第5回目の改善政策 2

 宇宙人は財源が足りないという理由で、医療費を削る政策を出してきた。

 削る内容は『健康診断の廃止、難病治療の廃止、悪性新生物ガンの治療の廃止』かなり滅茶苦茶な内容だ。



「ちょっと待って下さい、それは国民の健康に深刻な被害をおよぼします」


 福竹アナウンサーが急いで宇宙人の政策を全力で止めに行く。


「ナンデ? 何か問題があるノ?」


「問題はあります。たとえば難病治療の患者は治ることが極めて難しい病気にかかっており、国の補助が無いと治療が続けられません」


「廃止でイイじゃナイ」


「そんな…… 補助金を打ち切られたら死んでしまうかもしれません?」


「ナンデ?」


「命に関わる病気もあるからです」


「ソレナラ、補助金を打ち切るヨ」


「ちょっと、今までの話を聞いていましたか!」


 福竹アナウンサーが珍しく興奮している。

 ここで難病治療の補助金を打ち切られると、最悪の結果をもたらすからだ。

 なんとか福竹アナウンサーには説得をしてほしいが、宇宙人はまるで理解を示さない……



「チョット、落ち着いて。難病って治りにくいから難病って言うんだヨネ」


「そうです。その通りです。ですから治療費の存続を……」


「簡単に直ったら、難病って言わなくナイ?」


「ええ、まあ、そうですね。簡単に直れば難病ではないですね」


「ダカラ、簡単に直るから難病は廃止ネ」


「……それは治療法を確立したと言う事でしょうか?」


「まあ、ソウネ。骨とか脳とか神経とかダト流石に3~4ヶ月掛かるケド、残りは2週間ぐらいで治りソウネ」


「では、悪性新生物の治療の廃止はどうです?」


「ソレも問題無く直せるヨ」


「直せるんなら、はじめからそう言って下さい……」


 福竹アナウンサー、どっと力が抜けた様子だ。

 僕も胸をなで下ろす。


 どうやら宇宙人は人類の治療に乗り出すらしい。



 落ち着きを取り戻した福竹アナウンサー、再び宇宙人に質問を開始する。


「難病治療を開始するという話でしたが、いつ頃から開始しますか?」


「今日中に医療機関に通達を出すネ。

 医療機関の準備もあるカラ、部門によっては開始までに2週間くらいは掛かるかもしれないネ。

 緊急を要する患者は直ぐにでもワレワレが拉致して銀色の月で治療するけどネ」


 宇宙人の拉致はたまったものではないが、こういった事なら大歓迎だ。

 どんどん人類を拉致してやって欲しい。



「ところで私たちの医療機関でも治療できるものなんでしょうか?」


 福竹アナウンサーがたずねる。


「ほとんどの傷病は投薬のみで直せるヨ、特別な治療器具が必要な患者は、ワレワレが引き受けるけどネ」


「なるほど、よくわかりました。

 ところで先ほど『健康診断の廃止』と言っていた気がするんですが、これはなぜでしょうか?」


「傷病は早期発見が基本デショ」


「ええ、そうですね。それなので健康診断はむしろ必要だと思うのですが」


「それはワレワレで行なうネ。キミでテストするヨ」


「また、電撃を受けるのでしょうか?」


「診断だけなら要らないネ。ハイ、終わったヨ」


「え、いつの間に?」


 宇宙人は窓の外を指し示す。そこには変形前の監視ロボットがあった。

 距離は100メートルくらいは離れていそうだが、どのくらいの事が分かるのだろうか。



「エエト、メタボ気味、中性脂肪高め、血圧チョイ高め、胃が少し荒れてイル。腫瘍はナシ。左足にウオノメ、両足にミズムシ」


「……かなり正確ですね」


 どうやら的中しているらしい。

 こういった機械の性能の発表は助かるけど、テレビ放送での水虫のカミングアウトはちょっとかわいそうだと思った。



 宇宙人はさらに説明をする。


「24時間の監視を続けることも出来るケド、トリアエズ、週1回ぐらいの頻度でスキャンする予定ネ。

 もちろん重篤じゅうとくな患者は、常に監視をするケドネ」


「なるほど分かりました。これなら安心です。

 問題が出たら、最寄りの医療機関に行けば良いですか?」


「ソウネ。医療機関でもし治せなければワレワレが引き受けるネ」


「ありがとうございます」


 考えて見れば男性を全員女性にしてしまった科学力の持ち主だ、このくらいの治療は難なくこなせるのだろう。

 僕の隣に座っていた父さんは「宇宙人、なかなかやるな」と褒めている。



「アト、労災と障害年金も廃止ネ」


「ええと、それは治療が出来るから廃止という事でしょうか?」


「そうだネ」



 ……宇宙人のわかりにくい説明はまだ続く。

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