第8回目の改善政策

 今日は、第8回目の改善政策が開かれる。

 この定例会にも僕らは慣れてきた。少し早めの昼食を取りテレビの前で待機する。



 やがて正午になり番組が始まった。


「みなさまご機嫌いかがですか。第8回目の改善政策です」


「今日もヨロシクネ」


 福竹アナウンサーと宇宙人がいつも通りの挨拶をする。



「さて、今週の改善政策の内容はなんでしょうか?」


「今週は、比較的、シンプルだヨ」


「ほう、どのような事ですか?」


「詐欺などの犯罪行為の捜査にワレワレが協力する事になったヨ」


「それは助かります」


 もしかしたら今週の政策は僕が提案した案件のようだ。



「今回はワレワレだけで無く、各国の警察と協力シテ、犯罪と犯罪者の特定を行なうヨ」


「すごく良い事ですね、犯罪者の逮捕にも関わりますか?」


「逮捕なども必要なら、ワレワレが手伝うヨ」


「なるほど、ちなみに逮捕した容疑者や犯人はどうなりますか?」


「ワレワレが逮捕した容疑者は、警察、刑務所、拘置所に送るカラ、あとはヨロシクネ」


「わかりました、ありがとうございます」


 取り締まりは宇宙人の独断では無く警察も関わるらしい。

 宇宙人だけだと、とんでもない事になりそうだったが、これなら大丈夫そうだ。僕は少し安心した。



 福竹アナウンサーが更に詳しい話を聞き出す。


「具体的には警察との連携はどうするんでしょうか?」


「警察からは、事前の打ち合わせで指名手配者リスト、被害届リストをもらったネ。

 あと法律に関しても、学習したから大丈夫ネ」


「なるほど。ところでプレアデス星団の調査能力と言いますか、捜査能力はどれくらいなのですか?」


「過去の事件、ワレワレがこの惑星に来る前の事件については、流石にワカラナイネ」


「まあ、それはそうでしょうね」


「タダ、証拠が残っていれば、ワレワレで再解析するカラ、新たな情報が得られるカモしれないネ」


「なるほど、心強いですね」


 確かに宇宙人の解析能力を使えば、なにか新たな手がかりが出てきそうだ。

 いくつかの未解決事件が、これを機に解決するかもしれない。



 さらに宇宙人が頼もしい話を語る。


「アト、上空にあるロボットで常に監視しているからネ、指名手配の犯人がいれば直ぐに見つかると思うヨ」


「それはこの国に限らず世界規模の話ですよね」


「ソウダネ、どの国へ逃げても直ぐに分かるネ」


「あとですね、報道の字幕のシステムあるじゃないですか。真実に反すると字幕が出てくるヤツです」


「あるネ」


「あれって、取り調べの時に嘘発見器の要領で使えませんかね?」


「ソウダネ、使えるネ。デハ警察からの要請があれば、ロボットを嘘発見器役として派遣するヨ」


「助かります。ところでこの警察との協力は、いつから始まるのでしょうか?」


「3日後だネ、警察機関と調整して、その日程になったヨ」


「了解しました、今週はすごいですね。スムーズに事が運びそうです」


「デハ、アンケートを取るヨ」


 そして、いつものアンケートを取る画面が現れる。



 今週の政策はとてもよさそうだ。これなら犯罪が激減すると思う。

 それに、この政策は僕が言い出した『オレオレ詐欺の取り締まり』から発展したものだろう。

 発案者の僕が反対する訳にはいかない。


 僕は、「今週の政策は『よかった』」「宇宙人を『支持する』」に投票する。



 しばらくするとアンケートの結果が表示された。


『1.今週の政策はどうでしたか?

   よかった 96%

   悪かった  4%


 2.プレアデス星団の宇宙人を支持していますか?

   支持する 81%

   支持できない 19%』



 やはり、ほとんどの人が今週の政策には賛成らしい。

 この政策に反対する人々は犯罪者ぐらいのものだろう。



 福竹アナウンサーが時計をチラリと見る。

 すると、中途半端に時間が余ってしまったようだ。


「どうしましょうか? 以前のように質問を受け付けてもよろしいでしょうか?」


 その質問に宇宙人は首を横に振った。


「ちょっとワレワレから告知があるので良いカナ?」


「ええ、なんでしょう?」


 次の瞬間、テロップを伏せた状態で両手に抱え、カメラのフレームに入ってくる人物がいた。

 それはロボット人材派遣会社のCEO、つまり姉ちゃんだった。


「あなたは最近注目されている経営者の『笹吹ささぶき あやか』さんですね」


 どうやら姉ちゃんは福竹アナウンサーも知っている有名人らしい……


 福竹アナウンサーに名前を言われると、姉ちゃんは軽くお辞儀をして、本題を語り出す。


「このたび私は宇宙旅行会社を立ち上げまして、その告知に参りました。

 ちなみに売り上げは100%、ベーシックインカムの補填ほてんに当てさせてもらう、ボランティア企業です」


「今度は宇宙旅行会社を開拓ですか、すごいですね。それで、告知の内容は?」


 すると姉ちゃんがテロップを出しながら、宣伝をする。


「68,000円でいける銀色の月。夢のような45分の宇宙の旅、無重力で見る月と地球。みなさんいかがでしょうか?」


 68,000円という値段は宇宙旅行としては格安だ。

 スマフォで調べると、地球の大気圏の端までいくだけで1000万円。

 月の周りを回るとなると、50億以上とも90億近くとも言われている。


 ところがそんな値段にもかかわらず、福竹アナウンサーは臆さない。


「もう少し安くなりませんかね。社長」


 ここから値下げ合戦が始まり、最終的には『49,800円、65分間の旅』にまでプライスダウンされた。

 番組は完全に低俗な通販番組となっていた。


 前半で『犯罪の取り締まり』といった良い話をしていたのが、まるで嘘のようだった。

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