第5回目の改善政策 3

 宇宙人は医療費と労災と障害年金を削ると言い出した。

 その理由は『治療が可能だから』というものらしい。



 詳しい説明を福竹アナウンサーが聞き出そうとする。


「医療費ばかりでなく、労災と障害年金の削減をいう事ですが、そういった症状の治療は可能なんでしょうか?」


「可能ダネ、手足を失っても作り直せるヨ」


「具体的にはどのようにするのでしょうか?」


「この惑星で例えると、3Dプリンターで基本部分を生成。ナノロボットでソレを微調整。そのアト、転送装置を使って失った場所に強制転送、再生部分をくっつけるネ」


「再生医療にはどのくらい時間がかかりますか?」


「結構、時間が掛かるネ。手や足まるごと再生するとなると、一ヶ月は見て欲しいネ」


「視覚障害者とか、聴覚障害者なども治せるのでしょうか?」


「基本的に治せない病気はほとんど無いネ」


「わかりました、ありがとうございます」


 相変わらず規格外の技術だ。僕からみれば宇宙人には不可能は無いように見える。



 次に、宇宙人から衝撃的な発言があった。


「アト、それから、この技術はこの惑星の住人にも教えて行くヨ」


「本当ですか? それは助かります」


「ユクユクは、キミらだけで開発デキルようになるとイイネ」


 これは人類にとって思わぬプレゼントだ。

 もともと彼らは平和で友好的だった。これからの人類の未来は明るいかもしれない。



「タダ、ひとつ約束してほしいネ。君たちの研究者がすぐに成果を出せなくても、責めないであげてネ」


「もちろんですとも。私たちは気長に待ちます」


「それを聞いて安心したヨ。ワレワレの技術に追いつくには7万年ほど掛かる計算だから、気長に待ってネ」


「な、7万年ですか……」


「薬を作る技術ダケで無く、その薬の計算をするコンピューター。体の中に入って作業をするナノロボット。そして転送装置などの工業的側面の技術も必要だからネ」


「そうですね、それを考えると、そうなるかもしれませんね」


 ……人類と宇宙人の技術の差は7万年もあるわけか。

 いや、違った、様々な事を教えて貰っても7万年掛かるという事だった。


 言われてみれば確かにそうだ。特に転送装置の事を考えてしまうと、そのくらい掛かっても不思議では無いかもしれない。




 宇宙人は福竹アナウンサーに宣言をする。


「貧困者には無料で処置をシテも構わないけど、この国は裕福ダカラ、お金を取るよ」


「ええ、まあ仕方ありません。健康には変えられませんから、」


 一体、いくら掛かるのだろうか、再生医療は高いと聞いたことがある。

 腕や足を再生するとなると、何百万、下手をすると、何千万と掛かってしまうかもしれない。



「大体で良いので、どのくらい掛かるか教えて頂けないでしょうか?」


「ソウネ、最高級の牛肉と同じ価格、100グラム、980円でどうヨ」


「牛肉と同じ価格ですか…… ちょっと高いですね、もう少し安くできませんか?」


「デハ、100グラム、900円、コレ以上は負けられないネ」


「わかりました、あんまり安く買いたたくものでもないので、ここは900円でお願いします」


 こうして再生医療の値段がきまった。

 福竹アナウンサーは何でも値切るクセがあるようだ、スーパーの肉の安売りじゃないんだから、ちょっとどうにかしてほしい……



 そんな事を考えていたら、テレビ画面で、字幕が表示される。


『体重50kgとして、平均的な重量、腕一本 3.5kg、足一本 9.5kg』


 ざっとした計算だと、腕一本で3万円ちょっと、足一本で8万5千円くらいか。

 再生医療としては破格の値段だろう。

 こんな値段で手足が再生できるのなら、誰だって飛びつく。



 宇宙人が興味なさそうに話しを切り出した。


「アア、あと、どうでもイイと思うんだけどネ」


「なんでしょう?」


「ホント、どうでもイイと思うんだけどネ」


「ええ、なんでしょう?」


 福竹アナウンサーが不思議そうに返事をする。


「こんなモノを発売するヨ」


 宇宙人が右手に持った商品をカメラの前に差し出す。

 そこには、『毛根生成クリーム』という文字があった。


 となりで、ガタン、と大きな物音を立て、お父さんが立ち上がった。

 そしてまばたきをする事無く、テレビを食い入るように見ている……


「再生医療デサ、毛根、髪の毛の元を生成する薬なんだケド。

 ウーン、必要なのコレ、秘書に必要と言われたんだケド。本当に必要?」


「私も最近、その部分が気になってきました。その薬は人類に必要です!」


「コレ、発売すると支持率も上がるって言われたケド、本当ナノ?」


「上がるでしょうね。上がらざる終えないでしょうね!!」


「13,000円デ、売り出す予定なんだケド、こんな高いの売れると思ウ?」


「売れますよ、爆発的ヒットでしょう!!!」


「……まあ、イイヤ。この薬は3日後、お近くの薬局、薬店で発売するヨ」


「みなさま、お買い求めお待ちしています!!!!」


 ……福竹アナウンサーも結構ヤバイのかな、やたらと熱が入っている。

 一方、うちのお父さんは放心状態だ。これはこれで大丈夫なのだろうか?



 番組も終盤にさしかかる、福竹アナウンサーが時計をちらりと見る。


「それでは、そろそろアンケートの時間です。みなさんお答えをお願いします」


 いつもの質問が出てきた。

 今週の政策は『よかった』か『悪かったか』の質問と、宇宙人が支持できるかの質問だ。


 僕は今週は、『よかった』『支持できる』に投票する。


 最初、医療費削減とか言い出した時は、とんでもない事を言い出したと思ったのだが、蓋を開けてみれば非 常に良い政策だった。こういう事なら大歓迎だ。


 隣を見ると、お父さんも力強く、何度も何度も『よかった』のボタンを押し続けている。



 しばらくすると、アンケートの集計が出てきた。


『1.今週の政策はどうでしたか?

   よかった 97%

   悪かった  3%


 2.プレアデス星団の宇宙人を支持していますか?

   支持する 62%

   支持できない 38%』


 支持率が初めて不支持率を上回る。



 福竹アナウンサーが番組を締めに掛かった。


「いやあ、今週の政策改善の発表は誠に有意義でしたね。

 来週もよろしくお願いします」


「マタネー」


 福竹アナウンサーの笑顔は、これまでに見たことのない笑顔であった。

 そして、それ以上の笑顔を浮かべる人が、隣にいた。


「ちょっと出かけてくるよ」


 父さんはとびきりの笑顔で出かけて行った。

 発売は3日後だというのに……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る