それは何気ない食卓から始まった

 家族全員で晩ご飯を食べていた時だ、テレビのニュースでこんな事を呼びかけていた。


「みなさま、新手のオレオレ詐欺が流行っています、くれぐれも引っかからないようにお願いします。もし、詐欺にあってお金を取られると、ほとんどお金は戻ってきません」


 これを見ていた僕は、姉ちゃんに聞いてみる。


「宇宙人の技術を使って、こういった詐欺とか犯罪の取り締まりとかできないの?」


「あぁ、うん。出来ると思うよ。銀色の月ってさ、1年以上前からあそこにあったじゃない」


「うん、そうだね」


「そのときから地球の観測をしてたらしいんだよね」


「へぇー」


「だから、ある程度は過去にさかのぼって取り締まりとかやれるかもしれない」



 続いて僕は宇宙人が事件をどのくらい把握をしているのか、さぐりを入れる。


「姉ちゃん、もしかしたら被害者のお金とか、どこに消えたか分かるかな?」


「ええと、たしかインターネットとかはチェックしていたはずだから、お金の流れとかも分かると思うよ」


 なんでインターネットをチェックしていると、お金の流れが分かるのだろうか。

 きっと銀行内の口座のデーターとかも侵入してチェックしていたのだろう……


 ちょっと怖い事を聞いた気がするが、僕は聞き流すことにした。


「それなら被害者の救済とかできそうだね」


「そうだね、今度チーフ宇宙人に提案してみるよ。検挙となると警察とかの連携とかもあるだろうし」


 僕たちがそんな会話をしていたら、母さんに叱られた。


「そんな無駄話してると、ごはんが冷めちゃいますよ。早く食べちゃいなさい」


「「はーい」」


 今の会話は無駄話だったのだろうか?

 比較的、人類にとっても有意義ゆういぎな会話だと思うのだが……


 ひとまず僕らは食事に集中した。



 食事を終えると、姉ちゃんが新たな話題を提供する。


「こんどね、私名義で宇宙旅行の会社を立ち上げる事になりそうだよ」


 ニコニコしながら言う。

 また姉ちゃんの肩書きが増えるのか……

 肩書きだけ見ると、とても立派な人に見えてしまうから困る。


「いくらぐらい稼げそうだ」


 父さんが低俗な質問を姉ちゃんにした。


「いや、売り上げは相変わらずベーシックインカムの方に行っちゃうから、私に収入が入ってくる訳じゃないよ。秘書としてのボーナスは増えるけどね」


「事故とか起こらないの? 損害賠償とかされてもうちでは払えないわよ」


 母さんがもっともな心配をした。

 僕の経験したあのシステムなら事故など起こるはずも無い。その質問には僕が質問に答える。


「僕も宇宙へ行ったけど大丈夫だよ、ドアみたいなものをいくつかくぐるだけだから」


「まあ、それならいいんだけど。ところでツカサ、あなたも宇宙に行ったの?」


「うん、行ってきた」


「遠出するときは、一言いいなさいよ」


「あっ、うん、ごめんなさい」


 月までの距離はおよそ38万キロ、地球一周がおよそ4万キロだから、地球9週半の壮大な遠出だった。

 実際は、立ち食い蕎麦屋そばや暖簾のれんをくぐり抜けるような、一瞬の出来事だったけど。



 そういえば僕は銀色の月に行ったことがあるのだが、姉ちゃんは行ったことがあるのだろうか?


「姉ちゃんは銀色の月に行ったことはあるの?」


「何度も行ってるよ、やっぱり行きたい人は多いから、接待で付き合ってるよ」


「へー、他にどんな人が行ったの?」


「事務局の人達とか、総長さんとか」


「へえ、姉ちゃん以外にも、宇宙人の会社に勤めている人いるの?」


「いないよ、うちの会社は零細のベンチャー企業だから、人間の社員は私だけだよ。あと働いてるのはロボットだけ。たまにヘルパーの人が来るけどね」


「じゃあ、事務局の人達って?」


「国連の事務局の人達」


「じゃ、じゃあ、総長さんって?」


「国連事務総長だよ、この間連れて行ったら涙流しながら喜んでくれたよ。他には総理とか」


「総理って総理大臣の事」


「うんそう、あと有名な大統領はだいたい連れて行ったかな。あそこに連れて行くと、その後の会議がスムーズにいくんだ」


「ああ、うん、そうなんだ」


 ……なんか凄い話が出てきた。

 姉ちゃんはもしかしたら肩書きだけでなく、本当に凄い人なのかもしれない。

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