通信制限と解禁 2

 第6回目の改善政策から数日後、テレビ番組が変わりはしめた。


 今までニュースでは、事実と反する事が放送されると「ピーーー」という音で放送内容をかき消されていた。

 これが今回の改善により、間違った事が報道されると、正しい情報が字幕が出るようになった。



 これまでのニュースはこの「ピーーー」という音に対して非常に慎重だった。

 ニュースの内容に対して精査を重ね、この音が出ない様に努力を重ねてきたのだが、この改善がなされると、緊張の糸が切れたように、ニュースがいい加減になった。適当な報道でも、宇宙人の字幕が正してくれるからだ。


 結果としてニュースはバラエティ番組に近い感じになってしまった。

 ただ、これは『変わった』というより『以前の状態に戻った』というほうが正しいかもしれない。

 宇宙人の来る前は、たしかこんな感じだったと思う。



 『情報の間違いを正す』、このシステムはとても良いシステムに思える。

 だが、このシステムには致命的な問題があった。



 夕方のニュースを見ていた時だ、地方のアナウンサーの人が、畑に出向いて野菜を収穫する。

 そしてサラダなどの素材の味を生かした料理を作り食べ出した。いわゆる食レポというやつだ。


 宇宙人の来る前はニュース番組でも、こういった食レポは良くやっていた。

 規制後は全く放送していなかったが、報道の規制緩和により、こういったコーナーが復活してきたようだ。



 地方のアナウンサーは採れたての野菜をまるごとかじる、

「とても甘くてジューシーです」

 食レポでよく聞くセリフを言う。


 こういったときは大体「甘い」「柔らかい」「ジューシー」「香りが凄い」「あふれ出る」そんな決まりきった言葉が良く出てくる。

 今回も例外なく「甘くてジューシー」といった言葉が出てきた。


 僕はあまり食レポに興味がない。

 地元の物産なら見たかもしれないが、今回の中継先は遙か彼方のしらない村だったので、全く興味がわかずにチャンネルを回そうかと思った時になぜだか字幕が表示された。


『比較的、普通の味です』


 ん? なんだろうこの字幕は、何かのミスだろうか?

 このコーナーは録画済みのようで、そのまま番組は進行する。



 続いてアナウンサーは料理を食べて感想を述べる。


「こんな野菜、今まで食べたことはありません」


『昨年食べた、隣村の方のヤツのがおいしかったな』



 一通り料理を食べて、野菜の値段の話をする。


「これがたったの500円ですね、安いです!」


『500円はちょっと高い、せいぜい280円くらいの味』



 ……これは、食レポをしているアナウンサーの本音だろう。

 本心に無い事を喋っているせいで、宇宙人のシステムが『間違い』だと判断したようだ。


 テレビは急遽きゅうきょ、切り替わる。


 スタジオに戻り、司会のアナウンサーが平謝ひらあやまりをする。


「ただいま、VTRで大変、見苦しいコメントが表示されてしまいました。誠にもうしわけありません」


『何で俺が謝らなきゃいけないんだよ』


 表面上で謝っているが、本心では全く謝っていない。

 まあ、他人の事で無理やり謝らなくてはならないのだから、その気持ちは分からなくも無い。


 しばらくすると、テレビは『少々お待ちください』との表示を出して、中断した。


 まあ、あの状態だと表面上でいくら謝っても逆効果だろう。アナウンサーの本音がダダ漏れなのだから……



 だいぶ、時間が経ち、ようやく番組が再開する。

 そこには手書きのテロップで、『先ほどは申し訳ありません』と表示されているが、アナウンサーはその件には全く触れず、天気予報のコーナーへと移った。


 確かに天気予報なら余計な感情が入りそうにない。

 あの字幕は表示されないだろう。


 そう思っていたら、あっさりと表示された。


「東京の降水確率は30%、大阪は20%」


『ワレワレの予想デハ、東京57.2%、大阪17.3%』


 こちらの情報は表示されると助かる。

 おそらく宇宙人の予測の方が正しい数字だろう。


 ただ、気象予報士のバツの悪そうな顔が印象に残る。

 ニュース番組は最後の挨拶を終えると終わってしまった。



 この報道番組に対しての字幕はまだ良い方だった。

 お父さんが、あるお気に入りのドラマを見ていた時に、悲劇は起きた。


「犯人は田中に違いない、至急、指名手配をするんだ!」


 すると字幕であってはならない情報が表示される。


『真犯人は安田です』


「「「…………」」」


 これにはその場にいる家族一同、言葉を失った。2時間ドラマの冒頭10分を過ぎたあたりの出来事だ。

 いちおう、そのままサスペンスドラマを見続けたが、犯人は字幕の通り安田だった。


 父さんは、しばらくして酔っ払って帰ってきた姉ちゃんに説教をする。

 とんだとばっちりだが、まあしょうがない。



 後日、この字幕システムは宇宙人に掛け合って、報道番組以外は適用を免除してもらったようだ。

 報道番組はまた地味な編成に戻ったが、他の番組は無事に難を逃れた。


 ところがこのシステムを意図的に使って番組を制作した局がある。

 狂気のテレビ局、テレビ都京ときょうである。


 あの字幕を表示する設定で、地方のグルメレポートの番組を打ち出した。

 下手に素材や料理おだてようとしても字幕が出てしまう。

 この番組は字幕が出ないようするため、ガチンコのコメントが聞けると、たいへん好評を得た。


 僕はあまり食レポには興味がないが、この番組は毎週の楽しみになった。

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