発泡スチロールみたいに蹴破れたのだから、常人の3倍でも押さえていると言えば押さえているのだろうけど……



 福竹アナウンサーはさらに常識的な提案をした。


「あとヒーロー、まあ虐待された児童ですが、警官かロボットが駆けつければもう大丈夫だと思うんですよ。安全は確保されているので、その時点で変身を解いてしまって構わないと思います」


「ワカッタネ、今後そうするネ」


 確かに、ここ最近、ヒーローと警察が対峙たいじしている映像がよく流れていた。

 ヒーローのパワーを得た赤ん坊や児童に、手出しできない警察。


 もしかしたらヒーローのパワーでも、大人数で押さえ込めば、無理矢理に取り押さえる事ができるかもしれない。しかし、中身はあくまでも赤ん坊や子供なので、手荒な事は出来ない様子だった。変身さえ解除してもらえれば、穏便に事件を解決できるだろう。


 いや、考えて見れば、初めからこの手順を決めて置けば、こんなに被害は出なかったんじゃないだろうか……



 前の週の話しが落ち着くと、福竹アナウンサーは話題を次に進める。


「とりあえず、先週の話しはここまでにして置きましょう。今週の政策はなんでしょうか?」


「今週はこれネ」


 そういって宇宙人は用意してきたテロップを出す。そこには『動物虐待』と書いてあった。


「ど、動物虐待ですか? また変身するのでしょうか?」


 福竹アナウンサーの顔が思いっきり引きつっている。

 まあ、先週の結果があれで、今週がこれだとそうならざる終えない。

 虐待された動物がパワーアップして、街中を暴れ回っている絵しか思い浮かばない。


 荒れ狂う動物達相手だと、警察は相手になりそうにない。自衛隊が出てきて対応をせざるおえないだろう。

 その様子は、おそらく怪獣映画のような光景になるはずだ。


 そう思っていたのだが、次の瞬間、意外にも宇宙人は否定する。


「イヤ、今回は変身トカ、そんな事をしないネ。動物虐待が起こる原因は何だと思うネ?」


「動物虐待のきっかけですか? ええと、動物が言う事を聞いてくれないとかでしょうか?」


「おおよそ正解ネ、そこでワレワレは二つの方法デ解決するヨ、一つ目はこれネ」


 そう言うと宇宙人はイヤホンのような物を出す。


「なんでしょう? イヤホンですか?」


「違うネ。昔、この惑星にも販売していた物と同じネ」


「えっちょっと分かりません」


「コレネ」


 宇宙人は古いおもちゃを出してきた。

 それは僕が子供の頃に流行った『ワンリンガル』と『ニャウリンガル』というおもちゃだ。たしか犬と猫の言葉が分かるといった機械だったはず。

 まあ、しょせんはおもちゃなので当てにならないが、この装置を宇宙人が作ったとなると……


「それは…… もしかして、動物の言葉が分かるとか?」


「ソウネ、正確に言うと『気持ち』が分かるネ」


「おお、すごい。動物と会話ができるわけですね」


「マア、一部の動物だけだけどネ」



 宇宙人は動物と会話ができる装置を作ったらしい。

 子供の頃に思い描いた夢のひとつが現実となったようだ。

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