第5回目の改善政策 1

 日付は流れ、第5回の改善政策の発表会の日を迎えた。

 本日は祭日となっていて学校は休みだ。


 祭日でも、このテレビを見ることは義務づけられており、僕らの家族はテレビの前で待機をする。

 ちなみに姉ちゃんは仕事で居ない。



 そして12時になり、恒例の番組が始まった。



 福竹アナウンサーがいつもの挨拶を行なう。


「第5回目の改善政策です。今週もよろしくお願いします」


「ヨロシクネ」


 宇宙人もいつもの軽い調子で答えた。



「今週の政策はなんでしょう?」


「その前にちょっとイイ?」


「何でしょう?」


「先週の政策憶えてる?」


「ええ、ベーシックインカムの導入に関しての政策でしたよね」


「ソウ、その一環でロボットの派遣事業も憶えてるヨネ?」


「ええ、憶えてます」


「実は困っていてネ」


 そこまで言うと、宇宙人はため息のようなものをついた。

 福竹アナウンサーがすかさず質問をする。


「どのような事ですか?」


「この国では、あのロボットは『性能が低い』ってウワサになっているのヨ」


「ああ、その話は私も耳に挟んだことがあります。『働きが悪い』って話ですよね」


 どうやら良くない噂がながれているらしい。

 これは、もしかして姉ちゃんのせいなのだろうか?

 でも、運営には直接関わっていないという話だったし……



 僕の疑問をよそに宇宙人は説明を続ける。


「ソウネ、この国ではそういう話になってるネ。でも世界の評価は違うからネ」


「そうなんですか?」


「この国の雇用主が、必要以上に働かせようとするのヨ。

 コンビニの店員に例えると。『レジ打ち』『品出し』『清掃』の三人の人員が必要だとするじゃない」


「ええ、そうですね。そのくらいの人手は必要かもしれませんね」


「三人必要な人員をネ、この国の雇用主は労働者一人に全部押しつけようとするのヨ。ロボット一体ダケ雇って、バイト代くらいの料金で、仕事を3人分やれっていうの。

 ソレデ、作業が出来ないとなると、あのロボットは『性能が低い』とか言うの。おかしくナイ?」


「……おかしいですね」


「デショ。海外だとウチのロボットは『サボらないでナカナカよく働く』って高評価なんだけど、この国では『あまりよく働かない駄目ロボット』って低評価なのヨ。どれだけこの国の雇用主は労働者を酷使してるのヨ?」


「お、おかしいですね。確かにおかしい」


 福竹アナウンサーがなんとも複雑な顔をする。


「まあ、対価以上の働きをウチのロボットはしないカラ、その点は憶えておいてネ」


 どうやらこの国は労働者にとって過酷な環境のようだ。労働者は賃金以上の働きを強いられるらしい。


 となりに座っているお父さんの顔をみると、苦笑いをしていた。宇宙人の解釈はおおむね正しいのだろう。

 この状況は僕が大人になるまでに改善されるのだろうか……




 福竹アナウンサー少し強引に話を切り替える。


「ええと、それでは気を取り直して第5回の改善政策の発表に移りたいと思います。

 今週はどのような政策なのでしょうか?」


「今週の政策は、医療費のカットだネ」


「医療費のカットですか、なんでまたそのような政策を?」


「ベーシックインカムの導入で、国庫の財源が尽きるって役人に怒られたヨ……」


 先週に引き続き、また宇宙人は怒られたようだ。すこし顔がうつむいているように見える。



「そんなに財源がまずいのでしょうか?」


「この国は特にまずいネ。先ほど話したケド、ロボット派遣がイマイチなのが特にまずいネ。ヨーロッパの地中海沿いの国では、労働人口の3%が既にロボットなんだケド。この国では変なウワサが広まって1%未満ネ」


「そうですね。それに国民の気質にもよるのかもしれませんね。

 仕事にプライドを持っている人も多いでしょうし」


「ソコデ、医療費をカットするヨ。

 この国の税金は、ベーシックインカム税を除くと97兆円の歳入があり、医療費はそのうち42兆円を超えているからネ。ココをカットすれば一気にプラスに持ってけるネ」


「なるほど、では具体的にはどのようなカットを行なうのでしょうか?」


「健康診断の廃止、難病治療の廃止、悪性新生物の治療の廃止。ここら辺はカットダネ」


「いや、ちょっと待って下さい。そこはカットしてはまずいと思います」


「ナンデ?」


 宇宙人はとんでもない事を言い出した。

 医療費の大幅カットで病死者が大量に出てしまうかもしれない……

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