実録、火星刑務所の実体 2
みんなでテレビを見ている。番組の名前は『実録、火星刑務所の実体』。
姉ちゃんが所長を務める刑務所だ。
農業の就労エリアの説明が終わると、今度は居住区の説明に入る。
ここに収容されているのは凶悪犯ばかりで、少しだけ姉ちゃんが心配だ。
「こちらが居住区となります」
姉ちゃんが案内をする場所は、ショッピングモールのような場所だった。
やたらと広い廊下や通路、所々にエスカレーターが付いていて、天井はやはりガラス張りで非常に明るく、開放感がある。
廊下と接している壁にはマンションのように扉が連なっている。おそらく囚人の個室へと繋がっているのだろう。
また、ホールのような広い廊下は共同空間も兼ねているらしく、所々にテーブルと椅子が置いてあって憩いの場となっているようだ。
そして人影はというと、囚人達がポツリポツリといて、その他にはロボットが一定間隔で配置されていた。監視をする為と、暴動などが起こった時の鎮圧用なのだろう。
この監視体制は刑務所ならではと思ったが、考えて見れば、今の地球も大して変わりなかった……
「では、まず一般的な室内をご紹介しますね」
姉ちゃんが幾つもあるドアの中から、適当なドアを開ける。
そこは無人の室内だったらしく、姉ちゃん達が入ると、暗い室内に自動的に明かりがついた。
室内はなかなか広い。ベットとソファーが備え付けてある。
「こちら、バストイレ付きのワンルームですね、メインとなる部屋の広さはおよそ14畳となっております」
姉ちゃんが説明すると、春藤アナウンサーがちょっとうらやましそうに言う。
「快適そうですね」
「ええ、大体の収容者が満足しています」
「俺の部屋より広い……」
ヤン太がポツリとつぶやく。
「いや、ここにいる誰の部屋よりも広いよ……」
僕がフォローをする。するとジミ子が本音を言う。
「あそこに住みたい」
「おいおい、あそこに入るのは
キングがツッコミをいれるが、ミサキもあの環境に憧れたようだ。
「快適そうじゃない。暮らしてみたいよ」
「まあ、そう見えるかもしれないけど。よく考えて。あそこは火星ですごく過酷な環境なんだよ」
「……そうね、そうかもしれないわね」
とりあえず納得してもらったけど、あの環境は過酷には見えなかった。
理想的な未来都市に見えない事もない。
春藤アナウンサー質問をして、姉ちゃんが一通り室内を紹介する。
音声反応でコントロールできる照明、空調、テレビなど。
乾燥機能付きで、いつでもふかふかのベット。
座る人の体型に合わせて、形を微調整をするソファー。
春藤アナウンサーは、ただただ「非常に快適です」を連呼していた。
室内レポートが終わると、春藤アナウンサーは緩みきった顔が急に引き締まり、こう話しを切り出した。
「ここで暮らしている囚人の方々にレポートをしたいのですが、許可してもらえるでしょうか?」
「ええ、分かりました。こちら側としては安全には十分配慮しますが、気をつけて下さい。下手をすると戦いに巻き込まれるかもしれません」
「戦いですか? やはり囚人同士でいざこざはあるのでしょうか?」
「けっこうありますよ」
姉ちゃんがサラッと怖い事を言った。
春藤アナウンサーは青ざめた様子だったが、しばらくすると、意を決したらしく。
「ぜひ、現場をレポートさせて下さい」
と強く言う。
「はい、わかりました。それでは行きましょう」
姉ちゃん達は再び居住区へと繰り出した。
カメラは居住区の街並みの中を進む。
「今は就労時間らしく、あまり人は居ませんね」
おどおどしながら春藤アナウンサーは姉ちゃんの影に隠れるように歩く。
姉ちゃんは人を探しながら春藤アナウンサーに受け答えをする。
「そうですね、この時間はあまり…… お、居ました。ピーーさんです」
姉ちゃんは本名で呼んだらしく、報道規制により音でかき消される。
呼び止められた人物は長身の黒人の人だった。
「ええと、すいません。放送の都合により、仮の名前で呼んでもらって良いでしょうか」
「ああ、はい分かりました。では『カーリー』と呼びましょう。
カーリーちょっと良い? テレビの人がインタビューしたいんだって」
姉ちゃんは親しげに長身の黒人に話しかける。
「おう。インタビューを受けてやっても良いぜ」
「ありがとうございます。ではまず、よろしければここに来た罪状などを。話したくなければ話さなくても結構ですが……」
「ああ、銀行強盗だ。合計7回やって、懲役は140年だったけな」
すると姉ちゃんが冗談を言う。
「あなたは立派な模範囚だから、120年くらいに縮まるかもよ?」
「どっちにしろ生きてないだろ。まったく所長にはかなわねーな」
HAHAHAと笑い合うカーリーと姉ちゃん。なんかいつの間にか信頼関係を築いているようだ。
ちょっとフレンドリーな感じに安心したのか、春藤アナウンサーがマイクを差し出してインタビューを始めた。
「ここでの生活はどうですか?」
「部屋は快適だが、仕事は大変だぜ。慣れない農業は勉強しなきゃなんねーし、責任もあるしな」
「前に居た刑務所と比べてどうでしょう?」
「まあ、自由だぜ。なにせ脱走ができねーからな。変な事を考えるヤツが居ねえ。もし仮に外にでたとしたら息が出来ずに死んじまうしな」
カーリーが舌を出し、ちょっと窒息したようなおどけた振りをする。
「まあ、そうですね。ところでこの刑務所で不自由だと感じることは?」
「あれだ、外でタバコが吸えない事だな。ああ、まあ外と行っても本当は屋内なんだが、ここでは自分の部屋の外は屋外だと言っている。屋外では電子タバコ以外は禁止だ。もし本物のタバコをやったらレーザーで打ち抜かれるぜ」
するとカメラがちょっと震えた。もしかしたらカメラマンは喫煙者なのかもしれない。
そしていよいよ、春藤アナウンサーは本題の話しを振る。
「戦いが起こるという話しを聞いたんですが、本当でしょうか」
「ああ、住人どうしのいざこざはしょっちゅうだ。先週も……」
そこまで話しかけたときだった。突然、ビービーと警告音が響き渡る。やがてロボットの声でアナウンスが流れた
「コレカラB地区、54番の第15デッキで戦闘が発生しそうデス」
「おっと噂をすれば」
カーリーがやれやれといった仕草をする。
姉ちゃんが春藤アナウンサーに声をかける。
「戦闘が起こりそうですね、行ってみます?」
「はい、わかりました。いってみましょう」
行くとは言ったものの、春藤アナウンサーの顔からは恐怖でこわばっていた。
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