スキャン 3
あの健康診断で引っかかったのは、この中では二人居る。
一人目はヤン太で『虫歯』と診断された。
二人目はジミ子で『近視』と診断された。
ジミ子も眼科で治療を受けているのだが、これがまた簡単だった。
話を聞いた限りだと、眼科に行って視力検査をした後、目薬を渡され、さすように言われただけらしい。
目薬にはナノマシンという極小のロボットが配合されていて、朝昼晩と目薬をさすだけで視力が回復するそうだ。
もちろん、この目薬に痛みなどは無い。ヤン太の虫歯の治療とは大違いだ。
ハンバーガーチェーンのメェクドナルドゥの店内で、ポテトをつまみながら、ジミ子はいつもは絶対外さない眼鏡を片手にもって周りを見回していた。
「どう? 視力がよくなってきた」
ミサキがそういうと、ジミ子がちょっと照れながら、
「うん、そこのポスターの文字くらいなら、眼鏡なしで読めるようになったよ」
7メートルくらい先のポスターを指さしながら、そう答えた。
それだけ見えていれば、日常生活では困らなさそうだ。
もう眼鏡は必要ないだろう。
僕はちょっと気になり、ジミ子に質問をする。
「回復する前の視力って、どのくらいだったの?」
「だいたい0.2くらいかな」
ジミ子がそう答えると、ミサキが疑問に思ったようだ。
「0.2ってどのくらい見えるの?」
「何となくは分かるよ、たとえば人が居ると見えてはいるけど『それが誰か』という事までは分からない。
人の判別がつくのは2~3メートルくらいまで近寄ってくれないと分からないね」
ジミ子が上手く説明してくれた。ミサキは腕組みをしながら、
「今まで大変だったんだね」
理解を示すように、大きくうなずいた。
するとジミ子からツッコミが入る。
「いや、いつも眼鏡掛けてたから。さっきの例えは眼鏡を掛けていない時ね」
「あっそうか」
ミサキが照れ隠しで笑った。そんなミサキに僕らはすこし失笑した。
ジミ子は外した眼鏡を片手でいじりながら、誰というわけでも無く話を投げかける。
「最近、ちょっと度がキツくなってきて、眼鏡のレンズを度が入って無いものに変えようと思うんだ」
「眼鏡なしでもいいんじゃない?」
僕がそう言うと、ジミ子は言いづらそうに
「そうなんだけど、不安というか、なんと言うか……」
言葉を濁しながら、ちょっと寂しそうにつぶやいた。
僕らが知っている限りだと、ジミ子は常に眼鏡を掛けていた。
今まで付き合ってきた眼鏡と離れるのが
すると、ミサキはその空気を読み取ったのか、ジミ子を後押しする。
「まあ、似合ってるし、あっても良いんじゃかな」
「ありがと」
ジミ子が珍しく感謝の意を表す。
それから僕らは、この週の改善政策の成果について語り合った。
「うちらは大した事は無かったけど、世界中で命が救われた人がいるよな」
ヤン太が真面目な顔で僕らに語りかける。するとキングが携帯を調べながら答えた。
「国内だけで、
「それは
僕がそう、補足をすると、ミサキが目を輝かせながら言う。
「すごいね」
それにみんな同意する。
「たしかにすごい」「
今度はジミ子がスマフォのニュースを見ながら、こう言った。
「うちの国は関係ないけど、お金を持っていない為に治療をうけられなかった多くの人達が助かったらしいよ。簡単な治療で治る病気は、その場で片っ端から治したみたい」
「へえ、凄いじゃん」
ヤン太がそう言うと、ジミ子が、
「動画もある見たいだけど、見てみる?」
「見ようぜ」「見てみたい」「見せてよ」
と、ジミ子のスマフォの動画をみんなで見る。
動画を撮影した場所は、辺境の国の田舎らしい。
そこは、まだ舗装されていない土の道に田畑が広がる、とてものどかな村だった。
農作業の合間の休憩だろうか?
畑のすぐ隣でピクニックシートを広げ、村人がお茶をしながら談笑している。
そんな中、例のL字型の銃に似た金属が突然出現した。
手当たり次第、その場にいる人間に向けて電撃を放つ例の物体。
一人は重症者だったのだろう、空中に吸い上げられて、どこかへさらわれていった。
あちこちから悲鳴が上がり、逃げ回ってパニックにおちいる村人達。
それまではノンビリと村の様子を撮影したカメラマンも慌てて逃げ出す。
動画はそこで途切れて終わってしまった。
「「「…………」」」
少し間があり、ミサキが擁護する。
「ま、まあ、治療できてよかったんじゃないかな」
「あっ、うん、そうだね」
僕も治療行為には賛成するが、もう少しなんとかならないものだろうか?
このあと、僕らの会話は普段の生活の話に戻り、一通り話題が出ると解散となった。
この週は、初めて宇宙人が人類に対して、まともな事をやってくれた気がする。
あの技術力を有効的に使ってくれれば、こんなにも素晴らしいのに……
後日、うちの洗面台に宇宙人が侵略してきた。
エイリアン
お値段たしか13,000円。それが3本も並んでいた。
これらの育毛剤は、パッケージが微妙に違う。
どうやらこの薬は宇宙人だけで生成しているのではなく、複数の製薬会社の協力のもとで作られているらしい。
はたしてこんなもので、うちの父さんの不治の病は治療できるのだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます