食糧問題、その後に 1

 いつものように昼休みに宇宙人の政策の話しをする。

 食糧問題の解決とは人類にとって大きな政策だったが、僕ら高校生の生活には、なんら影響はない。どうでもいいような事が話題が中心となる。


「あのトウモロコシ1本で良いから食べてみてーな」


 ヤン太がつぶやく。するとジミ子がこたえる。


「でも、1本は食べられないんじゃないの?」


「えっ、1本くらい食べれるだろ」


 ヤン太が反論するが、ジミ子がそれをつっこむ。


「宇宙人は生産量が5~6倍って言ってたから、トウモロコシ5~6本の量を食べるのと同じだと思うけど」


「……それは無理だな」


「そのくらい食べれるぜ」


 挫折ざせつしたヤン太を尻目に、キングが名乗りを上げた。たしかにキングだったら残さず食べれるだろう。


「問題は味よね、おいしいのかな」


 ミサキが真剣な顔でそう言うと、キングは主旨しゅしの違う意見を言う。


「味より量だろ」


 あまり話しが合わないのかと思ったのか、ミサキが話題を変えた。


「そういえばキングの髪の毛が伸びてきたね」


「最近ゲームが忙しいからな、切っている暇がnothingない


 キングの髪だが、だいぶ伸びてきた。そろそろ切ってもいい頃だろう。

 あまり話題が続かないほど、僕らはそんなに食糧問題に関心がなかった。



 ある日のホームルームの直前、ロボットが4人入ってきて、例のドアを設置していき、そのままどこかへ飛び去った。


 ホームルームが始まると、担任の墨田すみだ先生がやってくる。

 この状況に、ミサキが声を上げて質問をする。


「今日は宇宙人がくるのですか?」


「まあ、みんなも半分は分かっているとは思うが来る予定だ」


 墨田先生はドアを見ながら困った顔で答えると、どこかへと電話を掛けた。



 やがてガチャリとあのドアが開く。


「ヤア、キミタチ、元気でいるカナ?」


「「「元気です」」」


 みんなはこころよく返事をする。

 なにせ前回は宇宙旅行に連れて行ってもらったり、前々回は5万円をもらっていたりする。

 今回も何かを期待しても不思議ではない。



 来たばかりの宇宙人はさっそく本題に入った。


「今日は薬の治験ちけんをやってくれる人を探しに来たヨ、この薬はこれから必要になると秘書が言うからサ。モチロン協力費は払うヨ」


 ……姉ちゃんの発案か、しかも薬の治験という話がきた。

 宇宙人の科学力はすさまじいので、命には関わる事はないと思うが、これはもう嫌な予感しかしない。


「サテ、協力シテくれる人は居るカナ?」


 その宇宙人の言葉にクラスメイトの7割ほどは手を上げ、名乗り出る。みんな怖い物知らずだ。

 だが、それを見て、宇宙人はちょっと申し訳なさそうにこう言った。


「ゴメンネ、今回は一人居れば大丈夫だからネ」


 犠牲者は一人ですむらしい、問題は誰が犠牲者になるかだが……

 姉ちゃんがこの薬を提案したとなると、責任上、僕が犠牲にならざる終えないだろう。

 僕も高々と手を上げた。


 しかし宇宙人は、この状況に、どこか不満そうだ。


「適任者は、いなそうネ、困ったネ……」


 そうつぶやきながら、宇宙人は一人一人確認するように教室を見回す。

 すると、ある人物の場所で顔がとまった。目線の先の人物はどうやらキングのようだ。



 キングは特に手を挙げていないが、宇宙人はわざわざ近づいて行って話しかける。


「キミ、治験をやってみる気はあるカネ?」


「治験? どんな効果のdrug?」


「ハイ、3万円」


 宇宙人は、突然お金を差し出した、


「えっ、なに? くれるの?」


 思わず受け取るキング、だが、これがいけなかった。


「お金受け取ったら、それはOKという意味だよネ」


「あっ、ちょっとまっ……」


 次の瞬間にはキング電撃に打たれていた。


「ちょっと、ちゃんと説明してからでも……」


キングはそこまで言うと、なぜか急に立ち上がる。


「コッチネ、キミの自宅に繋げて置いたヨ」


 宇宙人はこのことを予測していたようだ。

 例の『どこだってドア』をキングの自宅に繋げていた


 キングは尻を押さえながら、やや内股の体制でドアに駆け込んだ。

 あの体制から想像できるのは下剤しか考えられない。

 机の上にもらったお金とスマートフォンを置いていった事から、かなりの緊急事態だったとうかがえる。


 なぜ下剤のテストが必要なのかは分からないが……



 キングが退場すると、宇宙人は大変に満足したようで、


「ありがとうネ、テストが出来たヨ、ではマタネ」


 お礼を言って、すぐに退出していった。


 宇宙人が去ると、僕らはいつも通りのホームルームをして解散となる。

 机の上に残された三万円とスマフォは、墨田先生が預かり、後日引き渡す事となった。

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