第9回目の改善政策 1

「みなさまいかがお過ごしでしょうか。本日も明石市立天文科学館から、第9回目の改善政策の発表を行ないたいと思います」


「ヨロシクネ」


 いつもの時間にいつもの番組が始まった、今日はどのような政策が打ち出されるのだろうか。



 福竹アナウンサーがさっそく本題に入る。


「今週の政策はどのようなものでしょうか?」


「今週は、コレダネ!」


 そう言って宇宙人はテロップを机の上に出す。


 そこには『食糧問題』と文字があった。



「食糧問題ですか、これまたスケールが大きいですね。どのような対策をするのでしょう?」


「対策は国や地域ごとに違うネ。例えば、この国では食料は十分に足りているネ」


「ええ、そうですね。この国では十分といえるでしょう」


「十分足りているどころか、余っていて捨てているよネ」


「ああ、はい、そうです。食料を無駄にしてますね。お恥ずかしい限りです」


 福竹アナウンサーが気がまずそうに、顔を伏し目がちになった。



「それで、具体的にはどのような政策を行なうのでしょうか?」


 その言葉を受けて、宇宙人は新たな道具を取り出す。

 それは一見すると、どこにでもある食品タッパーのようだ。


「マズは、コレを使える様にするヨ」


「なんでしょうかそれは、食品のタッパーに見えますが……」


「食品タッパーだからネ」


「ああ、はい、そうでしたか」


 ……どうやら食品タッパーそのもののようだ。

 しかし、『使える様にする』とは、何をどのように使える様にするのだろう?

 全く思い浮かばない。



 宇宙人が福竹アナウンサーにタッパーを説明をする。


「外で食事をするじゃナイ」


「ええ、しますね」


「残す時もあるじゃナイ」


「ええ、ありますね」


「その時に、持って帰ってもOKにするのネ」


「なるほど、食べ残しを持って帰って良いようにするのですね」


「店側が断れないように、規定をするネ」


 宇宙人の出した改正案は、極めて現実的で地味な物だった。


 僕は「若いんだから食べられるでしょ」と、謎の理由をつけられて、勝手に大盛りにされてしまう場合がよくある。特にキングと一緒に食事に行くと、よく食べる人だと思われてしまうのか、無言で特盛りにされてしまう。


 残すのは申し訳ないので、いつも一生懸命に食べていたが、この改正案が実施されれば非常に助かる。



「アト、持ち帰りの食中毒が怖いから、コレを発売するヨ」


 そういって宇宙人は30~40cmくらいの箱形の電子レンジのような装置を取り出した。


「何ですかこれは?」


「電子レンジプラス、ダネ」


「電子レンジプラスですか? 普通の電子レンジとどう違うのでしょう?」


「マズ、高性能の温め機能が付いてるヨ、あと高性能の冷却機能が付いてるヨ」


「冷却機能ですか?」


「温められるんだったら、逆をヤレば冷やす事が出来てもおかしく無いよネ」


「ああ、まあそうかもしれませんね。考えてもみませんでしたが」


「デハ、試してみるネ」


 宇宙人は画面の外に合図を送る、するとロボットが電子ジャーを持ってきた。

 電子ジャーからは湯気が上がっていて、炊きたてのご飯が入っているようだ。



 ロボットは持ってきた電子ジャーから、手慣れた手つきで茶碗へとご飯をよそる。

 なかなかシュールな光景だ。


 やがてご飯を二つほど茶碗によそると、福竹アナウンサー達の前に差し出した。


「これは、食べれば良いのでしょうか?」


「チョット待ってネ」


 そういうと宇宙人は茶碗の片方を電子レンジプラスの中へ入れる。


「試しに今回は、『冷凍』を選ぶヨ」


 電子レンジには従来の『温め』『解凍』『調理』の他に、『チルド冷却』『冷凍冷却』というボタンが付いていた。

 お茶碗を入れ『冷凍冷却』のボタンを押してしばらく経つと、チーンとおなじみの音がする。


 宇宙人がご飯をとりだすと、カチコチに凍っていた。


「凄いですね」


 福竹アナウンサーがいつの間にか渡された箸でつつく。

 ご飯はガツガツを音を立て、完全に冷凍されているようだ。


「コノ状態で冷凍保存すれば、半年は持つヨ」


「なるほど」


「スーパーの惣菜や、コンビニの弁当も冷凍で売れば、ロスが防げるネ」


「いやあ、でも冷凍食品というのは、どうなんでしょう。味が少し落ちると言いましょうか……」


「そう言うと思ったネ、食べ比べてみてヨ」


 宇宙人は先ほど凍らせたご飯を電子レンジに入れると、今度は『温め』を押す。

 やがてチーンという音と共に、ホカホカのご飯だ出てきた。


「それでは頂きますね」


 そういって福竹アナウンサーがご飯を食べ比べる。

 電子ジャーから取り出したご飯と、一旦冷凍してから温めたご飯。

 普通なら差は歴然なのだが、福竹アナウンサーの顔は神妙しんみょうだ。


「……はっきり言うと違いが分かりません」


「ソウネ、電子レンジが食材を判断して、適切な処理を行なっているからネ。

 味や食感の復元率は99.6%ぐらいネ」


「なるほど、今回はご飯でしたが、他の料理なども大丈夫ですか」


「大丈夫ネ、お弁当とか複数の素材がある場合は、おかずごとに適切に温めるヨ」


「なるほど、それは助かります。私事わたくしごとですが、お弁当の暖かいタクアンが苦手なんですよね」


「コノ電子レンジプラスだとそういった事も無いネ。

 他に調理も簡単ネ、魚や肉を放り込んで『調理』ボタンを押せば、焼き魚や焼き肉の完成ネ」


「便利ですね、それでお値段は?」


「実は値段は各メーカーと相談中ネ、今までの電子レンジに2~4万円くらい上乗せされると思ってネ」


「わかりました」


 値段交渉ができず、福竹アナウンサーがすこしガッカリしたように見えた。

 電子レンジプラスは名前はダサいが、とても高性能のようだ。



 番組はまだつづく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る