テスト期間と英語 1
ある日の放課後、僕とミサキは二人で公民館の図書コーナーに来ていた。
3日後から始まるテスト期間に備えて勉強する為だ。
あまり勉強が出来ないミサキだが、その中でも英語は特に酷い。
今日は重点的に英語の勉強をする為にわざわざココまでやって来た。
「自宅だと何かと集中できない」という理由でここに来て居るが、図書コーナーに移動するだけで集中力が上がるはずもなく、嫌がりながらも勉強を進める。
僕は基礎の基礎からミサキに勉強を教える。
「まずは、単語を覚えないと」
「むり、こんな一辺に憶えられない」
「だから、本当は毎日、少しずつ憶えないといけないんだよ」
「テストは3日後だもん、そんなこと言ってられない」
「じゃあ、手を使って憶えるしかない。単語をひたすら繰り返し書いて」
少しふてくされながら、ミサキは何とか手を動かして繰り返しノートに単語を刻む。
しかし大丈夫だろうか? まだ文法どころの話ではない。
このペースでは下手すると赤点を取って補習という事も充分ありうる。
しばらく単語をうつしていると、飽きてきたのかミサキは文句を言い始めた。
「あの宇宙人の翻訳機があれば、こんな勉強しなくて済むのに」
「まあまあ、僕らにあの翻訳機はないんだし」
「そうだ、お姉さんに言って借りられない?」
「えっ、それはテストとしてマズイんじゃないの」
「いいから、借りられるか聞くだけ聞いてみてよ」
ミサキに言われてしょうがなく姉にLnieメッセージを投げてみる。
するとこんな返事が返ってきた。
「貸しても良いけど、何に使うの?」
あー、どうしよう。なんて返事を書けばいいんだろう。
困った僕は、ごまかすために新たな質問を投げてみた。
「あの装置は文章にも有効なの? 耳で聞くものだけにか使えないの?」
すぐに返事が返ってくる。
「耳で聞くものだけだね。イヤホンみたいなものだし」
これは重要な質問だ。今回の学校のテストにヒアリング問題は無い。
もしあの翻訳機を借りたところで、テストには全く役に立たないだろう。
「わかったありがとう、たぶん借りることはないと思うよ」
断りの返事をいれて、僕はこの事実をミサキに伝える。
「あの翻訳機、借りれるけど……」
「ほんと、やった。これでテストも……」
「ちょっと、話を最後まで聞いて。あの翻訳機はイヤホンのような物で、聞き取りにしか役に立たないらしいんだ。読解問題しかない今回のテストには全く役に立たないらしい」
「そ、そんな~」
空気が抜けたみたいにミサキがしおれた。
「ほら、単語の書き取りをつづけて」
「はーい」
再びミサキは手を動かし始めた。
そして、5分もしないうちに、こんな事を言い出した。
「宇宙人の技術で英語が理解してしゃべれるようにならないかな?
ちょっとお姉さんに聞いてみて」
「……いや、むりじゃないかな」
「いいから、聞くだけでいいから聞いてみて」
ミサキの必死の
「わかったよ、とりあえず聞いてみる」
完全に現実逃避だが、僕は念のため姉ちゃんに聞いてみる。
こんな事はいくらなんでも宇宙人にできる訳がない。
そう思っていたら、以外な返事が返ってきた。
「まだ試作段階なんだけど、出来ない事はないよ。一時的にしか持たないけどね」
僕はさらに詳しく聞き出す。
「一時的ってどのくらい? その後は完全に元にもどるの?」
「効き目があるのは大体3時間くらいかな、そのあとちょっと混乱する時期があって、1時間もすると完全に元にもどるよ」
「混乱って、大丈夫なのそれ?」
「ああ、大丈夫、英語と日本語が混じるようになるくらいだから、キングくんみたいなしゃべり方になるだけだよ」
「あ、そうなんだ」
「それに私も何度か使ってるし、問題なかったよ」
「分かった、それって例えばミサキにやってもらえたりする?」
「ミサキちゃんならOKだよ、いつでも言って。なんなら装置の貸し出しもしてあげるよ」
「ありがとう。たぶん2日後、借りることになると思う」
「わかった用意してるね」
メッセージのやり取りが終わると、僕はこの事をミサキに伝える。
「どうやら出来るらしいよ」
「やったー、これで勉強しなくていい」
ミサキはバンザイをするように両手を上げ、すぐさま勉強を放り出した。
僕は、余った時間を『他の教科の勉強にあてた方が良い』と忠告をしたが、そんな事を聞くミサキではない。
誰もいない図書コーナーで、少しだけ雑談をして、その日は解散となった。
そしてテストの前日の日、その装置は届いた。
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