第9回目の改善政策 3

 宇宙人が品種改良でトウモロコシの収穫量を大幅に改良した。

 つづいて他の穀物の品種改良を説明する。


「続いてこれネ」


 宇宙人は小麦の穂と米の稲穂を取り出した。


「これは特に変わった点は見当たりませんが」


「小麦は実は肥料が面倒ダネ、必要な肥料を従来の9分の1にして、ほとんど肥料が無くても育つヨ。他に天候の変化、病害などにも強くしたネ」


「それでは米の方はどうです?」


「成長スピードネ、およそ1.6~2.3倍で成長するヨ。かなりの地域で二毛作かソレ以上の収穫が出来るネ。アト、寒さにも強くしたネ」


「なるほど、かなり生産率が上がりそうですね」


 宇宙人の改良はすさまじいものがあった。これなら地上から飢餓が無くなりそうだ。



「サテ、これで穀物の生産量は全人類の人口をカバー出来る様になったケド、実はワレワレが関与しなくとも、人類は飢餓を克服できたネ」


「そうなんですか? 今まで結構頑張ってきて、この結果だと思うのですが……」


「データーによると世界の穀物の、約40%が家畜が食べてるネ、トウモロコシだと6~7割くらいが飼料用だヨ。肉を食べずにトウモロコシをそのまま食べていれば、ソモソモ食料問題は起こらなかったネ」


「……なるほど、そうでしたか」


 福竹アナウンサーが深くうなずく。

 確かにカロリー的にはそれで飢餓を克服できるのかもしれないが、ゆでたトウモロコシをおかずに、ご飯を食べるにはキツい気がする。



 宇宙人が上の方を見上げ、ちょっと独り言のようにつぶやいた。


「肉を食べなければイイだけなんだケド、ヤッパリ肉も食べたいよネ」


「ええ、そうですね。やはり食べたいです」


「ソコデ、ワレワレは畑のお肉を開発したヨ」


「……畑のお肉ですか? 大豆を思い出しますが」


「ソウ、それネ。それを品種改良したネ」


 なんだろう、今までも大豆から作る人工肉というものはあった。

 おそらくそれの発展系だろうか?



「これネ」


 宇宙人は写真のテロップを取り出した。

 そこには収穫直前の大豆、いわゆる枝豆の状態の写真だったが、豆がやたらとでかい。


 普通の枝豆だったら一株から数え切れないほどのさやがのびているが、この写真では非常に大きな莢が2~3個しか確認できない。


「これはなんでしょう? やたらと大きそうですが」


 福竹アナウンサーも違和感を覚えたようだ。詳しい話を聞き出す。


「収穫とか面倒だから、大きくしたネ。食べ応えもあった方がイイでショ」


「ええ、まあ、たしかに枝豆とか、面倒ではありますが……」


「実物を用意したカラ、食べてみてヨ」


 宇宙人が手で合図をすると、ロボットが写真に写っていた枝豆の莢を持って来た。

 やはりでかい、豆の一つがソフトボールくらいのサイズがありそうだ。



「牛肉、豚肉、鶏肉、羊肉と用意できるヨ、これから出すサンプルは牛肉味ネ」


 宇宙人が福竹アナウンサーに説明をする。


「そうですね、肉の話題でしたね。あまりの異様さに本題を忘れてしまいました。

 これからこの大豆を牛肉の味付けにするのでしょうか?」


 僕もここから豆を加工すると思ったのだが……


「イヤ、牛肉の味の品種だカラ、もう牛肉の味がするはずだヨ、食べてみてネ」


「本当ですか? まあ、ものは試しです。食べてみますね」


 福竹アナウンサーが枝豆のさやから豆を取り出そうとする。

 莢を手で開くと、赤い液体がドバーッと出てきて、デロンと肉の塊のような豆とは言えない物が出てきた。グロい、非常にグロい。


「ええと、これは豆ですよね」


 怪しげな物体を前に、福竹アナウンサーは宇宙人に説明をう。


「ソウダヨ、豆だけど、肉に近づけたネ、電子レンジプラスに放りこんで食べてミテ」


「ええ、あぁ、はい」


 気持ち悪い物体を前に、福竹アナウンサーはすこし躊躇ちゅうちょしていたが、やがて決心がついたらしい。豆のような物をつかむと、電子レンジプラスの中へ放り込む。そして『調理』ボタンを押して、『ステーキ』を指定する。

 調味料を少し入れ、スタートボタンを押すと、3分もかからないで料理ができあがった。



 福竹アナウンサーは、まず物体のにおいを嗅ぐ。


「匂いは、良いですね、ステーキの香りです、では、一口頂きます」


 ナイフで切ると、口へと運ぶ。そして食べると、少し驚いたような顔そする。


「普通においしいですね。ちゃんと牛肉の味がします」


「ソウネ、味や食感などは、99.2%は牛肉と同じネ」


「ただ、ちょっと見た目は気持ち悪いですね」


 福竹アナウンサーが本音を隠さずに意見を述べた。

 すると、その意見に対し、宇宙人はこう返した。


「この惑星では、動物を殺して解体して、その肉を食べるのと、この豆を食べるのと、ドッチが気持ち悪いノ?」


「……そうですよね、肉はスーパーなどでパッケージされていて買うので、あまり意識はしませんが、元は生きていた動物なんですよね。

 これからは、この大豆で肉と同じ物が食べられるとなると、こちらの方が健全なのかもしれませんね」


「マア、穀物の生産量は増えたからネ、家畜も十分に養って行けると思うヨ」


「そうですね、家畜には家畜の、この豆にはこの豆の良いところがあると思います」


「サテ、アンケートを取るネ」



 恒例のアンケートが始まった。

 僕は、「今週の政策は『よかった』」「宇宙人を『支持する』」に投票する。


 そしてアンケートの結果が表示された。


『1.今週の政策はどうでしたか?

   よかった 92%

   悪かった  8%


 2.プレアデス星団の宇宙人を支持していますか?

   支持する 83%

   支持できない 17%』



「支持率自体は下がりましたが、今週のアンケートは好評でした。

 今日はそろそろお時間となりました、それでは来週もまたお会いしましょう」


「マタネー」


 二人が手を振り、番組は終わった。


 支持率の数字が少しさがったのは、先週の取り締まりのシステムが不評だったからだろう。

 あれはやりすぎだと思う。


 しかし今週は食べ物の廃棄量といい、家畜の穀物消費量といい、肉のありがたさといい、少し考えされられる所があった。

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