経営者と労働者 4
土曜の昼下がり、ミサキ、ヤン太、キング、ジミ子。
いつもの友人が僕の家に居る。
目的の一つは、先日買ったプレイディアステーション5のゲームをみんなでやること。
もう一つの目的は、なんと姉ちゃんに会う事らしい。
姉ちゃんは先日、ロボット人材派遣会社の
名義だけの社長らしいが、ジミ子は憧れを抱いてしまったようだ。
友人たちがうちに集まったのだが、一つ想定外の事があった。
ヤン太がスカートをはいてきたのだ。
話を聞くと妹さんのお下がりをはかせられているのだとか。
姉も大変だが、妹がいても大変そうだ。
僕は全員そろった事を確認すると、姉ちゃんを呼びに部屋にいく。
姉ちゃんには事前に話をしているので、大丈夫だろう。
二階に上がり、姉ちゃんの部屋の扉をノックするとドアを開けた。
すると、変な格好の姉ちゃんがそこにはいた。
どこで買ったのか分からない金の縁取りのガウン。馬鹿でかいワイングラスと赤ワイン。そして部屋の中にもかかわらずサングラスをしていた。
……これは姉ちゃんなりの社長のイメージなのかもしれない。
「どうよ弟ちゃんこの格好は。まだ通販で頼んだペルシャ猫のぬいぐるみが届いていないんだけど……」
「着替えて」
「えっ、わざわざ用意したのに?」
「着替えて、普通のシャツとジーンズで良いから」
「それだと、社長のイメージと違わなくない?」
「着替えて!」
「わかったわよ、しょうがないな……」
いつもの普段着へと着替えさせ、僕は姉を連れてみんなの元へと移動する。
「姉ちゃんを連れてきたよ」
ダイニングに集まっているみんなと顔合わせをする。
「どうも、姉の『
想定外に普通の挨拶をする姉ちゃん。
「お邪魔しています」「いえ、こちらこそお世話になってます」
かしこまる友人達。そこへ姉ちゃんはダメ押しをする。
「わたくし、このような者を務めさせて頂いております」
なぜか会社の名刺を友人に渡す。そこには
『プレアデス星団 地球改善政策実行委員 秘書室長 兼
プレアデス星団 ロボット人材派遣会社
という肩書きだけは凄い名刺があった。
「すげえ」「あの会社のCEOだゼ」「凄いです。憧れます」
次々と驚くミサキ以外の友人達。
これは自分の肩書きを自慢したいだけだ……
「ちょっとよろしいでしょうか。私、聞きたいことがあるのですが」
変な憧れを抱いているジミ子が姉ちゃんに食いつく。
もちろん姉は
「いいよいいよ、なんでも聞いてちょうだい」
「あやかさんの座右の銘はなんでしょう?」
「ざ、ざゆうのめい?」
「ええ、座右の銘です。ことわざのようなものでも良いですが……」
「ええと、それなら『
「なるほど『
さすがです」
「あっ、うん、そうかな~」
……姉ちゃん絶対に意味が分かってなかっただろう。
あの様子だと、おそらく寝ていたらどこからか宝物が転がり込んでくるぐらいにしか考えていなかったはずだ。
ジミ子の質問はまだ続く、
「この地位を築くまでに、どのような困難がありましたか?」
「困難? 困難ねぇ~。 ええと毎日が困難と言えば困難なのかな。
宇宙人の考えていることは良く分からない事が多いし、なにかと大変だよ」
……僕は姉ちゃんの考えている方が分からない。
記者会見の様子を見ている限りだと、宇宙人のほうがまだ論理的に見えてしまう。
「なるほど、心労が絶えない。過酷な業務なのですね」
「まあそうね~、そうかもね~」
都合のよい解釈をするジミ子と、それに乗る姉ちゃん。
意見が分からないと言いますが、週に二回くらいは宇宙人と意気投合して、飲みに行って、酔っ払って帰ってくるじゃないですか。
一度、
ますますテンションが上がったジミ子は続けてこんな質問をした。
「どうしたら、あなたのようになれますか?」
「う~ん。そうね。まず行動力が必要かな。考える前にまずは行動する」
確かに行動力だけは人並み外れたものがあるかもしれない。だが、まずは考えてほしい。
考えずに行動するなんて事は、下手をすると動物より劣る行為だ。
だが、ジミ子は姉ちゃんに都合良く解釈した。
「なるほど。今までの経験から、考えるまでも無く行動に結びついてしまうという事なのでしょうか?」
「そ、そんなところだね。だいたいフィーリングでね。なんとかなるよ」
なんとかごまかす姉ちゃん。
だが、これ以上の質問には耐えられないと悟ったのか、
「じゃ、じゃあ楽しんでってね~」
逃げるように自室に帰っていった。
「いやぁ~、やっぱりすごい人だったね」
なぜか
「まあ、すごい人だよ」
姉ちゃんの実態を知っているミサキが返事をする。
この二人の『すごい』には天と地ほどの差があった。
後日、世界一有名なニュース雑誌の
あのロボットが資産価値として認められ、名義だけとはいえ、姉ちゃんが世界一の資産家になってしまったらしい……
雑誌の中には、あの姉ちゃんが世界の偉人と肩を並べた写真が納められていた。
……人類は滅びの道を歩み出したのかもしれない。
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