第6回目の改善政策

 第6回の改善政策の発表の日。僕らは昼食を終え、テレビの前で待機をする。

 今日は何が発表されるのだろうか。



 12時になり、福竹アナウンサーと宇宙人が表れて番組がはじまった。


「第6回目の改善政策です。今週もよろしくお願いします」


「ヨロシクネ」


 さっそく今週のテーマに移るかと思ったがどうやら違うらしい、福竹アナウンサーが宇宙人に文句を言い出した。


「先週発売された『毛根生成クリーム』、私も使ってみたんですが、問題があります」


「何か問題があったカネ?」


「ええ大問題です」


 どうしたというのだろうか、やっぱり不毛の大地に新たな髪は生えなかったのだろうか……



「これを見て下さい」


 次に福竹アナウンサーは手を差し出す。

 その手のひらには、抜けたであろう髪の毛が握られていた。


 これは、生えるどころではなく、抜けてしまったのだろう。

 まさか、こんな副作用が出てしまうとは……



 だが、様子を見てると、どうもおかしい。


「こんな場所にも髪の毛が生えてしまいました……」


 福竹アナウンサーの手をよく見てみると、髪の毛を持っているのではなく、手のひらからびっしりと毛が生えている。

 あの育毛剤を使うと、どんな場所でも生やせるらしい……


 うちの洗面所に、使い捨てのビニールの手袋が捨ててあった理由がハッキリとした。

 この調子なら、お父さんの不毛地帯の緑化も成果が出ている事だろう。



 宇宙人が福竹アナウンサーに注意をする。


「マニュアルに『素手で触らないデネ』って書いておいたじゃナイ」


「手で丹念たんねんに揉み込んだ後、気がつきました。なんとかなりませんか、これ?」


「ショウガナイネ、ワレワレが毛が生えて来なくなるクリームを作るヨ」


「脱毛クリームですね。脱毛クリームなんですが事故を無くすため、髪の毛と眉毛とまつげを対象外にする事はできますか?」


「出来るヨ、いわば体毛と呼ばれる部分だけ毛が生えなくなるようにすれば大丈夫デショ」


「その仕様でお願いします」


「生やせと言われて生やしたら、今度は脱毛ダネ、面倒くさいネ」


 宇宙人がちょっと愚痴る。

 まあ、その気持ちは分からなくもない。



 福竹アナウンサーが番組を仕切り直した。


「ではあらためて。第6回目の改善政策です、今週はどのような政策を行なうのでしょうか?」


「今週は政策と言って良いのか分からないケド、情報規制の緩和を行なうヨ」


「規制していたのは『マスコミの事実以外の記事の禁止』と『SNS、チャット、掲示板の仕様』。この二つの規制を外すのでしょうか?」


「『SNS、チャット、掲示板の仕様』は完全に規制解除するヨ。

 ただ、ネットワークはチョットだけ改良したネ。

 通信インフラとかサーバ機能とか、ワレワレが見直しをしたからスピードが早くなってると思うネ」



「なるほど、わかりました。それではマスコミの方はどうなんでしょう」


「以前に『事実以外の報道』を規制した時、ワレワレの技術で音声を消したネ」


「そうですね。事実に反した事や、いい加減な憶測を言うと、音声が上書きされて消されていましたね」


「クレームが来てネ、何言ってるか分からないってネ。そこで改良することにしたヨ」


「どのような改良でしょうか?」


「とりえあず、この原稿を読んで見てネ」


 そういって宇宙人はテロップを出した。


 そこには『日本の人口は100億人』という文があった。



「それを私が読み上げば良いのでしょうか?」


「ソウネ、新旧二つのシステムをこのサンプルで違いを見せるネ、まずは今までの処理でやってみるネ」


「それでは行きます」


 咳払いをひとつして、福竹アナウンサーがこのテロップを読み上げる。


「日本の人口はピーーーー」


 事実と反する部分が打ち消される。


「デハ、新しいシステムに切り替えてやってみるネ。今度は字幕が入るヨ」


「わかりました、ではあらためて」


「日本の人口は100億人『正確な人口は約1.27億人』」


 間違った情報はそのまま伝わってきたが、すぐ字幕で正確な情報が表示された。



「こんな感じになるネ、間違った情報だと訂正が出るネ」


「なるほど、これはちょっと便利かもしれませんね。

 ニュース原稿の間違いや、アナウンサーの言い間違いがあっても訂正がすぐにされるわけですね」


「ソウネ、便利だと思うネ」


「もう一つ、ためしにやってみます。

 ここは東京です『放送中継は、兵庫県、明石市立天文科学館からお送りしています』」


 すぐに訂正されたテロップが自動で出てくる。


「マダ、試験段階だけど、難しい言葉や、難解な出来事とか、補足も入るネ」


「とても便利な機能です。良いですねこれは」


「ソウデショ、これからはこのシステムに切り替えるヨ」


「わかりました。今週は他には何かありますか?」


「それだけダネ」



「ではアンケートを取ってみましょう。みなさん回答をお願いします」


 今週の改善政策は大したことはなかった。

 ただ、SNSとチャットツールなどの解禁は僕ら高校生に取ってはありがたい。


 それにテレビの規制も音声の上書きでなく、訂正は非常に助かる。

 一時期のニュースはピーピーと何言ってるか分からないほどうるさかった。

 まあ、それだけ憶測や間違いだらけのニュース原稿だったのかもしれないが……



 僕は、今週のアンケートに答える。

 政策は『よかった』、『支持できる』に投票をする。


 しばらくするとアンケートの集計が表示された。


『1.今週の政策はどうでしたか?

   よかった 71%

   悪かった 29%


 2.プレアデス星団の宇宙人を支持していますか?

   支持する 76%

   支持できない 24%』



 支持率が上がっているが、これはおそらく先週の医療改革のおかげだろう。

 ああいった事はもっと積極的にやってもらいたい。



 福竹アナウンサーがアンケートの結果を見ながら言う。


「支持率上がって来ましたね」


「ソウダネ、トコロで『脱毛クリーム』の値段はどうしようカネ。

 『毛根生成クリーム』と同じで13,000円で構わないカネ?」


「いえ、それはありえません」


 ここから福竹アナウンサーの怒濤どとうの値下げがはじまった。

 番組の時間ギリギリまでつかい、『脱毛クリーム』は3,980円まで値段が下がった。


 しかし値切りに失敗して、発売停止なんて事になっていたら、福竹アナウンサーのあの手はどうなってしまったのだろうか……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る