テスト期間と英語 2
テストの前日の夜、英語が話せるようになる装置というものを姉ちゃんが持ってきた。それは、小型の目覚まし時計の付いた、シリコンゴムで出来た柔らかいヘルメットと、栄養ドリンクのような物だった。
姉ちゃんは少し酔っていて
「使用マニュアルをメールで送って置いたからお願いね」
そう言うと、早々に寝てしまう。
僕はとりあえずミサキにLnieでメッセージを送る。
「例の英語が話せる装置が来たんだけど、持って行く?」
そう打ち込むと、Lnieの返事より早く家のチャイムが鳴る。
僕が玄関のドアを開けると、ミサキが上がり込んできた。
「待ってました、さっそく使おうよ」
いかがわしいエイリアンのマシーンなのにミサキは使用を
「ちょっと待ってね、マニュアルを開くから」
僕はスマフォで送られてきたマニュアルを開いて読み上げる。
「ええと、まず、ヘルメットに付いている時計を、適用させたい時間に合わせます。
英語がしゃべれるように適用させるまでは4時間以上はかかります。なお英語が喋れる時間は3時間続きます」
「うんうん、明日の朝までだから時間は十分だね。時間は、テストが9時だから、8時くらいからで大丈夫かな」
ヘルメットに付いている目覚まし時計の針を合わせると、次の指示を僕に催促する。
「で、次は?」
「ああ、うん。付属のナノマシン配合のドリンクを飲みます、これにはナノマシンが配合されており……」
「飲んだ!」
「早い! まだ説明の途中だよ」
「いいから次!」
僕は注意書きを飛ばし、次の手順を読み上げる。
「ええと後は、そのヘルメットをかぶっておけば大丈夫らしいよ」
「わかった、じゃあまた明日ね!」
ヘルメットをさっそくかぶり、ミサキは笑顔で帰って行った。
宇宙人の道具に色々と心配な面もあったのだが、僕も自分の勉強がある。
あまりミサキに構ってやれず、この日は適度に勉強をしてから就寝した。
そして翌朝。
身支度をして、テストの為に少し早めに家を出る。
いつもの様にミサキの家のチャイムを押すと、
「
と、ネイティブな英語の発音が聞こえてきた。
どうやらあの装置は成功したらしい。
ドアを開けてミサキに挨拶をする。
「おはようミサキ、どう、英語が分かるようになった?」
「
難しい顔をしながら、英語の返事を返すミサキ。
初めは、からかっているのかとも思ったが、どうも様子がおかしい?
僕は昨日のマニュアルをちゃんと読み返して見ることにした。
マニュアルには、言語中枢とか、ナノマシンが疑似ニューロンとか訳の分からない説明が続いていたが、この症状に当てはまる、それらしい注意書きがあった。
『この装置は言語中枢を入れ替えます、母国語が一部、不自由になります』
「……もしかして日本語がしゃべれない?」
ミサキはしばらく考えた後、こんな返事が返ってきた。
「I can not speak Japanese ≪日本語がしゃべれません≫」
……これはどうしたらいいのだろうか?
とりあえず、遅刻するとマズイので、僕はミサキの手を引きながら学校へ向う。
その途中に姉ちゃんに電話をかけた。しばらくコールして、姉が電話に出る。
「はい、なによ弟ちゃん」
「姉ちゃん、ミサキが日本語しゃべれなくなってるんだけど?」
「えっ、ほんとう? おかしいな。
あれは日本語と英語の読解力を入れ替えるような装置で、最低限の英語の単語が喋れれば、なんとか日本語が通じる感じなんだけど……」
「駄目だったよ、全く通じない」
「ミサキちゃんの英語の成績は……」
「
「まあ、3時間ほどで効果が切れるから、がんばってね」
そう言って電話は切れた。……これは困った。
「……どうしようか?」
ひとりごとをつぶやくように言うと、不思議な顔をして、僕をのぞき込むミサキ。
本当に簡単な日本語も分からないらしい……
英語のテストは英語だけ喋れれば良いという物ではない。
当然、設問の文章は日本語だし、『日本語を英語に訳せ』とか、反対に『英語を日本語に訳せ』という問題ばかりだ。
ときどき、『英文に対して英文で返せ』という文章問題が出てくるが、今のミサキの状態だと答えられるのはこの位だろう。
やがて学校に着くと、僕は英語な得意なキングにミサキの勉強を頼み込む。
「キング、お願い、ミサキに日本語を教えてやってくれ!」
「えっ、次は
この後、宇宙人の装置を軽く説明してから、ミサキの勉強に取りかかる。
キングは懸命に教えるのだが、テスト前の短い時間で、日本語が身につく訳はなかった。
やがて英語のテストが始まる。
幸い、この日は英文だけ読めれば何とかなる問題が4割ほどあり、ミサキは何とか赤点だけは免れそうだ。
ちなみにこの日は英語のテストの後に、国語のテストがあった。その点数は……
勉強は地道にやるしかないと思い知らされた日だった。
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