お詫びのプレゼント 2

 宇宙人が現れて、僕らのクラスを銀色の月に招待してくれると言う。

 つまり、僕らは宇宙に向けて旅立つ事になった。


 子供の頃、誰もが思い描いていた宇宙旅行が今、現実になった。



「トイレは済ませたカネ? 移動を開始するヨ」


 宇宙人の引率の元、僕らは月面軌道上の基地へと移動を開始しようとする。

 するとミサキが宇宙人に質問をした。


「どのように移動するのでしょう。宇宙服とか要りますか?」


「イヤ、要らないよ。マズは事務所に移動するネ。そこからさらに移動するネ」


 そういって宇宙人は例のどこだってドアを開ける。

 つながった先はどこにでも有りそうなオフィスの一室だった。



 宇宙人の後を追い、僕らはそのオフィスに入る。

 すると事務机の向こう側に秘書室長兼、ロボット人材派遣会社のCEOがいる。

 どうやらここが姉ちゃんの職場らしい。


 姉ちゃんは僕らを見ると、


「楽しんで来てね」


 とウインクを飛ばした。


 クラスのみんなは、世界有数のCEOから言葉を貰い興奮している。

 みんなは肩書きに騙されている。その実態は酷いとしか言いようがない。



 愛想の良い姉ちゃんとは違い、宇宙人は意外とそっけない。


「ミンナ、そろったカナ。そろったら次に行くヨ」


 と、事務的に人数を確認してまた移動を開始した。

 僕らは事務所のドアの出て、廊下の向かい側の会議室の扉を開けた。



 薄暗い会議室に入ると、天井を指さしながら宇宙人が説明をする。


「銀色の月についたら重力が違うカラ注意してネ」


 天井には人類と宇宙人が戦った最後の時に、兵士達をさらったモノリスと同じものが浮遊している。

 5メートル四方の正方形に、円形の模様が描いてあるものだ。


 たしかにあの時にはこの装置を使い、兵士達を銀色の月の室内へとさらっていった。


 僕の想像とはだいぶ違った、ロケットやUFOで宇宙に行くイメージだったが……

 まあ、たしかにこの移動方法なら宇宙服などは要らないだろう。



 クラス全員がそろうと、宇宙人は手で合図を送る。

 すると天井が赤く光り出し、ひとりひとりと次々に空中へと吸い上げられる。


「うわぁ」「すごい」


 そんな声を上げながらクラスメイト達は移動して行く。


 やがて僕の番になった。


 ふわりと体が空中に浮く、ちょっとだけエレベーターに乗ったときの浮遊感に似ているが、それとは比較にならないくらいの感覚だった。


 そして僕はモノリスへと吸い込まれる。



 モノリスの表面に触れると、レースのカーテンをくぐり抜けるように、あっさりと反対側に抜けた。

 そして天地が逆になった。

 初めは混乱したが、すぐに慣れ、やがてふわりと銀色の地面に下ろされた。


 教室2~3個分の、ちょっとしたホールのような室内、外の景色は一切見えないが宇宙に来た事が実感できる。

 体が軽い。重力はあるが、かなり小さいと思う。


 先についたクラスメイト達は跳ね回っていた。

 僕も試しにちょっと跳ねると、かるく50cmは飛べてしまう。

 全力でジャンプしたらどうなってしまうのだろうか。怖くてそんな事はとても出来ない。


 いきなりヤン太が


「思いっきり飛んでみるぜ!」


 と言って、制止する間もなく踏み切った。


 4~5mぐらい飛び上がり、そこから急に落ち始める。

 地面に着く頃にはかなりのスピードになりそうだと思ったのだが、安全装置が働いているのか、ゆっくりと降りてきた。

 これを見ていたクラスメイト達は真似をしだした。無論、僕もチャレンジした。



「ソロソロ、地球を見に行くカネ? それとも時間いっぱいココで過ごすカネ?」


 宇宙人の一言で僕らは目的を思い出す。


「地球をみたいです」「僕も」「私も」


「デハ、移動するヨ、ついてきてネ」


 宇宙人の後を追いかけて、僕らは6角形の通路を進んでいく。

 普通に歩いていくだけなのだが、これがまた、歩きにくい。

 子供の頃に見た、月面を歩く宇宙飛行士のように、みんな手こずっていた。


 歩いた距離は200メートルほどだろうか。

 そこにはハッチが付いていた。



 ハッチの前で宇宙人が止まり、説明をしてくれる。


「これから観測室に入るヨ。

 観測室は超強化ガラスで出来ていて、周りを見渡せるネ。

 有害な光線はシャットアウトしてあるから、ほんのチョット実物と色が違うケド、98%ぐらいは本物の色ダト思ってネ」


 そういってハッチを開けて僕らを中に案内してくれる。



 そこは12面体の空間だった。

 ほとんどガラスで出来た温室のような部屋で、周りを全て見渡せる。

 眼下には本物の月が広がっていて、遠くの方には暗闇の中に青い地球が見えた。


 ヤン太とキングが思わず声を上げる。


「うぉーすげー」「it's beautiful美しい


 ミサキとジミ子も声を上げた。


「すごいわ」「綺麗」


 僕は何も声を上げず、まばたきを忘れて地球を見入る。



 そんな僕らに、宇宙人はさらにサプライズをしてくれる。


「今から15分間、重量を切るヨ。楽しんでネ」


 宇宙人が手で合図を送ると、足にかかる体重が消えていき、僕らの体はふわりと空中に浮く。


 無重量の中で僕らは宇宙を堪能する。


 青い地球と緑の大地。

 月にある無数のクレーター。

 暗闇の中にある太陽。

 遠くに見える土星の輪。


 僕らは夢のような時間を過ごした。それはとても言葉では表現出来ない体験だった。



 ……やがてこの時も終わり、僕らは帰路につく。


 歩きにくい通路を再び移動して、モノリスをくぐり抜け、地球へと戻ってきた。


 帰り際、姉ちゃんが僕らに声を掛けてきた。


「どうだった。楽しめた?」


 クラスのみんなは満面の笑みで答える。


「もちろんです」「すごかったです」「最高でした」



 そんな声が聞こえる中、ジミ子が余計な一言を言った。


「これ、お金になりますよ。お金を取ってツアーを組みましょう!」


「そうね、良いアイデアね。ありがとう」


 姉ちゃんが職権を悪用して、新たな商売を始めそうだ……

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