食糧問題、その後に 2

 キングが謎の投薬を受けた翌日、学校には来なかった。

 僕たちは心配はしたものの、大した事にはならないだろうと思っていた。


 さらに翌日……



 僕とミサキが学校へ登校した時だ、教室の前で人だかりが出来ていた。

 人だかりの中にはヤン太とジミ子も居たので、何が起こったのか聞いてみる。


「なに? どうかしたの?」


 その質問にヤン太が答えてくれる


「キングの席、見てみろよ、別人が座ってるんだ」


「そう、理由は分からないけど、凄い美人が座っているわ」


 ジミ子が更なる情報を教えてくれるが、僕は余計混乱した。


「まあ、良いから見てみろよ」


 ヤン太に言われ、教室の外からキングの席を覗く。


 するとそこには長身の女性が静かにたたずんでいた。


 細く長い手、スラリとした足、くびれた腰とボリュームのある胸。

 そして目鼻立ちの整った絶世ぜっせいの美女が席に座っている。



 僕はわけがわからずみんなに質問をした。


「えっ、誰、あの人? キングはどうしたの?」


「まだ連絡がつながらないんだ」


 ヤン太が心配そうに言う。

 ジミ子がなんとか状況をまとめようとする。


「しかし凄い美人よね、モデルか女優か……、芸能人なのかしら?」


 ミサキが混乱の中、なんとか推理をしようと試みた。


「ええと、なんだろう? 芸能人ということはキングの代役なのかな?」


「えっ、なんで代役を立てるの?」


 僕がそんな質問を投げると、ジミ子が深刻な顔をして言う、


「もしかしたら何か事故があって、代役を立てなくてはならない状況に……」


 あまり悪いイメージは想像したくないが、僕も他の事は考えられなかった……



 僕らが教室に入れず、たむろしていると担任の墨田すみだ先生がやってきた。


「ほら、お前ら授業が始まるぞ、とっとと中に入れ」


 無理矢理、僕らは着席させられる。


 異質な環境に僕らはうろたえるのだが、例の美女は身じろぎ一つせず真っ直ぐ黒板の方を見つめていた。



 全員が着席すると、墨田先生は何事も無くホームルームを始めようとした。


「ええと、全員居るな、今日の朝の連絡は特になしだ、では1時間目の国語の授業を始めるぞ」


 全員? キングが居ないのに?

 これはおかしい事態だ、もしかして本当に事故があり、代役を立ててごまかそうとしているのか?

 クラスメイト達はだれもこの事をとがめない。


 僕は意を決して、手を挙げた。墨田先生がそれに応える。


「なんだ、ツカサ、何か言いたいことがあるのか?」


「キングは……、真山まやまくんがいません!」


「そこに居るじゃないか?」


 例の美女を指さし、墨田先生がとぼけようとするが、僕はそれを許さない。


「いえ、彼女は違います。容姿の良い代役を立てても、僕は見た目には騙されません」


 すると意外にも美女が驚いて声をあげた。


「えっ? どういう事?」


 その声はキングそのものだった。

 だが、僕はまどわされない。宇宙人の技術を使えば声を変えることぐらい造作ぞうさも無いだろう。


「あなたはキングではない、誰なんだ?」


「いや、キングだけど、ちょっと宇宙人の薬でやつれただけだって」


 あくまで彼女は自分がキングだと主張する。だが、無理がありすぎる。

 確かに髪型と背の高さは同じくらいだが、一度、キングの写真と、自分の姿とを鏡で見比べた方が良い。



「あなたはキングじゃない」


「俺がキングだ」


「どうみてもキングじゃない」


「ちょっとやつれだけだって」


 しばらく同じようなやり取りを繰り返すと、ヤン太がしびれを切らし、怒鳴り声が上がる。


「お前はキングじゃない、本物のキングはどこにいったんだ!」


 この発言に乗っかり、クラスメイト達も声を上げる


「本物のキングを返せ!」「偽物は帰れ!」「帰る前にLnieのアドレスを教えて下さい!!」


 一部で変な声も聞こえるが、大半は批判だった。



「いや、だから俺がキングだから…… 」


 するとミサキが強い口調で言う。


「じゃあ、証明して見せてよ」


「証明と言われても、なぁ……」


 偽キングは困った顔をした。そこへミサキが珍しく鋭い意見を言う。


「本物のキングならゲームが得意なはずだわ。ゲームで勝負よ!

 それで良いですよね、墨田先生?」


「ああ、もう、それで気が済むなら好きにしろ」


 墨田先生が投げやりに言う。

 こうして1時間目の国語の授業はゲーム大会となった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る